『現代合衆国召喚』16


 アメリカから西の方角にあるユニスク大陸には、十一ヶ国の王国がある。各国は同盟を結んでおり、まとめてユニスク大陸王国連合と呼称されている。十一ヶ国の中で、一番強力な軍隊をもっているヴェーレン王国で各王国の首脳を集めた緊急会議が開催されていた。会議は、アメリカに対する不満や怒りが吐き出されていた。

 ヴェーレン王国の代表が発言する。

「あの国は、本来我々が買う筈だった鉄を買い占めました。こんなことが許されると思いますか?」

 その問いかけに居並ぶ全員が怒りを剥き出しにして答える。

「そんなことは、断じて許されない!」

「アメリカは、横暴すぎるぞ。このまま野放しにしておく訳には行かない。」

「制裁を下すのだ!」

 事の発端は、ユニスク大陸王国連合が買う筈だった鉄をアメリカがより高い値段で購入してしまったという出来事だった。ユニスク大陸王国連合はアメリカに抗議したのだが、アメリカからの返事は自分達より高い値段を提示すればいいだろうというものだった。この態度に激怒したユニスク大陸王国連合が今後の対応を練るためにこの会議が開催されたという訳である。

 他の代表者も次次に不満を述べていく。

「鉄以外の鉱産資源もアメリカに独占されつつある。このままでは……」

「鉱産資源だけではなく、食料等も独占されつつあるぞ。」

「アメリカは、我々を餓死させる気か!」

 事実、アメリカは大量の物資を自国の為に独占していっていた。

「我が国としては、この辺りでアメリカに思い知らせてやる必要があると思います。」

 ヴェーレン王国代表の提案に全員が食いついた。

「その通りだ。アメリカに一発ガツンと食らわせてやるのだ。」

「しかし、具体的には何をする?」

 その質問に素早くヴェーレン王国の代表が答える。

「アメリカの都市を襲撃します。」

 アーリア帝国にあった港街であるセティス市は、アメリカの御蔭で急速に成長した都市の一つである。良好な港を備えたこの港街は、アメリカと各国との貿易の一大拠点とされ、アメリカ人が多く住んでいる。というか、ほとんどアメリカの都市と化していた。現地人は、貿易関係者以外はほとんど追い出されていた。郊外には、アメリカ陸軍の基地もある。人口は、約二百万人。この都市が惨劇の舞台となった。

 惨劇の始まりは、突如として市内に侵入してきた三万人近い騎士達によるものだった。侵入してきた騎士達は、無差別に市民を虐殺し始めた。これに対して警察が反撃した。セティス市警察の総員数は、約六千人。市内各所にバリケードを築いた。警察の反撃は、熾烈を極めた。何しろ騎士達が襲った相手は、無実の一般市民である。怒り狂うのは、当然だった。さらに外地の都市だけあって、危険性も高いことからセティス市警察の装備は強力だった。携帯する拳銃は、治安機関用のフルオート射撃が可能なグロック18Cや軍でも採用されているベレッタが配備されていた。さらに凶悪犯罪や非常事態に対応可能なようにコルトM4A1カービン、MP5サブマシンガン、レミントンM870ショットガン、レミントンM700スナイパーライフル等の強力な銃器も配備していた。おまけにM113装甲兵員輸送車(12.7mm重機関銃M2は撤去されている)まで警察の装備として、配備されていた。正に警察軍と呼んでもいいぐらいの重装備だった。今、はからずもその重装備は役に立つ事になった。しかし、騎士達の方もワイバーンや戦竜によるブレス攻撃で警察に猛攻撃を加えた。小型魔道砲(迫撃砲と同等)による砲撃も行われた。

 セティス市警察に所属する警察官である彼は、最悪という言葉はこういう時に使うのだと思った。道路にパトカーを利用して構築したバリケードの陰でロングマガジンを装着したグロック18Cを撃っていた。クソッタレな状況だと思った。撃っても撃っても騎士達の数は、全然減らなかった。いきなり通りの向こうから戦竜が現れるとブレスを放ってきた。

「伏せろ!ブレス攻撃が来るぞ。」

 同僚に叫ぶとパトカーの陰に隠れた。次の瞬間、別のパトカーにブレスが直撃して爆発した。爆風で怯んでいる隙に騎士達が突撃してきた。

「調子に乗るな!地獄へ行け。」

 フルオートでグロック18Cを撃ち、突撃してきた騎士を言葉通りに地獄へ送ってやった。お返しにブレス攻撃がきて、警察官数人を吹き飛ばす。新しいマガジンを銃に装填しながら無線に向かって叫んだ。

「戦竜を何とかしないとやられてしまう。何とかならないのか。」

 この要請を受けて、セティス市警察は陸軍に救援を求めた。

 要請を受けた郊外の陸軍基地の司令官は、悩んだ。砲撃は自国都市だから無理。地上部隊は既に向かわせたが到着までに時間がかかる。その間に警察はやぶられてしまう。制空権は、敵のワイバーンが握っている。無理を承知で攻撃ヘリを向かわせることにした。

「攻撃ヘリだ。攻撃ヘリを向かわせろ。」

 命令が伝達され、AH-64Dアパッチ・ロングボウが出撃する。

 アパッチの福操縦士は、セティス市がヤバイ状態になっているということを上空から一瞬見ただけで、すぐに分かった。ブレス攻撃や砲撃で市内各所で火災が発生している。眼下で警察と謎の騎士達が激しく戦っている。戦竜を見つけて、捕捉する。

「クタバレ!」

 発射されたヘルフャイヤ対戦車ミサイルが直撃し、戦竜を肉片に変える。

「三番機が撃墜されたぞ。畜生、敵のワイバーンだ。」

 パイロットがそう告げる。

「スティンガーで撃ち落してやる。」

 ワイバーンを捕捉するとスティンガーを発射する。ワイバーンを操る竜騎士もそのミサイルに気が付いたらしく回避運動を行う。機動力を利用して必死に回避していたが、哀れミサイルが命中して爆発四散した。

「ははは、いい気味だ。」

 そう言うと次の目標を捜した。

 最高速度で勝るワイバーンと強力な武装のアパッチの間で激しい空戦が行われたが、損害を出しながらもアパッチは果敢に地上攻撃を敢行し、警察を悩ませていた戦竜を撃破していった。

 この御蔭で、警察は何とか持ち堪えて地上部隊が到着した。今まで、アパッチ以外の脅威を受けずに好き勝手に暴れまわっていた戦竜がM1エイブラムス戦車の砲弾で吹き飛ばされる。騎士達も米軍歩兵の圧倒的な火力の前に撃退されていった。ワイバーンも飛来した戦闘機により撃墜されていった。しかし、市街地の混戦で米軍も被害を出した。

 こうして、セティス市に攻め込んだ約三万の騎士は壊滅した。ワイバーンも全騎撃墜された。アメリカ側の被害は、市民に一万人以上の死者を出した。負傷者も五万人を越えた。市民を守ろうと必死に戦った警察は、三百名近くが死亡。重軽傷者九百名以上を出した。軍は、アパッチ四機が撃墜された。各種戦闘車輛を九輛喪失。戦死者二十五名。重軽傷者六十六名。都市も火災により大被害を受けた。インフラも壊滅的な打撃を被った。


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