『現代合衆国召喚』14


 怒り狂うアメリカ軍は、一斉にグルップス帝国へと進軍を開始する事とした。進軍に先立って国境付近に布陣しているグルップス帝国軍への航空攻撃が実行された。A-10サンダーボルトU、AC-130ガンシップ、B-52ストラトフォートレスが出撃した。護衛として、F-16ファイティング・ファルコンが出撃した。さらにE-3Cセントリーも出撃した。

 辺りはなだらかな丘陵地帯で、広く約八万のグルップス軍は展開していた。航空攻撃の格好の的だった。上空に現れた米軍地上攻撃機に対して、グルップス帝国軍は盛んに対空型魔道砲を撃っているがとんでもなく下手糞で全く命中しない。この世界の対空型魔道砲の命中率は、非常に悪い。射程距離も短い。おまけに砲弾の威力も弱く、ワイバーンならともかく米軍航空機に対しては、直撃でもしない限りダメージを与えられない。ワイバーンが飛来して必死に迎撃しようとしたが、護衛のF-16に次々と撃墜されていく。まるで七面鳥打ちだった。地上攻撃機群は、一斉に地上にいるグルップス帝国軍に襲い掛かった。大量の爆弾が降り注ぎ、片っ端から帝国軍を吹き飛ばしていく。

 米軍に楽勝ムードが漂っていた時に突然、地上から光線が延びると、それが命中したAC-130ガンシップが火を噴きながら落ちていった。さらに光線が発射されて別の機がギリギリで回避する。最初は、呆然としていた米軍航空部隊も我に返ると光線が発射された場所に爆弾を落としまくった。地形も変わる程だった。それから、光線は発射されなくなったが、泡を食った米軍航空部隊は高度を上げて、爆弾をばら撒くと撤退した。

 ダークエルフに尋ねると謎の光線の正体は、一種のレーザー兵器だということだった。特殊な魔石をエネルギーとしてレーザーを発射して目標を攻撃する。このレーザー兵器自体は、かなり前に発明されていたのだが、魔石の調達にべらぼうに金がかかるためほとんど普及していなかった。また、射程もそれほど長くない。米軍機を撃ち落すのなら割に合うと判断されて使用されたらしかった。グルップス帝国は、そんな大国ではないので一門でも持っていたこと自体が奇跡で、もう無いだろうとの事だった。しかし、これを恐れた米空軍は有効な対抗策を講じるまで出撃を控えることにした。

 今度は、米軍地上部隊が進撃を始めた。迎え撃つのは、爆撃ですり減らされた約六万のグルップス帝国軍。米軍は、M1エイブラムス戦車を先頭にして、歩兵を搭乗したM2/M3ブラットレー歩兵戦闘車、ストライカー装甲車、M113装甲兵員輸送車、ハンビー、トラックが続く。完全に機械化されていた。上空には、AH-64Dアパッチ・ロングボウが援護についている。この他に対空部隊も続く。

 進出してきた戦竜が、一斉にブレス攻撃をM1エイブラムス戦車に浴びせ掛けるが、全く通用しない。すぐに凄まじいお返しが来た。戦竜は、120mm滑空砲の一撃を受けて焼け焦げた肉の塊に変えられてしまった。そのまま、必死に抵抗する戦竜を次次に撃破しながら前進する。それまで、塹壕に隠れていた騎士が米軍戦車隊に勇敢に立ち向かい爆弾を投げつけまくる。さすがのM1エイブラムス戦車も破壊こそされなかったが、ショックで射撃統制装置が故障したり、駆動系統を損傷する等の損害が出始めた。たまらず、アパッチに援護を要請する。猛烈な火力で米軍戦車隊に近づく騎士を倒していく。しかし、一機が対空型魔道砲の直撃を受けて撃墜された。臆病風に吹かれてアパッチは、後退してしまった。今度は、車輛に乗って前進して来た歩兵が下車して戦闘を始めた。激戦となった。米歩兵は、手持ちの銃火器を撃ちまくり突撃してくる騎士を鎌で刈り取られていく葦の如くなぎ倒していく。そこに魔道砲の砲撃を受けた。これまで、温存されていたものだった。すぐさま、米軍砲兵隊も155mm榴弾砲やMLRSで応戦する。おまけにワイバーンまでが現れた。米軍対空部隊が迎撃する。もはや激戦では、形容出来ない程の戦いになってしまった。剣を振り翳して突撃してくる騎士を凄まじい弾幕を張り寄せ付けまいとする米軍との死闘となっていた。各種戦闘車輛の搭載している火器も火を吹き続けている。迫撃砲部隊が後方に配置されて、騎士に対して砲弾を送り込む。

この時、グルップス帝国は乾坤一擲の勝負をかけて、後方に温存していた四万の予備兵力を新たに投入していた。米軍がもう六万は、始末したと思っているのに騎士の数が減らないのは、その為だった。丘を越えて雲霞の如く湧き出てくる騎士を無我夢中で、米歩兵は撃ちまくった。凄惨な戦場が発生していた。砲弾の弾着と共に数人の騎士が吹き飛ばされ、銃弾の嵐が騎士達の体をズタズタに引き裂いていく。騎士達は、死山血河を築いた。余りにグロテスクな光景を前にして、神経の細い米兵の一部は撃ちまくりながら吐いていた。

 結局、激戦が続いたが兵力の切れたグルップス帝国軍は、敗走することになった。グルップス帝国軍は、総兵力の約十二万を全て失った。ワイバーンも全滅した。米軍も決して少なくない損害を出した。砲撃とワイバーンの搭載していた爆弾の直撃を受けて二輛のM1エイブラムス戦車が破壊され、コンピュータや駆動系を損傷したものが四輛。各種戦闘車輛十一輛を喪失。アパッチ一機が撃墜された。兵員三十三名が死亡。五十一名が重軽傷を負った。また、シェルショックになった者が十二名。この世界に来てからの初のまとまった損害を出した。今回の損害の一番の原因は、魔道砲とワイバーンによる攻撃だった。騎士達の攻撃による損害は、少ない。機関銃の待ち構えている所に白兵突撃を行っても死体の山を築いただけだった。

 その後、兵力を失ったグルップス帝国は降伏した。


inserted by FC2 system