『現代合衆国召喚』13


 アーリア帝国の下方に位置する島には、三つの国が存在する。島全体の大きさは、丁度前世界の日本位である。この島の形は、特徴的で中央がへこんでおり、V字型になっている。その中央に位置するのが、フォマルグ共和国である。左側には、アルゲフト王国。右側には、グップス帝国。この左右の国は、非常に仲が悪く、絶えず争いを繰り返していた。そんな中で悲惨を極めていたのが、フォマルグ共和国だった。まるで将棋の駒のように両国に取ったり取られたりしていて、常に争いに巻き込まれていた。ただ、一度占領されても粘り強い抵抗運動により必ず追い返してはいた。そんな中で、フォマルグ共和国の領内の山脈で金鉱が発見された。埋蔵量は、かなりあるとされていて、左右の国の欲望の的となった。

 ただし、この両国以外にもその金鉱を狙う存在がいた。それが、アメリカである。アメリカは、他国との貿易のための金貨の原料の金の安定した供給先を求めていた。そんな時にダークエルフからの報告にフォマルグ共和国の金鉱の情報が入ったのである。アメリカにとって渡りに船とは、正にこのことだった。さっそく、フォマルグ共和国に接触した。フォマルグ共和国もアメリカの強さは、耳にしており、左右の国から守ってくれるならという条件付きで、一部の金鉱の採掘権を譲るという返事が返ってきた。それに対してアメリカは、アーリア帝国に派遣していた部隊の一部をフォマルグ共和国に送り込んだ。

 アルゲフト王国首脳部では、突如として乱入してきたアメリカの対応に苦悩していた。今回の会議もそれについてである。王の側近達が次々と発言する。

「全く以ってあのアメリカとかいう国は、けしからんですな。我が国とグルップス帝国の争いに口出ししてくるとは。」

「その通りだな。進撃経路として重要なフォマルグ共和国を通るなとは。」

「フォマルグ共和国を通らずにどうやってグルップスに攻め込めばいいのだ。」

「おまけに金鉱を奪うには、アメリカと戦火を交えることになるな。」

出てくるのは、文句ばかり。黙って聞いていた王が突然発言する。

「余は、良い考えを思いついたぞ。グルップスとアメリカを戦わせるのだ。」

 王の思いつきは、好い加減だということを知っている某側近が疑問を投げかける。

「一体どうやるのですか?グルップスは、アメリカに戦争を仕掛けるつもりは無い様ですが…。」

 にやりと笑って王が答える。

「グルップスに化けて、アメリカを攻撃するのだ。怒ったアメリカはグルップスと戦争をする。恐らくはアメリカが勝つだがろうが、運が良ければ共倒れになるかもしれん。アメリカが勝ったとしても弱っているだろうから、我が軍で潰せるだろう。」

 その話を聞いた側近達が口々に賛同の声をあげる。

「おお、それは名案ですな。我が軍の損害も抑えられます。」

「さすがは、王様ですな。」

「王様万歳!!!」

 その光景を某側近は、実に冷ややかな目で見ていた。

「世の中そんなにうまくいく筈が無い。勝ったとしてもそれは、局地戦においてだ。戦争に勝つわけではない。」

 吐き捨てる様につぶやいた言葉は、王を持ち上げまくる他の側近の声に掻き消されてしまい、誰にも聞かれることは無かった。

フォマルグ共和国沿岸で一隻のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦フライトUAが沿岸警備を行っていた。艦内は、のんびりした雰囲気が漂っていた。沿岸警備なんてバカンス程度と考えていたからである。コーヒーを飲みながらレーダーを見ていた士官が、突然声を上げる
 
「高速の船舶が三隻接近して来ています。」

 その言葉に艦長が素早く反応する。

「何だと。大きさは?」

「その辺の漁船より少し大きい位です。その割には、速過ぎます。20ノット以上出てます。」

 艦長は、素早く考えを巡らせる。それだけのスピードを出すには、魔石を用いた推進装置が必要だ。しかし、高価なので使用する者は限られている。金持ちか軍隊だけだ。金持ちは、左右の国の海軍が小競り合いをする物騒なこの海域に来る筈は、無い。残るは、軍隊だけだ。問題は、どうしてこんなとこで推進装置を使用しているかだ。無限に使用できるわけではないし、第一にこんなとこで使う必要が無い。可能性としては、どちらかの国の海軍の艦艇が敵国にちょっかいを出しに行く。或いは、我が艦……。冗談じゃない。

「総員戦闘配置につけ。どっちの国かはわからんが、本艦を攻撃する可能性がある。」

 全員が緊張する。やがて、その船の姿が見えてくる。所々を鉄板で覆っており、中央に何かのカタパルトがある。明らかに軍艦だ。それが三隻横一列に並んで進んでくる。後部には、剣をモチーフにしたどこにでもありそうなグルップス帝国の国旗がはためいている。レーダーを見ている士官が距離を報告してくる。

「距離900、800、700、600…!」

 正面から接近して来ていたグルップス艦の中央のカタパルトから距離600になった瞬間、しゅぼんという音と共に光り輝く物体が射出される。合計三本。真っ直ぐにアーレイバーク級目掛けて突撃してくる。グルップス艦は、そのままUターンして逃走していく。

「近過ぎるぞ!回避は無理だ。衝撃に備えろ。」

 艦長の悲鳴じみた声が響く。次の瞬間、艦橋に一発が直撃した。猛烈な爆発を引き起こして艦橋を文字通り吹き飛ばした。火災が発生した。さらに一発が前部の砲に命中。砲を木っ端微塵に破壊した。もう一発は、変な方向へ飛び去った。しかし、さすがは米海軍である。直ちにダメコンチームが被弾箇所に急行して、消化活動を行った。幸いにも通信設備は、無事ですぐに救援を求めた。救援が駆けつけ、大破状態のアーレイバーク級を救助した。アメリカ本土へと後送されることになる。

 この事件は、あっと言う間に当事国のアメリカ、他三国に知れ渡った。グルップス帝国は、そんなことはしていないと必死に弁明したが、怒り狂ったアメリカは聞く耳を持たず、一方的に宣戦布告をした。

 アルゲフト王国は、目論見通りにいったことを大喜びして事態の推移を傍観することにした。ちなみに攻撃を敢行した艦は、沈められ、乗員は、待機していた商船に化けた艦に乗り込み、意気揚揚と帰った。

 ただ、アルゲフト王国は自分達の国に多数のダークエルフ諜報員が潜入していることを知らなかった。

 余談だが、アメリカは、技術漏洩を恐れて(ダークエルフの入れ知恵)もっぱら金、銀、銅貨で貿易を行っている。


inserted by FC2 system