『現代合衆国召喚』07


 出撃したアーリア帝國海軍は、事前にベルトリア王国のスパイから得た情報をもとに、偵察特化艦四隻が搭載しているワイバーン十二騎を索敵騎として発艦させた。米国海軍は、空母からE-2ホークアイを発艦させた。それにより、七十キロ先にアーリア帝國海軍を発見した。やや遅れたが、アーリア帝國のワイバーンも米国海軍を発見した。その後、執拗に付きまとい情報を送り続けた。

 七十キロ先に敵艦隊を発見したという報告が、アーリア帝國海軍提督に届くと、すぐさま今後の命令を出した。

「距離六十キロで、対艦型魔法の槍を全弾発射せよ。各艦は、攻撃準備をしろ。さらにそれと同時にワイバーン全二百騎も攻撃に参加しろ。」

 この命令を受け、アーリア帝國海軍の対艦型魔法の槍を搭載した各艦は、一斉に発射準備を行った。対艦型魔法の槍は、目標の方角さえ分かれば発射した後、生命反応感知センサーが働き目標まで誘導される。だからこの距離でも発射可能なのだ。

 米海軍司令官も同様の報告を受け取ると命令を出した。

「敵艦が、対艦型魔法の槍を発射したらF/A18ホーネット四十機で敵艦隊を攻撃させろ。」

 司令官の考えは、敵艦からの攻撃後に対艦ミサイルを積んだF/A18ホーネット四十機で猛反撃を行うつもりだ。この敵艦からの攻撃後というのは、公式にはアーリア帝國とは交戦状態ではないので、アーリア帝國に対する攻撃の大義名分を立たせるために先に攻撃させるのである。既に全機の発艦は、終わって上空で待機している。


 なお、対艦型魔法の槍の情報は既にダークエルフの情報収集により米国海軍に知られている。

 距離六十キロで、一斉にアーリア帝國海軍艦艇から対艦型魔法の槍新旧合わせて三百三十発が発射される。それと同時に発艦を終えて待機していたワイバーン二百騎も米艦隊に対し攻撃を行うべく突撃を行いはじめる。

 これに対し米艦隊は、F/A18ホーネット四十機を対艦攻撃に向かわせる。その一方で、各艦は目標振り分け作業を行う。

 発射された対艦型魔法の槍が、SM-2の射程である距離三十二キロに接近すると米イージス艦群は一斉に猛烈な勢いで、SM-2を発射しはじめる。発射煙で、艦が白く包まれた程である。発射されたSM-2は、定められた目標に食いついた。あっと言う間にあっけなくアーリア王国海軍の放った三百三十発の対艦型魔法の槍は、叩き落された。

 アーリア帝國海軍の提督は、信じられないものを見せられた。発射された対艦型魔法の槍が敵の放った対空型魔法の槍に全て落とされるというありえない光景だ。確かに対空型の魔法の槍で、迎撃するという考えはかなり初期からあり実験で可能ということは、証明されてもいる。しかし、あれだけの対艦型魔法の槍を撃たれたら全ての迎撃は、不可能のはずだった。その常識は、物の見事に提督の目の前で覆された。さらに別の災厄が襲い掛かってきた。敵の竜母から発艦した機械飛竜だ。

 F/A18ホーネット対艦攻撃部隊は、レーダーに目標を捕らえると一斉に対艦ミサイルを発射した。レーダーによって誘導されたミサイルは、そのまま目標へと突っ込んだ。対艦ミサイルの直撃は、アーリア帝國海軍艦艇にすさまじいダーメージを与えた。瞬時に轟沈したもの、大火災を起こしたもの、火災を起こしながらも進み続けるもの等の散々な状態である。大破を免れたものも次の一斉発射の前にあえなく止めをさされてしまった。浮いているものも沈んだも同然の状態だった。ここにアーリア帝國海軍の主力は、全滅してしまった。


哀れを止めたのは、母艦の全滅を知らずに攻撃を敢行したワイバーン二百騎である。彼等に対し米イージス艦群は、各艦搭載のMk45 5インチ単装砲を使い応戦した。この砲は、旋回性能や毎分二十発程度の発射速度という点で対空目標に対する攻撃は不向きとされていたが、速力たかだか六百キロのワイバーンに対しては、充分使用可能という判断から使用された。レーダー管制の一撃必中の猛砲火の前に彼等は、次々撃ち落とされていった。何しろ、各艦合わせて十八門もある。そして全滅した。たとえこの砲火を潜り抜けたとしてもCIWS近接火器防御システムが、待ち構えている。これもレーダー管制だからワイバーンは、すぐに撃ち落されていただろう。その時、レーダーが新たな目標を探知した。

「新たな対空目標を探知。数は、二百二十騎。敵ワイバーンと思われます。」

 担当の士官が報告する。

 その言葉に司令官は、首を捻る。敵の艦載ワイバーンは、全滅させた。とするとこのワイバーンは、どこから現れたんだ?すぐに答えに思い当たった。このワイバーンは、おそらくベルトリア王国の残存ワイバーンだ。数も丁度一致する。全く、休戦協定を結んだのにアーリア帝國に助けを求めたり、今回の海戦に飛び入り参加する行為には、不誠実という言葉がピッタリだ。とにかく、まずはこいつらを始末しよう。そう考えると司令官は、命令を出す。

「敵ワイバーンに対し先と同様に主砲を使用し迎撃せよ。」

 襲い掛かってきたワイバーンは、片っ端から撃ち落とされていった。奇跡的にこの砲火を潜り抜けたワイバーンが十二騎あったが、CIWSの前に蜂の巣にされた。

 こうして、この海戦は、米国海軍の圧勝に終わった。当然と言えば当然の結果だったが。アーリア帝國は、この事態に驚愕しすぐに米国と和平した。

 今回の海戦を引き起こしたのは、ベルトリア王国のせいだとして米国は、休戦条約を破棄して侵攻を開始することとなった。


inserted by FC2 system