『現代合衆国召喚』06


 ベルトリア王国は、先の米国に対する大規模攻勢の大敗北により、十万もの兵力を丸丸失った。ワイバーンの喪失も六百騎中、四百七十五騎という凄まじい損害を出している。兵力は、予備軍と徴兵を行い六万が揃ったが、実態は装備も足りず張子の虎状態だった。ワイバーンも無理やり若いものを徴用したり、王国中から掻き集めたものと生き残りのものを足しても二百二十騎である。こんな戦力で、再度米国に戦いを挑もうとしていたベルトリア国王の周りから、まともな者は次々と離れていった。十万の兵力とワイバーン四百七十五騎をもってしても大敗北したのだ。それが、弱体化した六万の兵力と二百二十騎のワイバーンで勝てるかどうかなど、単純に数の上から見ても子供だって分かる。現王の無能さに呆れるのは、当然だった。

 しかし、現王にはある秘策があった。それがあったからこそかろうじて王の地位を維持できているのである。その秘策とは、アーリア帝國への救援要請だった。

 アーリア帝國は、米国の南に海を挟んで存在する大陸を統治する国である。国土は、アメリカの三倍程。兵力は、約四十万。ワイバーン三千五百騎を擁する。実はベルトリア王国は、その配下の中の自治権を与えれた数少ない国の一つである。ベルトリア王国は、ちょっと強い子分のようなものである。

 アーリア帝國は、ベルトリア王国の救援要請に対し戦争に勝った暁には、米国の領土を全て貰い受けるという条件で海軍の派遣を決定した。この条件には、ある決定的な間違いがある。それは、戦争に勝ったら米国の領土を全て貰い受けるという点である。彼等の考えに負けるなどという考えは、一切ないのである。負けたら損するだけの戦争だ。負けて得する戦争などないが。

 とにかく、米国に対し海軍の全戦力を派遣することが決まった。その戦力は、大量の魔道砲をハリネズミのように張り巡らした一級砲撃戦艦五隻、一回り小さい二級砲撃戦艦八隻、さまざまな雑用を行う三級砲撃戦艦十隻、搭載ワイバーン四十騎の飛竜母艦五隻、ワイバーン三騎搭載の偵察特化艦四隻という戦力である。この他に支援艦艇十三隻がある。合計四十五隻にワイバーン二百十二騎というこの世界では、史上稀に見る大艦隊である。これ程の海軍戦力をアーリア帝國が持っている理由は、国土の四方を海が囲んでいて、ベルトリア王国のような場所に大規模な兵力を輸送する場合にこれ位の戦力が必要だったからである。この大艦隊の出撃は、大急ぎで準備された。

この事は、やはりダークエルフにより米国に知らされた。米国もこれら大艦隊の迎撃に空母機動部隊を投入することとした。その戦力は、通常艦載機七十二機、ヘリ六機搭載可能なキティホーク級航空母艦一隻、艦載機九十機を搭載可能なニミッツ級航空母艦一隻、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦四隻、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦十隻、原子力潜水艦二隻である。この他支援艦艇二隻。合計二十隻で、数の上ではアーリア帝國海軍に劣る。しかし、戦力としてはアーリア帝國海軍を全滅させてもお釣りがくると思われる。なお、アーリア帝國海軍との海戦に合わせて艦隊の編成は、改造されてこのようになった。艦隊の名前は、第一混成空母機動部隊とされた。

 すぐに両者は、同時に出撃した。かつてない程、激しい海戦が行われるだろう。

 ベルトリア王国のスパイから米国とやらも艦隊を出撃させたそうだが、その数は僅か二十隻だ。我々の四十五隻の前には、到底かなうまい。アーリア帝國海軍の提督は、そう考えて事態を楽観していた。敵艦隊を鎧袖一触で葬り去った後は、米国とやらに艦砲射撃とワイバーンによる空襲で、ボロボロにしてやる。そんな考えを抱きながらも艦隊の指揮をする。

 今回アーリア帝國海軍は、新兵器も投入する。それは、二種類の対艦型魔法の槍である。

 二種類の対艦型魔法の槍の性能は、新型高性能タイプの威力は、七百五十キロ爆弾相当。射程距離は、約百キロ。速度は、時速八百キロから九百キロ。弾数は、百発。従来タイプの威力は、五百キロ爆弾相当。射程距離は、約七十キロ。速度は、時速七百キロ。弾数は、二百三十発。合計三百三十発である。

 これが、彼等の自信の源と言っても過言ではない。

 後にアーリア帝國紛争と呼ばれるこの海戦にアーリア帝國海軍はやる気マンマンで米国海軍に挑むのだった。


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