『現代合衆国召喚』05


 ベルトリア王国の十万の兵力による、大規模攻勢は迅速に実施された。なお、動員軍二万五千人の兵力が急遽加わったため、十万となった。ベルトリア王国軍から米軍前進基地まで、約六キロ。王国軍が一キロ進んだ時、数え切れない程の航空機が彼等の上空に現れると襲いかかり始めた。

 前線からの報告で敵が前進を始めたと聞くと空軍は、地上攻撃能力のある航空機を向かわせた。

 その航空機の内訳は、護衛として前回の空中戦と同様の装備を行った、F-22A三十機、地上攻撃機としてA-10サンダーボルトU、C-130輸送機、B-52ストラトフォートレスが出撃した。この他にE-3Cセントリー(早期警戒機)も出撃している。なお、敵の航空戦力、対空戦闘能力の壊滅が確認されしだい、攻撃ヘリAH-64Dアパッチ・ロングボウも戦闘に加わる。予備兵力として爆装したF-15C/D、F-16が待機する。

 これらの地上攻撃機群は、E-3Cセントリーの指示のもと一斉に進軍を始めたベルトリア王国軍に襲いかかった。

 クラスター爆弾、FAEB(燃料気化爆弾)、デイジー・カッターありとあらゆる爆弾が発生させる爆炎が王国軍を包み込む。通常爆弾も雨霰のように投下される。B-52ストラトフォートレスは、絨毯爆撃を行った。地上にいた王国軍をまとめて吹っ飛ばしていく。地上は、爆炎地獄とかした。王国軍は戦竜、魔道砲を持っていたがそれらは、いい目標となりすぐに壊滅状態となった。魔道砲には、対空型もありそれまで、危険と判断され出撃していなかった攻撃ヘリAH-64Dロングボウ・アパッチも出撃した。これも凄まじい火力を発揮した。爆弾を使い果たした機は、機関砲による機銃掃射を行った。その被害も甚大だった。何しろ、A-10サンダーボルトUのそれは30mmガトリング砲である。途中、何度かワイバーンが現れたが、護衛のF-22Aに叩き落とされた。


山の上に設置された司令部では、司令官が王国軍の上空を乱舞する味方航空機を見つめていた。自ら招いたこととはいえ彼等が気の毒になってくる。それでも彼等は、奇跡的にまだ四万の兵力を残していた。あれだけの空爆を受けたことから見れば、奇跡だ。その理由は、FAEBが輸送中の事故により予定の数を揃えることが出来なかった等の事情があったからだろう。予定数が揃っていれば、彼等は全滅していたかも知れない。それ程の威力が、FAEBにはある。彼等は、狂ったように突撃を行っている。死体の山を築きながら。気が進まないが仕方ない。司令官は、新たな命令を出す。

「地上兵力も戦闘に参加する。まず、砲撃を実施せよ。」

 命令が伝達されると砲撃準備を行い始める。

 砲撃準備が終わると、砲兵隊長が叫ぶ。

「全門、撃ち方始め!」

 距離三万メートルで、砲撃が開始される。その実行者は、M109 155mm自走榴弾砲、M198 155mm榴弾砲である。弾着と共に数十人の騎士が吹き飛ばされる。が、それでも彼等は突撃を敢行してくる。
 
 距離一万五千メートルで、M1エイブラムス戦車も砲撃を加えはじめる。120mm滑空砲を迫って来る王国軍の騎士の群れに直接照準で、ブチ込んだ。

 距離一万メートルで、MLRS(多連装ロッケトシステム)と大型迫撃砲が砲撃に加わる。MLRSの威力は、凄まじく王国軍の騎士をバタバタ倒していった。何しろ、一発で二百平方メートルを制圧可能な兵器だ。この時点で、王国軍の兵力は二万を切っていた。それでも、彼等は突撃をやめなかった。

 距離五千メートルになると重機関銃と小型迫撃砲にM2/3ブラッドリー歩兵戦闘車、LAV25軽装甲車等の各種戦闘車輛による攻撃も開始される。次々に突撃を行う王国軍は、将棋倒しでなぎ倒される。

 さらに距離が縮まり、M16A2、M9ピストル、軽機関銃等の小火器、手榴弾、カールグスタフ、Mk19自動擲弾銃が火を噴き始めるにあたってついにベルトリア王国軍は、全滅した。十万もの兵力が、文字通り全滅である。この他に航空支援として配備されていたワイバーン、ワイバーン・ロード合わせて百七十五騎を失った。


 ベルトリア王国軍司令部は、信じれない事態に虚脱状態に陥っていた。いや、既に自軍が空爆により炎に包まれた時からそうなっていた。途切れることなく降り注ぐ爆弾になすすべもなくやられていく自軍を見れば、誰だってそうなるだろう。今回の王国軍の全滅は、撤退をせずに突撃を敢行した要因が、一番大きい。途中で、撤退すれば少なくとも全滅は、無かっただろう。司令官は、半狂乱になりつつも執拗に突撃命令を出し続けた。そのせいで、王国軍は突撃を続けてしまった。結果、全滅してしまった。当然、大量の負傷者が出たが、そのほとんどが重傷者で助けることができなかった。しかも、軽、中傷者がいたにしろ戦闘終結まで放って置かれたので、手遅れになっていた。あれだけの攻撃を受けたので当然だった。結局、生き残ったのは戦闘に参加しなかった後方支援部隊と指揮官だけだった。戦闘に参加した者は、全員戦死した。司令官は、味方の全滅を知ると卒倒した。

 その後、ベルトリア王国は、遺体の回収を名目に暫定的ながらも停戦条約の交渉を行い、米国はそれに応じた。これにより第一次対ベルトリア王国戦争は、終わりを告げる。これでベルトリア国王は、反省するかと思ったが、全然そうではなかった。反省どころか残存兵力を集結し、まだ戦いを挑むつもりだった。一部の良識を持った軍関係者が、説得しなければそうなっていただろう。この後、ベルトリア国王は、懲りずに新たな戦いを引き起こす。他国の力を借りて。


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