『現代合衆国』04


 ベルトリア王国のワイバーン三百騎による前進基地に対する空襲は王国内に潜伏しているダークエルフにより、事前に米国に察知されていた。空軍はこの事態に対し迅速に戦力の集結を行い、空襲に備えていた。

 そして、ダークエルフからの運命の通信が届く。

「ワイバーン三百騎、全騎離陸し集結。貴国に向かいつつある。目標は、貴国の前進基地なり。」

 この通信を受けた空軍は、ただちに待機していた戦闘機を離陸させ、迎撃に向かわせた。その数は、百機。敵の三分の一だが、それでもこの世界のワイバーンに対しては充分すぎる程だった。

 この世界で初めての化学技術を使用した空戦の幕開けだった。

 今回の敵ワイバーン迎撃作戦に参加する機種は、F-15CD二十五機、F-16四十五機、F-22A三十機となっていた。この内、F-22Aは最新鋭機でこの数をそろえるのに苦労した。今回の作戦には、本来ならステルス能力が落ちることからミサイル等を積まない翼下にもミサイルを積んで出撃した。理由は、単純でこの世界にはレーダーなど無いからだ。したがってステルス能力よりミサイルが優先されたのだ。同様の理由で機関砲の発射口もタイムラグを無くす為に開いた状態とした。翼下にも搭載することにより中距離空対空ミサイル十四発を搭載することができた。さらに短距離空対空ミサイル二発も搭載された。

 ベルトリア王国のワイバーン三百騎の内訳は、ワイバーン・ロード百騎、残る二百騎は量産型ワイバーンである。

 それ程飛ばない内に機上レーダーに敵ワイバーンを捕らえた。米国戦闘機群の隊長は、すぐに指示をだす。

「全機に告ぐ。射程内に敵を捕らえたら私の指示で一斉発射せよ。各隊長は、目標振り分け作業を行え。」

「了解。」

 あっと言う間に両者の距離は、縮まった。何しろ片方は、マッハの速度を誇っているからである。一方、ベルトリア王国側ワイバーンは、量産型の速力六百キロに合わせている。

 射程内に入ったところで、隊長は命令を出す。

「全機、各目標に対し攻撃を実施せよ。」

「了解。攻撃開始!」

「中距離空対空ミサイル発射。」

機体から、ミサイルが白煙をひきながら発射され目標へと突進していく。そして目標のワイバーンを命中と共に真っ赤な火の球に変えた。竜もそれに乗る竜騎士も即死した。

 この第一一斉発射によりきっかり百騎のワイバーンを叩き落とした。正に百発百中だった。彼等は、運悪く性能の良いワイバーン・ロードを前面に出していたので、いきなりワイバーン・ロードを全騎失うこととなった。後には、量産型の二百騎のワイバーンしか残っていない。この攻撃で勝敗は、決したようなものだ。元々勝敗は、目に見えていたが。

 ワイバーン部隊の隊長は、何が起こったのか理解できなかった。敵の機械飛竜が一斉に魔法の槍を発射したと思ったら、前にいたワイバーン・ロードが信じられないことに全騎炎に包まれた。そんなはずは無い。我が王国が誇るワイバーンがこんなに簡単にやられるなど。しかも、自分達より高性能のワイバーン・ロードだ。呆然としていた彼のワイバーンにもミサイルは、向かっていき直撃した。避ける暇などなかった。たとえあったとしても無駄だっただろう。何しろアクティブレーダーホーミングだ。

混乱していたワイバーンにも容赦なく第二、三一斉発射が行われた。目標割り振りをする暇が無かったので、だぶってしまったところがあったためわずかに敵ワイバーンが、残った。
 
 隊長は、敵ワイバーンが壊滅状態になり逃げようとしているのを見て、新たな命令を出した。

「敵残存騎を逃がすな、全機攻撃続行。」

米国戦闘機群は、その言葉に残存ワイバーンに対し、止めと言わんばかりにミサイルを射ち込んだ。

 隊長は、敵の全滅を確認すると帰投命令を出した。

「全機に告ぐ。敵は、全滅した。これより帰投する。」

「了解。」

 今回の空戦とも呼べない戦いは、ベルトリア王国側ワイバーン三百騎の全滅で幕を閉じた。一騎も生還できなかった。正に全滅だ。そのことをベルトリア王国は、一騎の帰還もないことから判断した。

 この報告を受けたベルトリア王国は、最初信じられずに何度も確認した程の衝撃を受けた。なぜなら、王国の保有していたワイバーンの半分が失われたからだ。しかも、ワンサイドゲームでだ。おまけに敵には、全く損害を与えていない。ベルトリア王国には、悪夢としか思えない事態だった。この報告を受けた国王は、怒り狂った。そして、今度は国境に集結した七万五千人の地上兵力による大規模攻勢を行えと命じた。この命令は、さらなる悪夢を引き起こすこととなるが、特に反対も無くあっさりとその命令は伝達された。理由は、何と言ってもその大兵力にある。これだけの数の兵力なら……と考えるのは、ある意味当然だった。だが、彼等は近代技術の軍隊の強さをこの後思い知ることになる。嫌と言う程。そして、最大のミスを犯したことにも。


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