『現代合衆国召喚』03


 先の会議で、決定された隣国ベルトリア王国への外交団派遣は迅速に行われた。タイコンデロガ級一隻(ダークエルフ救出作戦に参加した艦と同一)をチャーターし、それに外交団が乗り込み出発した。外交団の員数は十名。そのまま、ベルトリア王国の首都の港に入港。アメリカ合衆国の使者だと理解させるのにかなり苦労したが、何とか理解させ外交団を降ろした。そして、王と謁見することとなった。

 贅沢としか言いようのない造りの宮殿に案内された外交団は、王座にふんぞりかえっている王の前に引き出された。外交団の代表が話し出そうとするといきなり側近の一人がわめいた。

「貴様等、まさか王に対し臣下の礼をとらないつもりか!」

何のことだかわからない外交団は、ポカンとしてしまった。他の側近が呆れながらも説明する。

「床に両手をつき、頭も床にこすりつけるのだ。」

早い話が、土下座だった。理解すると同時に外交団は、多少怒りながらも抗議する。

「我々は、貴方達の属国ではないのですからそのようなことは行いません。」

その言葉に猛烈な抗議が返ってきた。

「そんなことは、関係ない。王の前では何人もこの行いをしなくてはならないのだ。」

「ふざけるなよ、何て態度だ。」

「全く貴様等の国の程度が知れるな。」

これだけでもう交渉がおじゃんになりそうだった。

「まあまあ、下輩のやからだから大目に見てやりましょう。」

誰かがこう言ったので、とりあえず収まった。外交団は、かなり気を悪くしたが気を取り直して交渉に入る。

「我々の国は、貴国との相互不可侵条約を結び、協力しあう考えがあります。貴国の同意さえ得られればすぐにこの提案は、実施できます。どうしますか?」

その言葉にはっきりと嘲笑が感じられる口調で王が答えた。

「相互不可侵条約だと?笑わせるてくれるな。突然現れた得体の知れない国と我が王国が対等に付き合えると思っているのか?馬鹿が。丁度、全土を平定して余力を持て余していたところだ。貴様等の国も我が王国の一部としてやろう。貴様等が抵抗すると言うのなら、仕方ない戦争だな。分かったな?」

その言葉に外交官が、真っ青になりつつも抗議する。

「それでは、あまりにも横暴すぎです。その様な事は認められません。考え直して下さい!」

「ふん、もう遅い。国境に兵力の集結を命じた。配下の中小国の動員も行っている。貴様等には、服従か負け戦かのどちらかの道しかない!衛兵、こいつらを捕まえろ。見せしめに処刑してやる。」

どかどかという足音と共に衛兵がやって来ると悲鳴を上げながら逃げ回る外交団達を捕まえる。

 この様子は無線で艦に伝えられており、全速力で艦は港を離れた。ワイバーン十騎の追跡を受けたが、本国からの指示でSM-2により全騎撃墜した。

この事件は、衝撃と共にアメリカに激しい怒りを覚えさせた。転移直後から、米政府は国民に一部の情報以外は全て伝えていた。そのためこの事件を知った米国民は怒り狂い、ベルトリア王国に断固たる決意で制裁を下すべきだと主張した。米政府はその主張に応え、ベルトリア王国側の国境に集結しつつある敵軍に対しこちらも陸、海、空の戦力をもって対抗すると発表した。すでに陸軍兵力は、ベルトリア王国に対しこちら側の国境に前進基地を築いているとも発表した。空軍も同様に簡易飛行場を建設した。海軍は、主力艦艇を近海に派遣した。こうして、ベルトリア王国に対し強力な戦力が指向された。

 大統領はこう発言した。

「今回の事件は、横暴かつ傍若無人な態度をとったベルトリア王国に全ての責任がある。彼等は、我が国を蹂躙しようとしているがそんなことは断じてさせない。犠牲になった外交官達には、誠に申し訳ないと思っている。責任の一端は私にもある。それを挽回する意味でも私は、ベルトリア王国に対し正義の鉄槌を下すことを決意した。」

 後に第一次対ベルトリア王国戦争と呼ばれることとなるこの戦争は、ベルトリア王国側のワイバーン三百騎による前進基地への空襲から始まった。

 なお、ダークエルフは多数の諜報員をベルトリア王国に派遣し情報収集を行っており、ベルトリア王国の行動は米国に筒抜け状態だった。ベルトリア王国だけでなく、世界中の国々に潜伏しているダークエルフが、出来うる限りの情報収集を行い始めた。さらにドワーフとの同盟もダークエルフの仲介の御蔭でうまくいった。今後、彼等には資源の発見と魔法に関する知識を米国に教えてもらう。石油の採掘に関してはアメリカの強力な力ですでにプラットフォームが建設されており、本格的な採掘もすぐに行われるとのことだ。鉱産資源もドワーフの協力により、採掘が開始される。これらが、軌道に乗れば資源に困ることはない。


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