『現代合衆国召喚』02


 今回の作戦に参加する三隻の艦艇の内訳は、タイコンデロガ級一隻、アーレイバーク級フライトUA二隻である。

 なお、余談だがこの世界への転移の際、各国に駐留中の部隊が、基地ごとアメリカ国内の各所に転移された。今まで何も無かった場所に忽然と基地が出現したので、大騒ぎだった。海軍艦艇も例外ではなく、艦艇が各港に突然出現した。その混乱のせいで、母港に戻れない艦が多数あり、彼等はそれぞれの場所で任務に就いている。

 三艦が当該海域に集結すると作戦が、開始された。格納庫からSH-60Bが引き出され、ローターを騒音と共に回していく。そして、発艦する。そのまま、一直線に座礁船に飛行していく。

 機長は、不安だった。何しろこの世界の人間との初めての接触だ。いきなり、攻撃を受けたらどうしよう等と考えずには、いられない。やがて、水平線に黒い点が見えたと思ったら、みるみる内に船の形になっていく。そのまま、接近し、問題の船の上でホバリングする。近くで、見るとその船は、やはり帆船で三本のマストが並んでいる。唯、布はボロボロで木造の船体のあちこちに傷がある。甲板には、アジア人と同じ位の色の肌をした人間が二十人以上集まり、ほうけた表情でヘリを見つめている。妙に耳が尖がっていた。中央(政府)から、派遣された高官がメガホンを使い話しかける。

「我々は、アメリカ合衆国海軍の者だ。貴方達の所属を明らかにしてほしい。」

言葉が通じる事は偵察隊の報告から分かっていた。少ししてから、大声で返答があった。中年の野太い声だった。

「聞いたことの無い国だ。貴様等は、ベルトリア王国の配下の者か?それとも、アーリア帝國の手の者か?」

「そのような国は知らないし、関り合いも無い。」

「本当か?貴様等の国は、何処だ!」

何故かは、知らないが随分いきり立っていた。

「君達の後ろに見える大陸が、我々の国だ。最初の質問にもどらさしてもらう。貴方達は、何者だ。」

それからの返答には、少し間があった。今度は、随分戸惑った声で返答がある。口調には、微かな絶望感が、感じられる。

「我々は、見てのとおりダークエルフだ。」

その言葉に高官は、固まってした。今度は、自分達が戸惑う番だった。エルフなんて神話に登場するような存在だからだ。それでも、どうにか言葉を続ける。

「その、貴方達は本当にダークエルフなのか?」

「そうだ。見れば大体分かるだろう。」

 高官は、頭がクラクラしてきた。ダークエルフだって?それに最初の態度や自分達について話すときの態度から察するに何か訳有りらしい。これは、こんなまどろっこしい会話ではなく、じっくり話し合う必要がある。

「もう少し詳しく話をしたい。貴方達の船に移ってもいいですか?」

彼等は、何か話し合ってからこたえる。

「いいだろう。但し、一人だけだ。」

「了解した。」

そう言って、ヘリをさらに下降させロープを甲板に降ろし、滑り降りた。

 それからは、高官が一人で彼等と話し合いをした。

 それをまとめると、彼等(ダークエルフ)はこの世界では迫害にあっているらしい。高官は、独自の判断で、自分達に起こった異変を全て話し、彼等に危害を加えることはないと説得した。その御蔭で彼等は、自分達のことも素直に話した。彼等は、ここより北西へ数十kmの場所にそれなりの大きさの島々が並ぶ諸島に隠れ家を持っているらしく、そこには、仲間が千人近く居ると言った。他にも世界中に二千五百人近くの仲間が、居るそうだ。そこに向かう途中で、嵐に遭遇し、その結果ここに座礁してしまったと言う事だそうだ。

 そして、救助については是非ともお願いするとのことだった。船の中には、八十六人のダークエルフが居るとのことだ。食料が、無くなりけていて、ピンチだった。

 事態を無線で、報告すると混乱しながらも、救助を行うこととなった。

 すぐに後続のSH-60B五機が、やってきてダークエルフをピストン輸送で、救助した。その後、三隻は最寄の港に寄港すると、中央からの命令でダークエルフをすぐに首都へ航空機で送った。

 政府では、すぐに緊急会議が開かれた。

 大統領が会議が始まってすぐに話す。

「諸君、事態は、説明した通りだ。今後、彼等を如何にすべきかね?」

今までいろいろ忙しく、会議に参加できていなかった国防長官が、発言する。

「とりあえず、彼等の知っていることは、全て聞き出しました。その中で、特筆すべきことは、元カナダがあった場所にある唯一我が国と国境を接している国のことだと思います。」

「続けてくれ。」

大統領が、続きを促す。

「その国の名は、ベルトリア王国と言うそうで、幾つもの中小国を配下に置き、それらを含めると国土は、カナダよりも一回り小さく、戦力は、十万以上の兵とワイバーン、ワイバーン・ロード合わせて、六百騎。このワイバーンというのは、以前偵察隊の撮った写真の中にあったドラゴンのことです。攻撃は、ブレス攻撃と言うらしく、火球を発射し目標を攻撃します。最近、我が国の領空侵犯を犯しているのは、コイツです。速力七百五十キロをワイバーン・ロードはもち、ワイバーンは、性能がおとるがコストが、安く量産しやすいらしいです。政治は、いわゆる絶対王政で現王は、かなり横暴で好戦的だと言うことです。」

「危険だな。我が国のことはどれほど知っている?」

「まだ、詳しくは把握しておらず、ワイバーンによる偵察を繰り返しています。一部では、F-15Cのスクランブルにたまげて逃げ出したりしています。」

腕を組むと大統領は、悩み始める。

「彼等とコンタクトをとるのは、可能か?」

「はい。首都は海に面していて、港もあり、外交団を送ることができます。」

「まず、彼等と話し合ってみよう。」

「しかし、ダークエルフの情報によると現王は、かなり横暴で、異常なまでの領土拡張主義者だそうです。危険だと思います。」

「おとなしく、穏やかに接すれば大丈夫だろう。そこで、今後の両者の関係について話し合えばいい。」

「まぁ、確かに。一国の王なのですから、ある程度の自制心もあるでしょう。」

「それでは、ダークエルフから詳しいことを聞いてから外交団を送ろう。」

 こうして、隣国ベルトリア王国に外交団を送ることとなった。大統領も国防長官もまさかいきなり暴力に頼るようなことは、しないと思っていた。だが、そのまさかは、現実となるのだった。

 この会議で、さらに決まったことは、ダークエルフを全面的に保護することだった。理由は、彼等はこの世界に精通しており、独自の情報網で、各国の行動を知ることができるから。また、彼等の隠れ家になっている諸島は、金、銀、銅等のさまざまな資源の宝庫であり、近海からは、海底油田も発見されているからである。石油は、まだまだ余裕があるがいつかは無くなる。その時が、来ても大丈夫なようにするためだ。さらにドワーフも居る。彼等は、資源発見の天才で、ダークエルフと同じような状況にあるから、友好的になれることは、間違いない。また、彼等は稀少な魔石等の魔法に関する資源と知識も豊富に持っていることから、同盟関係にあることは、素晴らしい。ダークエルフを介して、ドワーフと交渉することも決まった。これらは、迅速に行われる予定である。


inserted by FC2 system