『第三帝国召喚』14


この世界では正確な海図は存在しない。
だが、航海していくと大よその海図は出来上がってくるが、この場所だけは海図には書かれない場所もある。
暗礁が激しいためと、海流の流れを一歩間違うと海から出ている岩にぶつかってしまう恐れがあるからである。

そんな暗礁地帯の中央に位置する島こそが、海賊達の秘密島となっていた。
秘密島には既にガルド皇国から雇われた海賊船の3分の一(35隻)が集結しており、これから出撃するもの、整備補給の為に寄港している船とまちまちであった。

本来であればこれだけの海賊がいれば争いが起こるものの、そこをガルド皇国の正規海軍船10隻に監視されているだけに争いは起こらない。
何故と問えば、ここで争えば監視している皇国海軍によって粛清されれば、これからのお宝を見れずに死ぬのは馬鹿げていると海賊達は考えており、口論があっても決して死闘になることだけは避けようと暗黙の了解となっており、これを破れば全ての海賊船が襲うことに秘密裏に決定されていた。


「本当にいたんだ!」

ガル号船長は声を荒げて、この秘密島を統治し海賊達を監視しているガルド皇国海軍のお偉方と、同じく寄港していた海賊の船長達に今回受けた損害を何度も説明してはいるが、中々信用してくれない。


「ガル号船長の言っていることを信用してもいいが、防衛の為に輸送船ごときにそれ程の高性能な大砲を積んでいるとは思えませんな」

「同感。 そんな事をするぐらいなら、我が皇国海軍では護衛艦を付けますな」

「俺ら海賊でも、今までそんな船を見たことがないぞ。 なぁ?」

「ああ、一撃で船体中央部に配置している大砲を吹き飛ばす? さらには敵に対し、大損害を与える大砲を輸送船如きに積む等聞いたことがない」

「そんな大砲があったら軍艦に積むのが妥当だろ? 大方軍艦と輸送船を見間違えたんじゃないのか?」

ガルド皇国海軍や同じ海賊達はガル号船長の言葉を否定しているに尽きた。
なにせ、幾ら木造船とはいえ帆船を初撃(2発)で大破させるだけの大砲を輸送船に積む等考えられない。

相手の船に大損害を与えるためには大口径の大砲が必要ではあるが、それは高価すぎるために軍艦に積むのが妥当である。
それを資金や資材を関係無しに輸送船に積む等と、普通は考えられない。 相手の第三帝国は確かに科学力と軍事力は長けてはいるが、それでも同じ人間が物を作り運用しているのだ。 絶対に限度があると彼らは考えているだけに、小口径の大砲まで積むなら判るが、大口径と言って良いほどの大砲を積む等と考えられなかったのだ。

彼らにとって誤算となったのが、彼らなりの大口径とは第三帝国でいうと10cm以上の大砲の事を指し、小口径が3,7cm砲程であると考えている。
まだ彼らガルド皇国も海賊達もまた、第三帝国の巡洋艦以上の戦闘艦との戦いを行ったことがなく、今までは駆逐艦程度の小型艦程度としか戦闘を行ったことがない。


小型艦としか戦闘を行っていないのには、之には訳がある。

第三帝国は早急に人工石油の増産を命じてはいるものの、如何せん陸・海・空軍への配分させていくと十分な満足がいくものではない。
しかも、占領国(自治領と化したシーバン連盟国家群)から石油を生産させてはいるものの、それでも数が圧倒的に不足してきており、しかもこの大陸一地方で最強と目されるガルド皇国との戦争が勃発し、陸・空軍が之に応戦する形となっては海軍側への石油配分削減が決定された。

石油配分削減の主な理由としては、主力艦艇が今現在工廠にて改造中ということから小型艦などでしか動けない実情があるために、石油の配分削減が決定。
この為に、十分な湾岸線防衛・通商路防衛が上手くいくはずがなく、第三帝国は多くの人的損害を出す破目となったのだが、之がガルド皇国等に対して陸では超大口径と噂される(列車砲)の未確認情報は伝わっているものの、船には大口径(標準で約10cm砲)が限度だろうと認識されていた(ドイツ駆逐艦は15cm砲も搭載していたが、重対空方針によって8,8cmか10cm砲の高射砲・大砲に変換させられている)



「まぁ、この暗礁地帯の中央に位置する秘密島までは来れまい。 なにせ、ここは海流を熟知しておかないと通れないからな」

そう、この秘密島は暗礁地帯として有名でもあるが、その中央にまさか島があるなどと知る者は、一般人でも数が少ない。
島の全周囲15kmにも及ぶ暗礁地帯に、さらには中央の島を隠すかのような薄い霧のようなものによって視界が見えない。 ただ、海賊船の通行時のみだけ秘密島からの誘導灯によって導かれるので、後は周囲の暗礁と海流を読み間違えない限りは座礁などない。 ただ、誘導灯もなく海流を知らない船が通過すると、小型船であっても乗り上げるのは確実であり、今まで戦闘を行ってきた帝国の小型艦でさえも通過困難だろうと、この島の者達全てが安心しきっていた。

島には港湾施設もある程度立派なものとなっているが、対空兵装の配備は皆無。
なにせ、近い陸でさえも1200kmも離れていてはワイバーンでさえも、さらには帝国の大型竜でさえも届かないと考えていたからである。

ただ、ガルド皇国の本国においてドイツ第三帝国の東方に位置するニューラン通商同盟から秘密裏に購入したある機関を使用して、ワイバーンを偵察・攻撃に使える母艦の建造が1年近く前に開始されており、大幅な前倒し建造によって既に数隻があと少しで完成間近になっていた。



そんな、対空能力の皆無なこの秘密島に対し…





ドイツ第三帝国海軍軽巡洋艦『ケーニヒスベルグ』に率いられた艦隊が、既に海賊達の秘密島まで400kmを切っていた。

「提督いよいよですな」

「ふむ。 今回の働きによっては総統も、海軍への力の入れようも違うであろう」

ケーニヒスベルグ艦長の待ちに待ったかのような顔に、提督は己の『本国機動艦隊』の艦艇を艦橋から見て興奮を覚える。

先の仮装巡洋艦DA1号の海賊船との接触を報じた一報に、付近を航海中だったDC型索敵型仮装巡洋艦DC1号艦より水上偵察機が飛び立ち、ガル号を追跡し…… ついに海賊達の秘密島を発見!

この一報に海軍は色めき立ち、さらには総統司令部でも敵拠点発見に色めきたった。
これによって一斉海賊船狩りを総統は命じ、現在戦闘可能な艦艇をもって『本国機動艦隊』を編成し出撃。



以下が艦隊の編成内容である。


旗艦
軽巡洋艦 ケーニヒスベルグ

航空母艦 グラーフ・ツェツペリン ペーター・ストラッセル

駆逐艦 Z,23 Z,24 Z,25 Z,26

攻撃型仮装巡洋艦 DA1号 DA2号

防御型仮装巡洋艦 DB1号 DB2号

索敵型仮装巡洋艦 DC1号

補給船 アドリア号

燃料補給船 イル号 ヴォリン号

今回の偵察によって暗礁地帯の中央に位置する秘密の島だと判明し、ヒトラー総統は主力艦艇が今も動けない状態を考え、航空母艦による航空攻撃を命じる。
他の大部分の艦艇は改装中や近海の防衛出動中につき、すぐさま本国で整えられ即時出航可能な艦艇は之だけしかなかったのだ。

この日の為にとばかりに航空母艦には新設された海軍航空隊が配備されており、グラーフ・ツェツペリン型航空母艦には元が爆撃機(アメリカのカーチス社)Hs123A−1型単発複葉機を新たに設計変更させ艦上戦闘機として誕生させた『ヘンシェルHs123B−1』各母艦に12機(計24機)。 艦上爆撃機も改良された『ヘンシェルHs123A−2』各母艦に28機(計56機)の総数80機を搭載している(ただし補用機は抜かす)

本来であれば、フォッケウルフ社が艦上戦闘機・ユンカース社が艦上爆撃機を開発する筈だったのだが、初めての艦上機なだけに何度も設計や開発に四苦八苦していたのが初期の現状であり、どうやって艦上機を作ろうかと迷っていると、第一次大戦時の大エースだったエルンスト・ウーデットとリヒトホーヘン少将から小回りが効き狙撃も可能な爆撃機「Hs123A−1」を推薦され、早速艦上機として開発改良を加えると、複葉機という利点によってグラーフ・ツェツペリン型航空母艦の離発着も何とか行える(全金属製単発機の場合速度や特に脚に不安が残っていた)と言うことにより、早速Hs123A−1型を改良した爆撃機型を開発生産し、同じ様に艦隊防空の任務の繋ぎとして同機の改良された艦上戦闘機型を生産させたのである。

既にフォッケウルフもユンカースもHs123A−1型機の運用で、艦上機として何とか十分な機体が出来上がったものの生産数とパイロット育成に時間が掛ることから、今回の出撃はHs123シリーズ機だけによる出撃となった。
新設当初から、パイロットは空軍の中でも熟練揃いを集められた猛者ばかりであり、その第一期ともいうべき海軍航空隊の精鋭ぞろいが航空母艦の艦載機乗りとして乗艦している(現在は大幅な海軍航空隊のパイロット育成中 ※約2000人)

だが、航空機を投入するだけでも始めての母艦から陸地への攻撃なのに対し、ドイツは最初からやる気があるとばかりに新Z計画案によって生み出された3種類の仮装巡洋艦(現在完成されて活動中の全艦)を投入させた。

これらの艦艇は、この世界ならではと… そして輸送任務にもつけれるという利点から、まったくの新造で仮装巡洋艦が建造された。
計画が整うと同時に建造されたが、丁度その当時から海賊船に悩んでいた海軍上層部。 だが、今日この日の為にと建造された仮装巡洋艦(DA1号艦は既に使用目的通りに任務を達成した)を集結させて、本国機動艦隊に編入させたのだ(ただし、仮装巡洋艦は今回の本国機動艦隊に編入されている艦艇分しか完成しておらず、工廠にはまだ仮装艦10隻前後が建造中である)

機動艦隊といえば、速力が速いのが長所とされてはいるが、仮装巡洋艦でさえも18ノットが最高であるので、艦隊全体でも18ノットが限度(輸送船なども18ノットの速力発揮可能)
ただし、この世界では敵対船が帆船なので十分に高速ということで、18ノットでも良いとされている(主力艦艇だけは30ノット以上の艦艇を作るようされてはいるが)


「よし、そろそろHs123の航続距離も十分に届く。 空母、グラーフ・ツェツペリン、ペーター・ストラッセルに全航空機を持って…… 敵秘密島を総攻撃と、下令!」

「諒解!」

軽巡洋艦を旗艦とした提督の下令は瞬く間に各空母は遂行していく。
初めての海上からの航空攻撃。 相手は暗礁地帯で有名な場所に護られている。 そここそがポイントとなり敵は油断しているだろうとの考えで、一挙に攻撃することが確実に敵を撃破できると考えた。


「発艦開始!!」

全力攻撃の為に、ドイツ史上初の空母2隻から80機の戦爆航空機が発艦し一直線に海賊島へと進路を取り、母艦や艦隊も速力を上げたまま航空機の後を追う形で進んでいく。


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