『第三帝国召喚』13


「ようしいいぞ! そのまま追い込め!」

威嚇攻撃によって敵船の速力が遅くなってきたのに有頂天になってきだした海賊船ガル号船長。
今まで幾多のガルド皇国以外の輸送船や、第三帝国の輸送船を襲い海賊仲間の中でも五指に入るほどの富を得ていた。

今回も香辛料や見たことの無い宝が手に入る事だけしか見ていない船長は、今まで見たこともない新型輸送船の力を考えることなく、集結中の味方の海賊船達を四方から囲ませるように魔法通信で指示を出す。


「本船ガル号は、鉄輸送船の左舷へ。 本船の後方にいるケイル号は、後方に。 アルメイジ号・メイスン号は前方・右舷にて獲物が逃げれないように阻ませろ!」

「了解!」

海賊船ガル船長はそう魔法通信で味方の海賊船に指示をださせる一方で、船員に白兵戦の用意を下令する。
ガヤガヤと、今度の帝国の船にはどんなお宝が積んでいるのかと談笑しつつも装備を整える海賊達。 彼らは一応銃はあるものの、狙撃として船の至る場所から敵船へと乗り移った味方の援護射撃に徹している。 今まで襲ってきた船には剣などの白兵戦用の武器はあったものの、銃火器類を使って反撃するのは稀であり、船上での命中率の問題からも海賊たちの方が一枚上手なので、手馴れた剣等での白兵戦を大体の海賊の船長達は命じさせている。



DA1号艦橋内


「4隻の海賊船ですか。 初陣にしては大物を掘り当てた感じですね」

「連携されているな。 今まで我等の同胞を襲うので、訓練されたのであろう」

海賊船ガル号が追いかける獲物・第三帝国新型輸送船の船名は『DA1』号と呼ばれる。
その、DA1号艦長は副官の獲物を得た嬉しさとは違い、憎しみが篭っていながら呟いていた。

海賊船によって、第三帝国は数が少ない輸送船や貨物船の大なり小なり約20隻(帝国だけでもであり、この2年間だけでも他国の船も併せると100隻近くに上る)と、湾岸部に住居しているドイツ国民にも少なからずの損害が発生しており、漁船やその船員までも損害を加えると海洋王国ではないドイツにとって手痛い損害でもある。 しかも、船が足りないとばかりに木造船を他国から輸入して活用していたものまでもが狙われており、死傷者や行方不明を含めると既に軽く千人を超えている。

同じ海の男として、そして同じ道を歩んできて海賊達に無残に殺されていった同胞の事を考えた艦長は、厳しい眼つきで下令する。


「主砲発射準備。 1、2番砲は前方。 3番、1番高射砲は右舷。 4番、2番高射砲は左舷。 5、6番砲は後方の海賊船に対し攻撃準備せよ!」

「諒解!」

艦長の下令はすぐさま実行された。
そう、この船は第三帝国のもっとも戦略上必要不可欠とされてもいる『仮装巡洋艦』だったのだ。

箱か何か、そう外見上は船を見た場合の場所が突然取り外されていくと、そこには隠蔽されていた15cm単装砲6基が瞬く間に出現し、それぞれ指示された目標に砲口が向けられ、さらに艦橋の前後に配備されていた高射砲までもがそれぞれの目標に対し向けられ、何時如何なる場合があってもいいようにと、隠蔽されていた対空機銃までもがそれぞれの身近な敵に向けられている。



海賊船ガル号船上



「な、なんだあの船は!?」

「せ、船長! あ、あの船になんで、た、たたた大砲が!?」

「そんな事俺が知るか!」

「目標との距離は既に800mを切っています!」

「い、いかん!? 帝国製の大砲は俺らとは桁違いに高性能だ! このままだと狙い撃ちされて沈められてしまうぞ!?」

「ど、どうしますか?」

「……ここは逃げる! 他の海賊船にもそう通達しろ! 帆を張れ、煙幕を張れ! 全速で逃げるんだ!! 取り舵一杯!」

陸地からガルド皇国と第三帝国の軍艦との戦いを見ていた船長は、帝国製の大砲の万能を知っているだけに瞬時に負けると悟り、ここは一旦後退して次回を狙おうとばかりに本船を撤退するように指示する。

急速に取り舵で、左方向に船首が流されていくガル号は、白兵戦の準備されていた船員も熟練なだけあって少しの時間を要したが、完璧に煙幕を張りつつ船の速力を上げるために身を粉にして動き出す。
同じ様に他船にも連絡するが、向けられている大砲がたった2門程度なのに逃げる必要もないと果敢に攻めようとする3隻の海賊船。 彼らはここ最近の得た物が少なかったので、今日こそはと考えており、逃げるなど考えもしていなかったのだ。 距離100m程で打撃を与えようと考えた3隻の海賊船達はDA1号輸送艦に500mまで近づいてきた刹那…


「全艦攻撃開始!」

ドイツ第三帝国海軍所属 DA型 攻撃型仮装巡洋艦の第一号艦『DA1』号は全砲門をもって海賊たちに鉄槌を下した。

前方・右舷・後方から襲おうとしていた3隻の海賊船のそれぞれ中央・後部に仮装巡洋艦からの砲撃が命中していき、その性能を知りえていなかった海賊達はまさか初弾で、中央部に配置されている大砲の弾薬が引火し大爆発を起こし、後部にて指揮をとっていた船長達が跡形もなく吹き飛んでいったのに、天変地異が起こったかのように慌てだし、火災を鎮火させようと動き出すもの、仲間を救おうと懸命に応急処置している者、届かないのに小銃で撃つ者、急いで吹き飛ばされた大砲を元の位置に設置しなおそうとする者達がいたのだが。

「全砲門。 敵が沈没するまで攻撃を続行せよ」

「左舷の敵だけが、煙幕を張りつつ逃げつつありますが如何いたしますか?!」

「……付近に、味方のアレがいるはずだ。 すぐさま連絡を取れ。 その為に左舷の敵船は放置する」

「諒解」

仮装巡洋艦の艦長命令によって、攻撃を強行しようとしていた者達の運命は決定付けられた。
初手から逃げるように指示を出されたガル号だけが、一撃を後部に受けただけで難を逃れたものの、残っていた3隻の海賊船とその船員のは深い海の底へと突き落とされていく最中、DA1号艦よりの電報を受信した付近を航海中だった、味方の船は行動を開始する。


3隻の味方の海賊船が敗れていくのを見つつ、ガル号は秘密基地に全速で逃げていく。 そこに逃げ込めば後はなんとか大丈夫だろうとされている場所であり、彼ら船員一丸となって海流と風を読みつつ一刻も早くあの化け物輸送艦から逃げようと懸命になっていた。


撃てば撃沈も可能の範囲内であるのに、DA1号はガル号に対し初撃だけに止めた。 それを幸運だったと思ったガル号乗組員達は、もはや仮装巡洋艦からも見えない位置に達した時、小さな羽虫の様な音が聞こえてくるのに誰も、それほど気にも留めていなかった。


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