『第三帝国召喚』11


「あれから半年か……」

「早いものですな、レーダー総司令官」

「ああ、デーニッツ君かね? どうだ、新たな防空計画艦の予定は?」

芳しくありませんね。 と、海軍総司令部の総司令官室に何時の間にか現れた次期海軍総司令官最有力候補のデーニッツ中将(少将だったのが、中将に昇進された)
世界地図を掲げられた他の部署に比べて質素なこの総司令官室には、既に莫大な資料によって総司令官の卓上の上は占領されている。 レーダー総司令官は疲れたかのように、それから眼をそむける。 彼はそのまま一息入れるかのようにコーヒーを飲みながら、窓から見える新たな海軍の工場群を見て眼を光らせつつあったせいなのだろう。 新たに入室(ノックしたのかどうかさえ判らない)デーニッツ中将に多少驚きながらも、自分が無意識に返答して入室させたのかどうか判らないが、デーニッツ中将の手元には『第一次被害報告書』の冊子と、対策用としてもう一冊携えているのが、新たに計画中の『新Z計画』を眼にした。



デーニッツ中将の持参している『第一次被害報告書』とは、転移後に起きた西部に新たに確認された『レーネ公国』との戦闘報告(被害)書である。
この被害報告書の日付は、あのロンメル少将が派遣されて10日目が過ぎようとした日に事は起こり、そのまま彼らはレーネ公国とは戦争状態に発展してはいるが、向こうから攻めてこないので大河を此方から渡る力不足という点で、お互いに大河を挟んだまま睨み合っているままであった。


「近海の調査に当時出航可能な戦闘艦を派遣したはいいものの… くそっ!」

レーダー総司令官は、今また間違えようの無い被害報告書を見て憤りを感じ得なかった。
それを冷静沈着に、デーニッツ中将が新たに資料を読んでいくと恐るべき被害だと言うことは、海軍在住の者であれば容易に判る範囲である。


巡洋戦艦 シャルンホルスト(副砲損傷により、小破) グナイゼナウ(通信機損傷により、小破)

重巡洋艦 アドミラル・ヒッパー(中破の損害)

駆逐艦 Z級 Z17(大破) Z18(中破) Z19(小破) Z20(大破)

被害 水兵 約500名(死亡又は行方知れず) 約900名(重軽傷)

何とも酷いものである。
もともと増強中の上に、ただでさえ少ない艦艇が傷ついたのであれば、今まで心血注いでここまで発展させたレーダー総司令官は不愉快である。
さらに、デーニッツ自身も潜水艦主論(潜水艦による攻撃方法)の自前が、この戦闘に参加できなく、さらにはこの世界では戦闘(運用)すら危ういとされる傾向があるのだから。


「やはり、乗組員の腕の差かね?」

「少なくとも、そうでしょう。 なにせ、我らが海軍は再建して日が少ない上に、今では燃料補給の分配も芳しくありません」

「燃料の問題も、かね」

さて、ここでドイツ第三帝国の周辺諸国についてお話いたそう。
現在ドイツ国土は、北方は海。 西方には一大文明圏の『皇帝同盟』と言う国家群の中でも中規模の国家『レーネ公国』(その遥か西方にも、それと同等か以上の大国が存在している) 南方は原油産出国家『シーバン王国』(レーネ公国の半分以下の戦力と経済力であるものの、国土はドイツの約3割に達する。 他にも中規模の国家と小規模国家群が存在) 東部は中小国家による『通商同盟』という国家群が同盟関係(中心国はニューラン王国)になっている。 ここまで、彼らはこの世界の住人でもあるダークエルフ達から聞きだしたのである。



「どこで、我らは何時道を間違えたのかな?」

「司令官。 どうやら我々は、再建当事から幻想に囚われ過ぎたのかも知れません」

総司令官の言葉に、デーニッツは海軍はあまりにも対艦戦闘に特化しすぎたのが原因だと言う。
だが、デーニッツからの言葉は彼に対して今までの功績をふいにするようであるものの、現状から言えば彼の言葉が正しいと言うことに間違いは無い。 彼はこの長きに渡るであろう、覇権への戦争に突入した日を思い出していき、これからの海軍の道を導き出そうと考え出す。


デーニッツの持っていた被害報告書には、戦闘記録(後日まとめたもの)が書かれている。
それを読んでいくと、さすがは異世界であり、彼らの戦法も考慮しないといけないのが頭痛の種になっている。


―戦闘経過等


「ふむ、本当に異世界なのだな」

「司令。 我々はどうなるのでしょうか?」

「さてな… ま、我々は近海の調査ゆえに、それほど危険は…」

『見張り所より艦橋へ! 左舷森林地帯上空より多数の機影を視認!』

「どうやら危険が舞い降りてきたかもしれんな。 艦長! 総員戦闘配備へ!」

「了解! 全艦戦闘態勢!」

強襲は近海の調査航海中。
場所は、敵国(レーネ公国)の森林地帯を左舷に見ながら進んでいくと、朝早く(朝靄のある日)に突然として襲撃を受ける。

「かなり接近させられたが… 対空戦闘用意!」

『敵急降下態勢に!』

「ちぃ! 全艦回避運動に移れ! 取り舵一杯! 第三戦速へ!!」

「あ、敵は…… え? 人を投下!?」

「なに? 人を投下しただと? なんだ、一体なにをする気なのだ?」

見張り員の言葉に対し、艦橋に詰めていた全ての人が一体何故人を投下したのかと言わんばかりに窓から覗いてみると、皮製の戦闘服に身を包み、剣一本と小型の手榴弾のような物を体に装備している兵が多数降下していき、運良く艦へと降下できたものや、態勢が悪かったためか海へと落ちてしまう敵の空挺兵を目撃した。 そう、彼らは艦艇へと乗り込み、乗組員を殺傷又は捕獲しての…


「く、戦闘艦に強襲乗艦し、武装を所持していない乗組員を殺しながら船を奪取する戦法か!?」

「艦長! このままではやられるだけであります! 各艦と連携し、水兵にも武装許可を!」

「許可する! 急いで乗りうっつた敵兵を追い出せ!! 司令、それでよろしいですな?」

「この艦は君の船だ。 最善を尽くしたまえ。 しかし、ここまで対空火器が必要だとは考えられなかったな」

「はい、帰還した暁には上層部に意見具申して、対空艦の建造を考えてもらいましょう司令」

「ああ、序に航空母艦も必要だろうな」

一騎につき、軽装の白兵戦用兵士が2名配備させられて、艦までワイバーンがまるで特攻するかのような速度で迫り来り、艦にぶつかるという手前で白兵専用兵士が投下させられ対空機銃員等と戦闘が始まる。 シャルンホルスト艦長と艦隊の提督2人は、艦艇に配備されているだけでの対空火器だけでは不十分と認識させられた。 このまま艦内に乗り込まれると近接戦が得意な剣士達に、武器の持っていない乗組員の敗北は必至。 仮に撃退できたとしても、艦の運営には人員不足によって支障がきたすだろう。 その事から提督は艦長の対空火器増設はもとより、艦隊防空として戦闘機を多数配備した航空母艦の早期大量建造がかならず、必要だろうと実感した日であり、全ての海軍将校達も航空母艦の保有を欲する原因にもなった。



「この野郎! 俺たちの船に勝手に乗艦するんじゃねえ! 撃てぇー!」

「速やかに船を制圧せよ! 突撃突撃!!」

対空班員などは一斉に機銃を操作しながら戦うものの、艦に乗り移られては攻撃のしようがない。
しかも、各艦に配備されている対空火器の量の不足から多くが乗り込まれていっているが、向こうも初めて此方への攻撃を行うだけに到達前にかなりの数の損害を与えることだけはできた。


「相手は少ないんだ! 気合を出せ! 銃と剣の差を見せ付けてやれ!!」

「おい! コック長なんかに良い所を持っていかせるな! 俺らも続け〜!」

「小型魔弾を投げるんだ、急げ!」

「空挺長! 兵員の数が…」

ドイツ水兵の全てが銃装備の上で撃退を始めだす。
最初は艦内に侵入されかけたものの、外にて対空火器を作動していた水兵のお陰でそれは何とか阻止でき、その後から大量に戦時にはそれほど役にも立たないコックまでもが銃を乱射しながら甲板に躍り出て剣と銃による銃剣戦が始まってしまい、何時収拾が付くのか判らない戦いが始まる。 だが、当初レーネ公国の空挺部隊は艦隊による対空火器で機動の遅さから大半が撃破(対空火器の威力を知らなかったのが原因の模様と、敵ワイバーンの空挺兵を乗せているために能力低下)・空挺投下失敗によって百名たらずがシャルンホルスト甲板に投下されたものの、兵力の差によって徐々に撃退されていき、数十分後には完全に撃退されてしまった。


海軍は艦隊運営と、水兵の技量問題から、強襲攻撃を受けてしまい(見張り等・対空戦闘に問題あり)ワイバーンによる艦への白兵戦により、対空火器の少ない艦に続々と乗り込まれていき奮戦するものの、近接武器が無い彼らには(こうなるとは予想外)死者が出て行く中、各艦を近距離にまで近寄らせてお互いの艦を援護する形で、300騎から投下させられた600名の白兵戦用兵士(一騎に付軽装用装備の兵士を投下)を何とか撃退できたが、手榴弾級の小型爆弾により、艦のあちこちに少なからず損害が出てしまい、損害の無い船は皆無になってしまった。


白兵戦部隊に気をとられている事約1時間(至急水兵に武装させての撃退に時間が掛ったとの報告)先のワイバーン部隊(機数は減少していた)が舞い戻ってきて2騎並列により飛翔を確認。
その中央部には筒状の物が見えるのを発見。


『見張り所より艦橋へ! 新たに敵航空騎隊接近!!』

「ち、やっと敵兵を撃退したというのに、今度は何だ!!」

「艦長! 敵航空騎隊より光り輝く物体が!」

そのまま艦隊から200mの地点で光り輝く物体が発射され、駆逐艦Z17・Z20の主砲に数発命中し爆発し、他所にも同じ様な損害が出たために大破の原因となった。
同じく、巡洋戦艦・重巡洋艦も数十発が命中(大破又は撃沈に至らなかった理由は、装甲技術のお陰との分析)


「提督。 本艦を含む全ての艦艇は、特に駆逐艦の損害が…」

「酷いものだね。 中世程度の武器しか持たない騎士達ばかりかと思っていたんだが、我が軍に対抗できうる兵器を持っているではないかね」

「はい、今回の戦いで教訓を得られましたが、今回敵が使用したあの光り輝く兵器が巨大化させられると」

「そうだな。 戦艦でさえも撃沈させられるかもしれんな」

「提督。 このままどうしますか?」

「之以上の進撃は艦艇の損害を増やすだけになるだろう。 よって全艦は本国に撤退する」

多くの水兵と艦艇の損害により調査艦隊は撤退を余儀なくされた。
同じ様にワイバーンと空挺兵の損害が多いことに恐れ、レーネ公国空軍司令官は戦闘継続を中止させた。
今回の件を中立国経由で問いただすと(シーバン連盟国との戦争終了と共に)レーネ公国の領海侵犯により、国交樹立もされていない所属不明艦隊への国家防衛上の撃破を理由とした。


―分析

ダークエルフからの情報により、敵国はワイバーンを対艦・対城用に特化しているとの事。

今回使用された敵の光る物体は『魔法の槍』を付け加えさせた鉄の矢であるとのこと。 これによって、分厚い城壁・建物・船等の防御部分を突破し、内部にて魔法の槍が爆発する方法。
鉄の矢には魔法文字という、威力増大する為の魔法が刻まれており、さらに火薬が矢にかけられているとの情報により駆逐艦一艦に対して、最低20〜50本の対艦用魔法の槍を使用されると、撃沈の可能性大である(命中箇所にもよる)

ただ、今回レーネ公国がどうやって調査艦隊の居場所を特定できたのだけは皆目不明。


―対策

全艦への至急的に対空機銃の増設。
レーダー開発をより進めて個艦の情報能力の向上。
ワイバーン対抗の為に、航空母艦の大量建造及び、海軍航空隊の創設。



「あの時総統から海軍増強計画に尽力してもらえてはいるが… この事件の結果だけはそのまま残る」

「しかし、我が海軍は教訓を得られ、総統も航空母艦の建造への許可を頂きました」

「そうだったな… で、あの時の増強計画の変更は無いのだな?」

「はい、もう一度確認なさいますか?」

「ああ… 主な艦艇だけでも、早く完成してくれれば海軍は、この世界では最強なのだがね」

レーダーの呟きにデーニッツも同感とばかりに頷いていた。


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