『第三帝国召喚』09


第三帝国召喚 09





総統官邸



「この報告はなんだね? ゲーリング?」

「は、いえ。 それは現在シーバン連盟国家への空軍の被害報告書なのですが……」

「それは判っている。 だが、この損害は何だね?」

笑っているとも、怒っているとも捉えられない表情で問いただすヒトラー総統の顔に、ゲーリングは冷や汗をドッと出しながら慎重に先のシーバン連盟諸国への空軍の損害報告を述べていく。


メッサーシュミット戦闘機 (撃墜45 大破25 中破14 小破8)

ユンカース爆撃機 (撃墜52 大破38 中破32 小破26)

上記の通りの損害が前線より報告されており、それを確認したヒトラーの声は恐ろしいほどに冷め切っていた。
それにはその場に居合わせている軍関係者は冷や汗ダラダラで、このまま空軍総司令官ゲーリングはどうなるのか?と内心考えてばかりでもいた。


―損害報告書だけでも之だけになるなんて…まさか、こうなるとは。 お、俺は、終わりなのか?

―なんだこの損害は? これでは前線に展開している一個航空軍に匹敵する計算では無いか? 何がここまでに損害が増える?

ゲーリングは自分の人生が終わるのかばかりを考えており、ヒトラーはこの損害によって後に編成されるであろう侵攻軍の支援に、支障が無いかどうかと考えていく。


「ゲーリング君。 私は君の才能を買っているのだよ。 さて、何がこの様な損害に増えたのか教えてくれないかね?」

「は、はい。 我が軍の戦闘機は速度に関しては前世界においても申し分ない機体でありますが…」

「が?」

「は、陸続きを想定しての航続距離の問題によって、半径が200〜300kmが限界でありまして、最高速度を出そうにも帰れなくなる恐れが十分あり…」

「判った、もう良い。 この報告書にもその通り書かれてはいるが… 空軍は今後どういった打開策を示すのかね?」

「は、はい。 今後の空軍改善策でありますが…」

報告書とゲーリングの説明を聞いていたヒトラーは怒りを抑えつつ、次に今後の空軍の改善案を聞くことにした。

1、最大の航続距離を現存の2〜3倍を目指す(最低でも1000kmの距離を)
2、最高速度も現存の機体よりか上を目指す(旋回性能の低下はやむ終えなくても、一撃離脱戦法に限定させる)

この二点に尽きる。
この説明を聞いていたヒトラーは次に各空軍への機体を提供している会社からの、次期型戦闘機等の報告を受けていく。
その中には双発戦闘機・四発爆撃機・長距離輸送機・短距離迎撃機・ジェット機等が上げられていく。 各会社とも空軍からの次期型機体の要請に社運を賭けての案だけに、斬新なアイデア機体も候補にあがっている。

「わがフォッケ・ウルフ社は20mm機関砲4基、時速600km/h以上、増槽なしの航続距離で1000kmの新型単発戦闘機の開発を計画中であります」

「ほぅ、単発でそこまでの性能機を考えているのかね? それは期待してもいいのだね、フォッケ・ウルフ社は?」

「総統のご支援あれば可能でございます」

フォッケ・ウフル社はこの案でライバルのメッサーシュミットを抜こうと考えていた。
しかし、先の総統の読んでいた被害報告書通りに無様な戦闘機だと判明した今では、純粋な単発戦闘機の座は既にフォッケ・ウルフ社へと転がっていった。


「では、次に我がドルニエ社ではすが、空軍からの航続距離・速度向上の新型機案といたしまして… 機体の前部・後部にエンジン計二基搭載型戦闘機を目下のところ計画中であります。 機体の性能に関しましてですが、20mm機関砲4基、時速750km/h以上、航続距離1500km以上に1000kg爆弾までの搭載能力を考えております」

「ふむ、双発機か… 性能的には十分な機体の様だが本当にこの様な戦闘機ができるのかね?」

「はい! 総統ご自慢の陸軍への支援用といたしまして、爆撃機型・長距離偵察機型・長距離戦闘機型も既に計画段階に移っております」

「おお、我らが伝統ある最強の陸軍・戦車軍団への支援として、爆撃機の代わりにもなれるのかね?」

「はい、それはもう十分に。 ただ、開発から生産し、部隊への配備まではかなり時間を要する考えであります」

「いやいや、爆撃の後に戦闘機として十分活用できるのであればそれで良い」

ドルニエ社は今こそ他社を抜こうとばかりに斬新なアイデア機体を候補に上げた。
その性能内容も十分だと確信しており、さらには陸軍好きな総統の支援型としても有効運用できるのであれば、もはや負ける要素が無いだろうと彼らは考えていた。
ただ、単発機と違い生産コスト・配備・運用に難点があるので、長距離多用途型戦闘機として使われ、フォッケ・ウルフ新型戦闘機は短距離・迎撃機用として使われるのであろうと双方の重役と空軍幹部達が考えていたが、まさにヒトラー自身もその事を考えている最中でもあり、そのまま最後の会社の説明を聞く。

「最後に、我がメッサーシュミット社は… 現存の戦闘機の代案といたしまして、Bf109型エンジンの代わりに約1800馬力級エンジンを生産し、双発戦闘機Bf110・Me210型機へのエンジン換装によって性能向上を目指しておりますが… 両機ともに時速580〜630km/h、航続距離1700kmほどであります」

「メッサーシュミット社の双発戦闘機はドルニエ社の双発機より速度が遅く、爆弾搭載能力があまりないと見えるがどうしてかね?」

「は、はい。 わが社では生産工場の変更に負担を掛けまいと、空気抵抗や機体の安全性を向上をいれての作業を同時に行い、空軍への配備をより早くする為にでして… 元々爆弾搭載を考えていなかった機体なだけに速度・爆弾搭載能力があまり…」

ヒトラー自身はドルニエ社の新型機の爆撃も併用して行えるという双発機の魅力に囚われていた。
そのために、メッサーシュミット社の純粋な戦闘機タイプとしての有効機を、それほど重要機として見て取っていないことが誰の眼にも、総統を見ていて理解できた。


「もう良い。 だが、君達の新型エンジンは… 本当に使えるのかね?」

「は、新型ジェットエンジンの件でしょうか? もちろんですとも。 ジェットエンジンはレシプロ機が出せない速度を実現する一番の実現可能性品であり、燃料も燃えるものであれば使えるという点もありまして、燃料配分等も他への負担を軽減できると考えておりまして…」

「て?」

「新型ジェットエンジン完成の暁には、空気抵抗を考えた機体構造によって速度800km/h以上、航続距離1200km以上、爆弾800kgまで搭載可能な双発ジェット戦闘機を考えております」

「だが、今までレシプロ機エンジンばかり作ってきた工場にさらに負担させるのではないのかね?」

「いえ、ピストンエンジンに比べて部品数が少なく、組み立て工程も簡単なので完全なジェットエンジンを開発に成功いたしますと、今までのエンジン一基に対し生産過程の改善と工員によってはジェットエンジン二基完成も可能でありまして、燃えるものであれば動くジェットエンジンであれば高質ガソリンが必要無いという事が判明しております」

「では、君達はピストンエンジン搭載双発機で今後の戦線の急場を凌ぎ、新型双発ジェット機を主力機体として行きたいという訳だね?」

「仰る通りでございます。 さらに新型ジェット機の配備が十分に整わない場合は、レシプロ双発戦闘機を改善しジェットエンジンへの換装予定も現在計画中であります」

それら数社から数機に渡る戦闘機・爆撃機の開発内容を一応聞き終えたヒトラーは、ゲーリングに話しかける。



「ふむ、双発戦闘機か… ところで、双発の場合の利点は何だね?」

「はい、双発の場合ですと航続距離の増大・最高速度の向上・爆弾等の積載量の向上があります…」

「では、欠点は?」

「欠点となる点ですが。 まず第一に生産コストであります。 何せ2基ものエンジン搭載で機体が大きくなりますゆえに。 第二に旋回能力の低下により空戦能力が低下いたしますが…機体の空気抵抗や速度によっては、一撃離脱戦法でも十分にカバーできることも可能です」

恐る恐る答えていくゲーリングに対し、悩む仕草をしながらヒトラーは物思いにふけっていき。

「ふむ…… よし。 では、今後第三帝国の戦闘機は双発機を主軸としよう」

「え!?」

「何を驚いているんだね、ゲーリング君?」

「は、いえ… その双発戦闘機の場合ですと色々と、先ほどの問題点が…」

「何を言っている。 双発戦闘機であれば、単発よりかも距離を稼げるし、爆弾を搭載できるのであれば陸軍の支援も十分可能ではないのかね?」

「し、しかし生産コストが…」

「コスト削減で良い機体ができる訳無いでは無いのかね? 生産コスト等大量生産されさえすれば、何れはコスト削減の道も開けるであろう? それに、双発であればジェットエンジンにも換装可能であるしな」

「そ、総統? もしや、総統はジェットエンジンを?」

「ふむ、まだ現実的には有効兵器にはなれていないが… あれを違う分野でも十分何か成果が上がると私は期待をしているのだよ。 その為に空軍は、ジェットエンジンへの開発を第一とし、第二に双発戦闘機の開発、第三に長距離爆撃機の開発を重点においてもらいたい」

ヒトラーはこのとき既にジェットエンジンへの関心を強めていた。
本来であれば純粋な戦闘機を望むべきではあるが、この異世界においては燃料の問題等が生じるために燃える物であれば燃料となるジェットエンジンへの期待が膨らむのも無理がなかった。 さらには全ての双発戦闘機もエンジンの換装と、機体の安全性・空気抵抗を考慮して改造すれば一気に速度が向上・燃料問題解決の機体にヒトラー総統はそう考えており、その事を各社に対しジェットエンジンへの換装も視野に入れた双発戦闘機の開発を命令。

「は、ジェットエンジン・双発戦闘機の件は判りましたが、長距離爆撃機を開発するのでございますか? まだ我が軍はユンカース・ハインケル社の主力爆撃機が御座いますのに?」

「ゲーリング君? 君は考えたことが無いのかね?」

「は?」

「この世界では交通機関は中世程度で、わが軍の補給等が何時かは困難になると考えなかったのかね?」

「え、いや… た、確かに。 しかし、装甲車や輸送車・戦車・鉄道などでも十分なのでは?」

「いいかね? それらを使用して補給を行うとして一体どれほどの護衛が必要なのかね? さらに、鉄道は新たに作り上げる必要がある為に時間が掛りすぎる。 それに対して長距離爆撃機ならば侵攻軍への空中からの補給も十分可能であろう? 爆弾を載せるスペースを活用すればいいし、私が考えている長距離型は単独でも敵地領内の友軍への補給ができる武装・爆弾搭載・速度・距離全てが完全完璧に近いのを望んでいるのだよ」

「し、しかし長距離爆撃機の場合ですと燃料の不足が…」

「ゲーリング。 その為の高質ガソリン不要のジェットエンジンを私は望んでいるのだよ? 数年後には戦闘機全てがジェット機化し、その分の燃料は長距離爆撃機用に転用するのだよ」

「な、なるほど!」

「新たに任命されたシュペーア軍需大臣に人造石油のさらなる増産の為に、新たに国内各地に十箇所以上も工場を立ち上げる予定なのだよ。 これで数年先からの我が国は確固たる地盤で戦うことも、可能なのだよ」

「総統の大戦略お見事で御座います。 ハイル・ヒットラー!!」

『ハイル・ヒットラー!!』

ヒトラー総統の大戦略に誰もが驚き、感嘆しゲーリングの大声に伴って一斉に皆が総統を称える。
今回の戦闘機開発は先の三社に決定した。 ハインケル社などはジェットエンジンをメッサーシュミット社との共同開発に着手し、生産に関しては新たな長距離型爆撃機の生産を考え、その他の爆撃機専門会社も長距離爆撃機や、短距離重爆撃機の開発に着手。


「さて、明日は海軍の計画会議か… 何か海軍から言ってきているのかね? シュペーア君?」

「はい、海軍からは大量の艦艇建造の許可・海軍航空隊の設立でございます」

今までは軍需相にはフリッツ・トートが就任していたものの、今後のドイツ国家内の戦略的計画を彼一人に任せることとしたヒトラー総統。 彼的には、トートに全ての事を押し付けることによって職務完遂の妨げを防ぎたかったためと、お気に入りでもあった(趣味が同じ)シュペーアの才能にも目を付けていた総統の決断によって、彼は先のシーバン国との戦闘が終えると共に軍需相へと就任されたのだ(これと同じく一人一大臣として、一人の職務は一つまでとする方法を行わせる)


「航空隊は良いだろうが… 艦艇に関しては鉄鋼不足があるのではないのかね?」

「はい、Z計画通りの配分はなんとか補えましても補給船・輸送船などの諸外国との交易に必要不可欠な船舶建造に…」

「ふむ、この世界は7割が海だと聞いている。 つまりは前世界と同様であり、かの英国同様な一大海軍国家にしないと世界制覇はもとい、第三帝国の繁栄も危うくなる恐れがあるな?」

「はい、仰るとおりで。 しかし、現実的には長距離の交易ルート防衛の為には戦艦や空母は必要不可欠」

「その通りだ。 しかし、わが国は現在ビスマルクを除く4隻の戦艦建造・2隻の航空母艦の建造を行っている現状では精一杯なのではないのかね?」

「はぁ…… あ!」

ヒトラーとシュペーア2人だけの会議に彼らは明日の海軍との会議内容に没頭していた。
諸外国からの安定した鉄鋼輸入が無い今では、これからの海軍艦艇建造に大幅に制限されかねない。
しかし、輸送船なども大量に建造しないと今まだ不完全な鉄道だけによる交易は、それほど実りがあるともいえない。
そのように彼らは頭を抱えていると、何か突然閃いたシュペーアは、ただ一言総統に今回の鉄鋼不足を補える資材名を口に出す。


「コンクリートだ!」


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