『第三帝国召喚』08


第三帝国召喚 08





二度に渡る前線防衛軍の敗退にシーバン連盟国家は極端に戦意を低下させる結果となってしまう。
なにせ、切り札でもあった重防御の戦竜を容易に破壊できる兵器を所持している第三帝国に、どうやって立ち向かえばいいのか打開案が見出せなかったのも一因する。


今回の戦闘は大きく歩兵や戦車の装備等の転換期として後の歴史に残る日でもあった。 そして、今回のロンメル将軍の機転とプロイセン騎士の誇りをヒトラー総統は称え、彼に騎士十字章を与え、他にも多くの将軍や戦功のあった者達に騎士十字章を授与できたものが十名程であった。





魔道砲150門、戦竜800騎と総兵力約9万近い(内一万は予備役)をまだ保持していたシーバン連盟国家ではあったものの、以下の条件付降伏を第三帝国に通告した。


1、各国王家の存続を認めること。
2、最低限の王家・貴族・民衆の生活の保護。

この2つを提示し、対価として如何なる要求(先の第三帝国からの要求以外も)含め受け入れる事を示した。

棚から牡丹餅とも言うべき思いもかけなかったヒトラー総統は、条件付き降伏を了承した。

1、ドワーフ族の全面的な保障
2、ドワーフ族への領土割譲(ドワーフ民族が十分住める範囲)
3、火の水(石油の事)の我が国への無償供給(供給に関する労働力の提供含め)
4、ダークエルフの保護及び、存在を認める事
5、毎年総年間予算の1〜2割を税として収めること
6、各国は第三帝国の自治領とする(外交権の没収・内政権は各国に委譲)
7、兵の駐屯・行動の自由(各国家の兵も支配下に)
8、鉄道網の完成の為に労働力の提供(完成後は第三帝国が運用)
9、先の第三帝国への侵入時に惨殺された民衆及び第三帝国への賠償金

これの対価として各国家の王家の存続を認め、騎士・貴族の身分の保証。
第三帝国からの9つの条件をシーバン王国は了承し、それに連なる連盟諸国も同じく盟主が滅びたということに条件付き降伏を受諾。


今回のあっけないまでの降伏には訳があった。



「総司令官レーデン将軍。 もはや我が国は戦えないのかね?」

「陛下。 我が軍はまだ十分な戦力を保持していますが… ジル将軍の戦死と、二度にわたる防衛軍の敗北に重戦竜の壊滅が原因となり、兵士の士気も国民の戦意はもはや地に落ちたと言っても過言ではありません」

シーバン王国カリュウ王は自国の大臣・将軍を集めて国家会議を開いていた。
内容は防衛軍の敗退により、引き続き第三帝国と戦えるかが主となって話し合わされた。

強気で今まで隣国との戦いでも弱気を見せなかったシーバン国の王でさえも、侵攻総兵力80万とも言われる第三帝国に之以上戦って勝てるのかどうか不安になっていき、切り札でもあった重戦竜とジル将軍を失ったことにより、后や妾・貴族等から不安の声がかなりよせられ、自分自身も大丈夫なのかと不安が募りに募って彼ことカリュウ王は、王の威厳を放り捨てるかのように会議を招集したのである。



「戦って勝利は出来なくとも、停戦もしくは休戦にもっていけないのか?」

「仮にそこまで致すのに、現在の戦力は一割以下になりましょう。 それに我が国は宣戦布告無しで侵攻しましたので、余程のことがない限り… 第三帝国は応じないでしょう」

「一割以下? それに仮に、とは?」

「敵の兵力は80万。 片や我が軍は10万以下… どうあがこうとも第三帝国の兵力を半数以下にするなど、もはや我が軍にはそのような力はありません」

「まだ飛竜や魔道砲・戦竜を保持しているのにか?」

「率直に申し上げましょう。 残存飛竜は100騎ですが、敵の地上よりの対空兵器がかなり配備されてきており100騎では戦果は望めません。 魔道砲も、敵は2000m以上もの大砲を配備しているとの情報で、残り150門程では。 戦竜ですが、重戦竜とは違い防御能力は話にならず敵の鉄竜に対抗など無理であります」

「そうか、もはや戦えないのだな?」

「はい。 もしもこのまま戦うと内部から我が国は崩壊する恐れも御座いますし…」

「どうした? 何か言いたいことがあるのであれば率直に申せ」

「は。 未確認情報なのですが… ドワーフ族が動き出すとの知らせと、ガルド皇国に不穏な動きが見られるとの事です」

『なに!?』

総司令官からの問いに冷静に聞いていた大臣や他の将軍ではあったが、最後の報告に対し各大臣方や国王は驚愕の表情で叫びに近い声をあげた。

第三帝国がドワーフ族の解放を目標に侵攻してくるのだから、ドワーフ族とも既に同盟関係だと考えているのは容易かった。
その為に既に2万の兵力を動員して対ドワーフ用に準備していた(しかし、斧主流の装備のドワーフ軍では平地での戦いはドワーフ族は不利)

5万とも10万とも揃えられる(老若問わずの場合)ドワーフ兵ではあるが、彼らは之以上戦闘で民族の激減を防ぐために、彼らはあえて自ら戦闘に踏み切るまでの決断は躊躇しがちであった。 その為に、此方が動かなければ向こうも動かないとばかりに安心感が漂っていたものの、長年の敵とも言えるガルド皇国が動き出す恐れがあるとの情報に、その場の皆が固まっていく。


シーバン王国のカリュウはそれを聞くと、王家代々伝わる杖を落としてしまう。
その杖の落ちた音は永遠ともいえる音を発しているかのように、その場は止まっていた。

其れほどまでに彼らが固まり、内心不安感に占められ、始めは段々と次第にヒソヒソと囁く声が大きく聞こえてくる。


無理もなかった。
彼らは第三帝国に二度にわたる敗北をする前の状態であれば、ガルド皇国60万とも言われる兵力に何とか対抗できたのだから。
彼らは度重なるガルド皇国に対し、魔道砲・重戦竜等の集中運用で勝利してきた。 60万の兵力を揃える彼の国に対抗できたのは彼の国の地理的条件や補給・軍の運用面等で辛くも勝利してきたのだが、今や戦意も士気も地の底状態。 このまま侵攻されれば勝てる見込みなど最早無いに等しい。

しかも、今までが10万対2〜30万程であったのに、今回は直接80万もの兵力が侵攻してくるので、その恐怖心は誰もが共感せずにおれなかった。



「将軍… 我が国は今後どう致せばよい?」

急に老け顔になったカリュウ王を見たレーデン将軍は、国も、王も、今までの歴史を護らんが為に、売国奴としての汚名を着る覚悟で上奏する。



「第三帝国に対し、王家の存続を認める事を条件に… 降伏することを進言いたします」

『なに!?』

一斉に総司令官の言葉に、王を除く全ての者が過剰に反応していく。
彼らも国が負けつつあるのを頭の中では理解しつつも、もしかしたら… いや、運が向いて… 等と、希望を捨ててはいない者。
数百年の伝統ある国家を!と、国や王家に頭が固い者。 王に取り入って裕福になろうと考え、誰よりも偉くなろうと今の地位を保守する者達が一斉に自分達の絶対なる価値を敵国に売ろうとすることに、過剰に反応したのだ。



「将軍! まだ我が軍は10万近い兵力があるのですぞ!」

「そうだ! 貴方の考えは売国奴だ! 非国民だ!!」

「数百年の歴史を知らない国に、我が国を売り渡す気か!?」


「何を言うか! 貴方がたは、今までガルド皇国に何とか勝てるからと再三に渡って兵力増大を蹴ったのは、貴方たちではないか!」

「その通り! まだ魔道砲・重戦竜が千ずつでも配備されておれば、まだ良い戦果を残せたでしょうに!」

「それに之以上の戦争で、我々の大事な部下を失わせる所存か!?」

貴族や王族に繋がりのある裕福な生活しか知らない彼らは、自分の地位や富が失われることに非常に敏感になり、一斉に総司令官を罵倒し継続戦を支持するが、反対に軍関係者全てが降伏に賛同しているという正反対の図がこの会議場に現れた。

そのまま殴り合いにでもなりそうなほどお互いを嫌悪しつつあった会議場に、総司令官の声が響く。

「諸君らの言いたい事も判る! だが、このまま第三帝国に国家や、王家や、歴史が踏み潰されるよりかは! このままの状態で継続されるのであれば、良いではないか!」

総司令官の怒号するかの言葉に反論していた人達は押し黙っていく。
確かに此方は10万近い兵力があるものの、このまま戦っても負けてしまい、兵力が無いからと奴隷のように扱き使われる等、貴族で生まれ裕福で育った彼らにとって想像したくもない事を考え、もしも第三帝国が王家や貴族をこのままの状態でいさせてくれるのであれば、別に降伏してもいいではないのか?と、彼らの間でそのような考えが沸々と沸きあがってくる。



「良い。 総司令官の案で国や、王家が存続されるのであれば… その案を了承しよう」

貴族やその場の人達の瞳が、段々と王家や国家よりも自分の保身を考えている眼をしてきたなとカリュウ王は見て取った。
見て取り、彼らを怒る気など王には既に無い。 何せ、彼自身もこのまま自分の身が安泰であれば、先祖に対して王家を存続させたとし、死んでも歴代の王に顔向けできるのでは?と、考えていたからである。


王の一言により連盟国家の盟主国は条件付降伏を総司令官に託し、第三帝国に通知する。
兵力や輸送・補給の面々でそろそろ苦しくなってきたドイツ第三帝国のヒトラー総統は、そろそろ国内向けや戦力の見直しとして良い頃合だとばかりに受諾し、シーバン王国の武装解除と治安維持の為にそれぞれの国家に部隊を配置し、先の条件付降伏がちゃんと行なうかどうかを監視させる。

そして後に連盟国家を吸収した第三帝国は、グデーリアン軍団に対し果敢に攻撃を行い、味方を救わんと死を覚悟しての突撃したジル老将軍に対し盛大な葬儀を執り行い、遺族に対し(遺族金含め)ジル老将軍宛に騎士十字章を与えるという格別の待遇を行い、ドイツ史上初の転移後外国人騎士の授与者となった。

余談ではあるが、今回の授与に対し多くの騎士や兵・民衆からドイツ第三帝国を良い方向で見る眼が多くなっていく。
理由としては、シーバン王国等がちゃんと戦死した者への遺族金等を支払わず(賠償金問題等で支払えないが、正しい)戦死によっての特進も疎かにしていたからだ。


そして、第三帝国は正式にドワーフ民族と交渉を行い彼らの現在の移住地を領地として認め、第三帝国に対し毎年売上高(鉱石等)の一割の税納・鉱石の安価での購入を認めさせ、彼らの王国設立に力を貸すことを提示(3,7cm対戦車砲の100門分の無償供給)すると、ドワーフ族は心強い味方を得たとばかりに快諾し、第三帝国の傘下に収まっていく。

ドワーフ族が傘下に入り、ヒトラー総統は彼らの技能に眼を付け多くの移住者を自国の造船場や工場にて雇用する事を伝えると、ドワーフ族も第三帝国の鉄竜や鋼鉄製品を少しでも学び取ろうと10万以上もの同胞を掻き集め、技術習得の為に移住させる事になっていく。





今回の戦争によって多くの領土と領民・資源や労働力を確保できた第三帝国に、これはいよいよ大変な超大国が出現したとばかりにガルド皇国を除く全ての国家は外交官を派遣し、ある国は工業力・産業・農業の違いから傘下国に入り、ある国では技術供給を申し込んだりと第三帝国を事実上の周辺諸国においてガルド皇国と一、二を争う覇者へと昇り上がらせる。

これにヒトラー総統は有頂天になって、ご満悦のご様子で各国と連携しながら世界制覇の夢を暖める期間に入っていく。
だが、ガルド皇国や第三帝国とは程遠い諸国においてはこの国家の力を羨ましがり、彼の国を倒せば事実上の世界一を名乗っても恥ずかしくないと考える国家が多数出現し、多くの国ではシーバン連盟諸国からの亡命・拉致・秘密裏の技術供給によって対第三帝国戦争を考えていく事になっていく。



しかも、ヒトラー総統にとっては前世(転移前の世界)をもはや忘れているかのように、周辺諸国への関係対応に力をいれていき、そのまま各将軍や民衆の大部分までもが転移前の世界などを忘れていくという現象が起こり、後年におこった現象によって多くの者達が怒り・悔やむ原因ともなった。



そして、その前世の世界において約一年後。


「同志大佐。 どうですかな?」

「おお、貴国の技術力のお陰で上手く完成しそうですな!」

「はい。 なにせアメリカからの大量の工具・機械・技術者がこの造船場に終結していますゆえにな」

ソ連技術者でもあり大佐の階級をもつ軍人に対し、色白いフランス技術者が問いかけ愉快そうな顔をする場所こそが、ソ連において最大規模の造船場は今までにない大きく稼動していた。

その場所には今までのような貧弱の機械や工具類があるのではなく、アメリカ・フランスの優秀な造船に対し必要不可欠な物が所狭しと設置されている。
機械類に囲まれながら、今までに無いソ連の艦艇史上巨大な艦艇の竜骨がその姿を現している。 その数は6隻分。



「同志書記長の命令によって… やっと艦隊が再建できる」

「その通り。 完成の暁にはフランス・ソ連両艦隊は文字通り無敵となるでしょうな」

「ああ、そういえば。 そちらの御国では巨大な航空母艦を建造しているとか?」

「いえ、まぁ〜こちらの戦艦を有に越してしまうという話を…本国の同僚から聞きましたが、事実はどうなのかは私には…」

「ははは! 事実がそうであれば、それは頼もしい。 その様な巨艦が二ヶ国にある限り不滅ですな!」

「ええ、まさにその通り。 (――・ダルク級か。 艦艇史上初の巨艦になるとも悪友が言っていたな)」

ソ連の大佐は文字通りの不滅・無敵艦隊へとなることに笑いが止まらず。
片やフランス技術者は悪友でもある同僚から知らされた艦艇史上類を見ない航空母艦の完成を、心待ちにしていた。


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