『第三帝国召喚』07


第三帝国召喚 07





その銀色の鎧に包まれた戦竜を指揮する司令官は、後方から命令を叫ぶかのように伝えていた。


「精鋭なる連盟戦竜軍『重戦竜』隊よ! 今や連盟国家は君達の双肩に掛っていると言っても過言ではない!」

シーバン連盟国家は戦竜を常時800騎揃えているが、その予備軍をグデーリアン軍団に差し向けたのだ。
ノッシノッシと、重い音が地より響いていく中、白銀の鎧に身を包まれた戦竜200騎が魔道砲によって多く撃破した敵鉄竜と歩兵部隊に突撃するべく、一列横隊に陣を敷いていく。



「重戦竜隊出撃準備良し!」

「国家の為に! 護るべき者の為に… 全軍突撃せよ!」

立派な鬚を生やしたジル老将軍の一声の下に、重防御・突破型戦竜と歩兵5000名が突撃していく。
前線防衛軍が1万5千の内残存3千になりながらも後退してきた兵団に、本隊が6万5千の内5千名を編入させて、新たに戦竜200騎を伴わせた前線防衛軍を第三帝国の最前線侵攻軍に向かわせた。

ある意味死にに行くような軍団に『老い先短いゆえに』と、総司令官に頼み込んだ老人退役将軍(本名 ジル・ミュリス)が、司令官として出陣。
今まで数々の他国との戦争でも有能としられる将軍ではあったが、高齢になったということで退役していたものの、未曾有うの戦争に最後の奉公とばかりに彼は自ら死に場所を求めて、戦意が低下していた旧前線防衛軍と本隊の混合軍団の司令官となると、何とか平時程度の士気にまで戻っていき、今まで培った知識を元に敵最前線侵攻軍団に対し魔道砲の一斉攻撃・重戦竜『重防御・突破型戦竜』(歩兵付き)突撃を立案させていた。

『重防御・突破型戦竜』

本来であれば重陣地突破型となる筈だったのだが、シーバン国で開発された魔道砲に魔矢を使用しての実験において防御不可能と判明。
自国の持つ兵器を他国が作れるはずが無いとは言い切れないとの意見で、その後の各将軍や魔道士の会議の結果、魔道砲の威力を十二分に防御できうる防御能力を装備させればいいのでは?と話し合われた。

この内容により、すぐさま魔道士達によって魔法技術による防御能力を最大限に備えさせたものの、それでも防御能力に不安が残る結果になり攻撃能力を通常の戦竜の2割程度とし、魔法技術によってミスリル等の魔法鉱石を使用して、人にとっては巨体とも言える体躯の戦竜専用に鎧を作り上げたのだ。


これにより、シーバン連盟国家は長射程の魔道砲とそれを防御するに値するだけの突破型戦竜を保持することに成功。


しかし、このどちらとも魔道砲は通常砲の十数倍以上の…
戦竜は二十数倍以上もの通常砲等を作り上げるだけの資金が必要となり、総兵力は10万程度としたのだ。

しかも、魔道砲は200門(1000発の魔矢)と重防御・突破型戦竜専用の戦竜200騎(予備役扱いとしている)が彼らの切り札でもあった。
主な戦法としては、魔道砲・通常砲で初手から敵に大打撃を与え、重防御の戦竜をもって敵の大砲や魔道砲を防ぎつつ、通常の戦竜・歩兵・騎馬部隊を敵軍に突入させるというのが、連盟国家の攻撃方法である。

その内の魔道砲50門、戦竜200騎(重防御・突破型戦竜)と兵8千を引き連れた老将軍は、グデーリアン軍団に対し果敢に攻撃を開始したのだ。





「敵戦竜警報! 数約200!」

「対戦車砲前へ! 残っている戦車及び歩兵も敵を集中攻撃せよ!」

最前線の現場を指揮していた指揮官は、牽引されていた対戦車砲の使用を命じ、さらには生き残っていた残りの戦車と歩兵の火力を集中し、突撃してくる敵戦竜に対し迎撃を行おうとしていたが…



「フォイヤー!」

3,7cm対戦車砲、7,92mm機銃、20mm機銃、3,7cm戦車砲と歩兵の小銃等が一斉に数千もの火線が飛びながら、白銀の戦竜部隊に投げ込まれるが…



「大尉殿! 敵に対して… 対戦車砲も戦車砲も総て無力です!」

「な、なんなんだ! ただの鎧ではないのか! なぜ…我が軍の対戦車砲も効かない? いや、V号戦車の砲もしっかり命中した筈なのに…」

大尉の階級章を身に付けていた指揮官は呆然としていた。
無理も無かった。 何せ、戦竜の鎧は最新の魔法技術によって作られた鎧であり、連盟軍の魔道砲(魔矢使用)で距離1200mでドイツ軍戦車の40mm装甲厚を容易に打ち破れる威力をも、十分に弾き返すだけの防弾性能を持っているのだから。

しかも、戦竜の乗り手を防護する為にも防護板らしきものが設置させられており、容易に乗り手だけを倒そうなどできなく、総ての鎧や防護板には傾斜角が施されているお陰で、弾道が逸れてしまうという現状になっているのだ。

しかも、敵戦竜200騎近い後ろから大多数の歩兵を随伴している。
距離はもはや500mを切ろうとしており、砲撃を続けてはいるが効果がまったく無く、指揮官は後方にいるグデーリアン将軍の本隊と合流すべく一時撤退を命令するが…


「突撃! 突撃ー!!」

『ウワーーー!』

白銀の戦竜の一体の乗り手が剣を抜刀しながら、後方に随伴していた歩兵部隊を突撃させる。
既に後退しかけているドイツ軍との距離は400mを切っている。 今まで歩いて戦ってきた連盟軍の歩兵は足が速く、反対に機動戦術に頼っていた歩兵は一応基礎において走る等に関しては一定の力はあるものの、牽引車や装甲車・輸送車等によって進軍してきた彼らでは、その差が出てしまい逃げ送れた戦車や歩兵・砲兵に群がる蟻の如く、彼ら連盟軍の歩兵は一斉に斬りかかり! 踏み潰していった。


近接戦においてドイツ軍の歩兵では対処できなく、さらに戦車等も近接戦に弱い(歩兵が群がるので、味方撃ちの恐れ)
歩兵の装備されている銃火器では重戦竜に対抗できなく、この場のドイツ軍だけでは数千の歩兵に対して十分の数がいなかったという点で、ドイツ軍の歩兵の多くが一方的に惨殺されていく結果を生むこととなった。


この前線の現状をどうするべきか、グデーリアン将軍を含む参謀達は本隊で話し合っていたものの中々案が浮かばないでいた。
それもそうであろう、空軍の支援を受けたくても近くの飛行場より700km以上も離れており、ワイバーンの迎撃には絶対に戦闘機が必要との考えで空軍は動いてくれないだろう(それに先日の戦闘結果で、動ける機数が減少している)

さらには、重砲等はまだ後方から到着まで時間がかかり、歩兵砲も一応ながら数はあるものの、とてもではないが歩兵随伴の敵部隊に対して余りにも力不足だろうとの意見が(直接敵戦竜を倒せるかどうかに疑問)

そして、V号戦車の3,7cm戦車砲が効かないのが最大の決め手となり、グデーリアン軍団は中央方面軍の本軍に合流しないといけないかもしれないという… まさに、敗退の二文字が浮かび上がろうとしていた丁度その時。



「閣下! 後方より友軍が!」

「なに! どこの部隊だ!」

一人の歩兵からの連絡を聞いたグデーリアンは急いで現れた友軍を見に行く。
その軍団は後に狐・虎等と言った異名をとるまでに成長する『エルヴィン・ロンメル』少将その人であった。

彼は先のダークエルフを本国に招きいれ、総統を回復したことに対し一個連隊を指揮する権限を総統が与えたのだ。
しかし、与えられた連隊の装備品はあまり多くなかった、戦車や対戦車砲はあらかた他の友軍に持っていかれている状態で、彼らは元々中央方面軍の防空を担う部隊として高射砲だけはかなりの量を保持していた。

そしてロンメル少将は前進したグデーリアン軍団の防空の為に追いつこうと進撃している処で、緊急会議を行っていた本隊と合流したのだ。



「閣下! 一体この様な場所で、どうなさいました?」

「ロンメル将軍。 実は…」

前線にて大量に戦車が損害を受け、さらには防御性能がこちらの現存の兵器では突破不可能な戦竜を使用しており、前線部隊が後退しているものの多くの将兵がやられていることを告げるグデーリアン将軍。



「もはや、我が軍団では対処不能だろう。 敵の歩兵は剣が主体で近接戦闘に関しては向こうの方が上だからな」

「なるほど、3,7cm戦車砲でも効かない重戦竜を突撃させ、その後歩兵隊を…… もっと、強力な砲が必要ですな」

「ああ、だが我が軍には歩兵砲があるものの敵戦竜にどれだけ有効なのか…」

「直接照準の出来る強力な砲…… 閣下! 良いのがあります!」

グデーリアンの説明にロンメルは周囲の味方を見ていくと、ふと眼に留まった兵器を見て彼は閃いた。
そしてその運用方法を不適な笑みで直ぐにグデーリアンに説明していき、彼もその案で敵を撃破できるならと本隊と前線の戦車部隊に歩兵。砲兵部隊を一時ロンメルの指揮下に置かせる事にした。




「将軍お喜び下さい! 我が軍の圧倒的勝利です!」

「うむ…」

年若い参謀の喜びの声に対し、新・前線防衛軍司令官であるジル老将軍はあまり喜びらしさを見せずに、馬を操りながら前進している戦竜や歩兵部隊の後方を追っていた。

老将軍の考えは出来うる限り敵に損害を与えることを前提にしている。
初手において遮蔽物からの魔道砲と重戦竜の活躍のお陰で敵軍は後退していくので、一応作戦は順調に結果を挙げたといっても過言ではない。
だが、敵には数万の兵力が存在する。 しかし、敵は重戦竜に対抗できる兵器がないらしく、このまま一気に敵の本隊にも損害を与えられるかもしれないという考えが広がっていき、当初敵の前衛部隊を撃滅だけ狙っていたのを、一挙に敵に損害を与えるだけ与えようとの第三帝国に対して勝利の美酒に酔いしれた彼らは、誰も進撃を止めようとするものはいなかった。


前の前線防衛軍でさえも通常砲100門と、旧式で予備役扱いとなっていた魔道砲を数門使用しようとしたものの、あの鉄竜には敵わなかったが、今はどうだろうか、勝っている! あの圧倒的な戦力と兵力の軍団に勝っているのだ! この事から彼らはさらなる戦果を追い求めて進軍することになったのだ。




だが、彼らがドイツ軍の戦車や対戦車砲・歩兵を多く撃破した数十分もしない内に、前進していた重戦竜・歩兵部隊に活火山が叫んだかのような砲撃音が響き渡っていく!


「な、なんだ!」

「報告! 前方2000m以上先に第三帝国軍の部隊が、砲撃を!」

「に、2000m以上も先からだと!!」

「重戦竜隊はどうしたのだ!」

「敵の砲撃により、大多数が撃破! さらに歩兵部隊にも多くの損害が出始めています!」

「な、なんだ… い、一体何が起こったのだ!」

老将軍の叫びは無情にもドイツ軍の8,8cm高射砲によってかき消され、負傷兵を運ぶ馬車が一撃で破壊された。

今日この日、ドイツ軍は敵の重戦竜に対して8,8cm高射砲による水平射撃を命じたのだ。
元々グデーリアン軍団の対空専用として派遣されたロンメルは、直接射撃の威力のある大砲として、高射砲の使用をグデーリアン将軍に提案したのだ。

30門以上もの高射砲は一斉に一列横隊に配置され、距離2000mと言う命中射程内において一斉射撃を命じた。
さらに、敵歩兵や敵軍への攻撃強化としてグデーリアン軍団の歩兵砲も総動員しての攻撃によって、進軍していた前線防衛軍の重戦竜は一気に半数の戦力激減にまで昇り、歩兵の損害も軽症を含めると4割近い兵にまで昇った。



「む、いかん! 第三帝国は我等の重戦竜に対抗できる兵器を持っていたか! このままでは全滅してしまうぞ」

ジル老将軍は味方の敗北をいち早く察知し、すぐさま前進している軍を助けるためにジル将軍の配下であり本隊所属の騎馬隊を自ら率いて突撃を命令!

これには若い参謀達が老将軍の身を案じて反対するものの、参謀達には後退する軍を纏めるように厳命。
ジル老将軍は代々伝わる宝剣を抜刀し、進軍中の味方に撤退するように伝令を走らせ、陣頭指揮官として配下の騎馬隊(騎馬800騎に歩兵1200。 残り1000を負傷兵等の搬送として参謀達に使わせる)突撃を慣行する。


「なに? 我が軍の砲撃によって大半の敵戦竜と歩兵を倒しているのに、突撃してくるのか!」

双眼鏡を片手に、8,8cm高射砲を水平方向に向けさせて攻撃を行わせ、その戦果を確認していたロンメルの瞳に、ジル老将軍率いる騎馬隊の突撃が眼に入った。
彼の後方には歩兵砲(一個連隊に重歩兵砲2門、軽歩兵砲6門を配備)が数十門が一斉に攻撃しており、歩兵や装甲車・戦車も待機させている。

今回の高射砲を使用しての攻撃に効果があったことにロンメルは安堵していた。
8,8cm高射砲は毎分15発以上の水平最大射程は2万mの能力を備えており、この現場においては高射砲以外に直接照準タイプで威力がある砲は無かったのだ。
グデーリアン将軍から説明を聞いていたロンメルは、ふとこの高射砲の水平射撃ならばと考え、いざ実戦で使用してみると距離2000mで敵重戦竜を一撃で撃破し、さらに歩兵砲の支援で敵の多くが指揮系統を維持できなく四散していっている。

このまま勝利が手に入ると思っていたのだが。
そう、あのジル老将軍の騎馬部隊の突撃は予想だにしていなく、ドイツ軍の多くはこのまま真正面の戦竜・歩兵に対処するのか? 少しそれた形に突撃してくる騎馬部隊を相手にすればいいのか? 高射砲部隊・歩兵砲部隊の隊長やその要員達が一番先に被害がある為に、彼らが不安の雰囲気に支配されかけた時。



「敵の騎馬部隊に対し、戦車部隊及び対戦車砲・歩兵部隊で対処せよ!」

迅速なロンメルの指令にいち早く各部隊指令され、部隊は一斉に動きを見せ始める。
そしてそのまま高射砲と歩兵砲は戦竜と歩兵に対して果敢に砲撃を行い、突撃してくる騎馬隊に対して一斉に3,7cm砲と小銃や機関銃・迫撃砲が加わり壊滅しかけの味方部隊を救おうとしたジル老将軍と騎馬隊の大半が、戦車の苛烈な砲撃によって戦死するという結果になってしまう。



「ジル老将軍が…… に、逃げろ〜!」

老将軍の戦死が瞬く間に前線防衛軍全てに広がっていく。
彼らにしてみれば、今までの他国との戦いでも負け知らずでもあった将軍がいたからこそ頑張ってきたのに、今や重戦竜も大半が撃滅され、老将軍も死亡したとあっては勝てる見込みがまったくないとばかりに防衛軍は鼠が四散するかのごとく、総崩れとなっていく。



「ロンメル将軍! 追撃は?」

「いや、止めておこう。 これ以上敵地に侵入すればさらなる損害を出す恐れがある… それに、味方を救わんと突撃してきた彼らに敬意を表そう」

参謀の追撃許可をあっさりと下げたロンメル。
彼にしてみれば、さらに敵地に侵入すると戦車をも破壊できる兵器を運用されては、幾らこちら側に8,8cm高射砲があろうとも苦戦は必定だろうと考えた。
それに、彼らは味方を救わんと死を覚悟してのあの突撃に対し、我らプロイセン騎士として彼らの騎士精神に敬意を表すのは当たり前だろうと考えたのである。


数日後、先の戦闘場所から動こうとしないグデーリアン軍団に数名を引き連れた連盟国の騎士達が現れた。
味方の、そう特に戦車の損害が60両以上(損害が低いのも併せ)と、歩兵の損害もかなり出ていたので、後方からやってくる本隊と合流し一挙に倍増した兵力で戦おうと、グデーリアンは考えていた。



「閣下! 連盟国の騎士がこちらに向かってきております」

「兵力は?」

「いえ、白旗を掲げていますので…」

「白旗を? ふむ、先日の敵軍が降伏する為の軍使だろうか?」

歩兵の報告にグデーリアンもロンメルも参謀達も首を傾げていたが、とりあえず相手側の軍使に会って見ようと会見の場を設けた。
そして相手側の所属と階級をグデーリアン将軍が問いただすと、立派な甲冑に身を包んだ一人の男性はこう答えた。



「我は、シーバン王国総司令官レーデン将軍であります!」

連盟国の本国にいる筈であろう敵の総司令官がドイツ最前線部隊に現れ、一枚の紙を手渡し、ドイツ第三帝国とシーバン連盟国家との戦争は終結への道へと進んでいく。


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