『第三帝国召喚』06


第三帝国召喚06




相次ぐ降伏の多さと、敵の大兵力・見たことも聞いたことも無いような機動戦術に対抗する統べも無い連盟軍は、防衛戦もしくは持久戦へと転じるしかなかく、その無様な戦争に他の連盟国や民衆らの支持率や忠誠というものが格段に落ちていくのが各国内において、日を追うごとに増えていった。




「報告! 北方連盟国群は、残存守備兵では護り切れなく各王は降伏!」

「報告! 敵中央軍により前線防衛軍(兵15000、大砲100、飛竜200)奮戦し、敵大型機械竜40撃墜、敵小型機械竜60撃墜! しかし、大砲・飛竜は総て壊滅し兵も半数以下に減じ、総退却中!」

「報告! 敵鉄竜に対し通常大砲は威力なし!」

さらには様々な情報がもたらされていく中、シーバン王国総司令官レーデン将軍は渋い顔をした中年である。
将軍は各連盟諸国の兵をも指揮権を与えられており、現在集結中の全連盟諸国の総指揮官にシーバン国カリュウ王より拝命したものの、今まで彼が体験してきた戦争よりも格段に難しい現状に頭を痛めていた。


「兵力は… こちらが、対ドワーフ族用に2万を配備。 前線防衛軍が1万5千が残存3千に。 本隊が6万5千か…」

合計10万の兵力しか動かせないのである。
しかも、ドワーフ族の動向も気になるので兵力2万をそちらに差し向けているゆえに、前衛の残存と併せても6万8千人の兵力しかない。
後は、各王国に存在する守備兵があるものの、戦闘経験が少なく現役兵よりも格段に士気や装備が違うので話にもならない。

しかも、彼らの頼みの綱としていた魔道砲を除いた大砲100門(300mの射程級)と、ワイバーン200騎が全滅したのだ。
しかし、敵の大型機械竜(爆撃機)小型機械竜(戦闘機)を合計100も落とせているのだから、全滅と引き換えには少々以上に悪い結果だ。 しかも敵はまだ後数百騎も存在していると報告を受けているので、喜ばれる数字でもない。

しかも300mもの射程を誇る大砲でさえも、敵の鉄竜に対して無力だということに危機が募っていく。
彼らにしてみれば、この大砲は現役であるがゆえに効果が無いのに、さらに危機感を募らせていく原因となる。

さらには、兵力の差が激しすぎる点も含まれている。
第三帝国は陸兵だけでも約70万の他に空軍の兵力も足すと、シーバン連盟軍の10倍以上になっているのだ。
それゆえに、現在報告されてくる戦果・戦況を事細かに纏めながらも対抗策を話し合わされているが、今現在あまり有効案が見出せていない。


そんな、連盟軍の上層部が重く暗い雰囲気に包まれている数日後。
彼ら連盟軍は今まで渋っていた武器の使用を許可し、一大反抗作戦の初手としてその効果が発揮され、第三帝国は一時的(一部戦場)ではあるが危機に立たされた。





数日後、グデーリアン軍団は破竹の勢いで進撃していたが…


「将軍! 前線の戦車部隊から緊急連絡です!」

「どうした、落ち着いて報告せよ」

グデーリアン将軍率いる装甲軍団は、既に連盟諸国の中央に存在する盟主国家『シーバン国』を目指していた。
既に一ヶ月も経たずに北方連盟国家とそれに近い場所に位置する中央国家群の10ヶ国近くが既に降伏していた。

だが、降伏した本国が派遣している軍団は総指揮権をシーバン王国のカリュウ王が所持している為に、派遣されている軍団はそのまま故郷が降伏していようとも戦う様に準備されていた。 しかも、ここで自分達が勝てば故郷で英雄になれるぞとの考えがあり(その様に情報操作した)前線防衛軍の敗戦をしらない彼らはまだ士気だけは旺盛であった。 ただし一般兵に限るのだが。


そんな一般兵とは違い、敗戦ムードと士気低下が出始めた連盟軍の上層部は一大反抗作戦として、あまりにも金の掛りすぎる武器の使用を許可した。
それはすぐさま準備がなされ、戦車や自動車・オートバイによるだけの機動戦術で破竹の勢いで進軍していたグデーリアン軍団にその矛先が向けられた。


『こちら、戦車部隊! 敵重砲によりT号、U号戦車に甚大な損害が出始めています!』

「どういうことだ? 落ち着いて報告しろ」

『は! 我が戦車隊が新たに目標としていた村落に向かって進撃中。 突然遮蔽物などから砲火が確認され、T号・U号戦車数十両が完全に破壊されて…… ああ、三号戦車もたった今破壊されました!』

「なに!? T号・U号戦車ならまだ判るが、V号戦車まで破壊されたのか!」

『は、はい! 敵の砲火が確認されるこちらからの推定距離は… 約1200mで、あります!』


―ば、馬鹿な!

グデーリアン将軍と近くにいた総ての第三帝国兵は驚愕した。
1200m近い距離で、T号やU号戦車の薄い装甲ならばまだ判るものの、V号戦車は全面に約30mm以上もの装甲厚があるのにだ!
T号やU号戦車の約二倍ものV号戦車の装甲厚を打ち抜くほどの砲を持っているなど、情報に入っていないし先の戦闘でもその様な戦闘は無かったのに!


驚愕し固まっていた将軍や参謀達の耳に、一人の声が聞こえてきた。



「もしや、連盟諸国は『魔矢』を使用したのかもしれません、将軍…」

「なんだね其れは? DE少尉?」

DE少尉(DEとは、ダークエルフの略である)と付けられた、第三帝国では今まで見たことも無い階級章の持ち主は、褐色肌のダークエルフである。
彼らダークエルフも道案内や、敵の勢力や情報収集の為に各軍団に派遣されており、ヒトラー総統は彼らの情報能力と各個人の能力にいたく気に入り、武装親衛隊と同等の勢力規模(将来的に)としてDE親衛隊(ダークエルフ親衛隊)と言う組織を作り上げ、主にこの世界での情報収集を一手に司る機関を設立させたのだ。

武装親衛隊は主に治安維持や、占領地域への派遣等と言った表立った組織として運用していき、DE親衛隊は総統直属の情報組織もしくは破壊工作・暗殺等と言ったスパイ行為も行うと言う裏の組織として使おうとヒトラー総統は考えた。

が、之には何も異論を唱えなかったSS長官であるヒムラーではあるが、内心では自分の地位が崩れ落ちていくのではと落ち着けずにいており、どうやって蹴落とそうかと考えていたりしていた。

さて、グデーリアン将軍より質問された一人のDE少尉は答えていく。


「はい、実は魔道砲は通常砲の3倍の射程距離を持っているのですが、魔道砲の使用を数回程度まででいいのであれば……通常砲の約4倍の射程距離を持ち、威力も数倍以上に発揮できるものが『魔矢』と呼ばれているものです」



『魔矢』

鉄製(貴重な鉱物も使用)の矢を作り上げ、それに魔導士が呪文を刻み魔法薬を塗りこむだけで出来上がる代物である。
この代物は通常砲では運用が出来ず、魔道砲を利用しないと使用が困難であるものの、その威力は通常砲の数倍にまで匹敵し、戦竜を一撃で葬ることができる。

ただ、魔道砲は通常砲10門に対し1門作り上げるだけの資金と資材と設備を要し、魔矢もそれ相応の魔導士と貴重な魔法薬と、ミスリル等と言った貴重な鉱物資源を必要としており、魔矢1発作り上げるのに通常砲1門作り上げる計算になってしまうというとんでもない金食い虫なのである。


通常砲1門で兵士数百名分の一ヶ月分の(給料分)にもなる。
魔道砲1門と魔矢4本分(魔道砲専用弾含め)だけでの資金で、通常砲最低15門(内1門分は通常魔道弾十発程)から20門(他にも魔道士・設備・鉱物の時価によって、目安として之ぐらいになる)近くまでも作り上げてしまう。

これならば通常砲を作った方がましなのだが、ガルド皇国等の戦いで(特に戦竜相手に)対し遠距離からの攻撃(最低命中射程約900m)から攻撃できる点と、城砦攻撃時にも遠距離からの攻撃が出来、防護結界を通常砲よりも比較的安く打ち破る(通常砲の弾数十発撃つよりかは)結果になるので多く採用されてはいるものの、魔矢に関しては戦竜相手にしか仕えなく高額という理由から一応1000発近くは保有していた。


「まさか、その様な攻撃法があるとは…」

「申し訳ありません。 この情報は、保有の確認はしていたのですが、まさか第三帝国の鉄竜に有効だとは思いも知らず」

「いや、君達の責任ではない。 我々も調子に乗りすぎていたようだが…」

DE少尉が深く謝罪しているのに対し、自分を含め第三帝国兵皆がまさかこの様な現状になるとは思いも知らなかったのであるから(それだけ相手の戦力を過小評価し、自軍を過大評価していた)



『こちら前線指揮官! 何故か敵の砲火が少なくなってきました』

「前線指揮官。 敵の対戦車砲は数発撃つのが限度らしい。 今すぐに敵砲台を総て壊滅させよ!」

『了……!? な、なんだあの光り輝く物は?!』

「どうした? 何があった!」

前線にて後方への連絡をしていた彼に思いもかけない物が視認できた。
それは木々や雑草等から這い出るかのように人間の二倍以上もの大きさを持つ戦竜。

戦竜というのはドイツ軍でも一応ながら情報で知ってはいたが、はじめて見る者ばかりで戦場の興奮以上に彼らはそれを見入っていた。
だが、通常の戦竜とは違うのに気付く者はいないながらも、指揮官はグデーリアン将軍に詳細な連絡を入れるべく、その白銀の鎧を纏った戦竜の報告をしていく。



『遮蔽物より大きな… あ、あれが竜か! 鎧を纏った戦竜が出てきたようであります!』

「鎧を着た?」

グデーリアンはDE少尉に顔を向けて情報を聞き出そうとしたが、DE少尉自身の情報もそんな戦竜に鎧を纏わせる話など聞いたことが無く、首を横に振っていた。


そう、その白銀に身を纏った戦竜こそが、連盟国家の魔道砲に次ぐ第二の切り札でもあった。


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