『第三帝国召喚』01


第三帝国召喚01






「一体、何なのだ之は!」

ドイツ第三帝国において、軍の上層部が集い、その国家戦力を動かす場所の一室から怒号の声が響く。
アーリア人種でありながらも、その肥満ともいえる肉体に、豪華ともいえる勲章の数々や、その他者とは違う白色で纏まっている軍服の人こそ、ドイツ空軍を育て上げた人物で、ゲーリングと言う。


「空軍司令官ともあろう君が怒鳴っていてどうする、ゲーリング将軍?」

「お言葉を返すようですが、ルントシュテット上級大将。 今や我らが母国は未曾有うの状況に置かされていると言っても、過言ではありませんぞ!」

空軍司令官を嗜めるのは齢63にもなる、プロイセン貴族出身であり、陸軍将軍の一人でもある。
彼は既に退役していたものの、ポーランド侵攻で南部軍集団司令官の為に復帰させられており、作戦開始も既に数週間が経った今でも総司令部より動いておらず、それと同じく彼の軍集団も、その同等の戦力を保持し国境付近に展開済みの軍集団も作戦開始日時になっても行動を開始していない。

何故なのか?
それは、この今現在の国情に対して不満を爆発させたゲーリングの言葉通りに彼らは、いやゲルマン民族は未曾有うの状況に置かされているのだ。


「其れは判っている。 だが、怒鳴ってばかりでは、進展するものも進展しないものだよ」

「ぐ……」

若者を諭す良き老人の如くの顔をしながらも、ルントシュテットの言葉にゲーリングは頷きながら、他者と同じように地図を見つめる。
それを確認し、既にドイツ第三帝国のほぼ総ての将軍が集っているこの場所を見渡しながら、ルントシュテット上級大将はため息をつく。



……この場に居られる筈の総統は居ないのでは、この場では私が指揮しないといけないとはな。

彼はそう心の中で呟いている通り、巨大な欧州の地図しかない作戦室には陸・海・空の中将以上が既に集まっており、これらを束ねて指令する存在のヒトラー総統は現在意識不明の重体により、最新の注意で現在病室に居るのだ。


総統が意識不明だと知っているのはこの場に居る者たちだけだ。
それ以外には知られないように情報管制を布いており、作戦行動に入る準備が出来ている軍には既に命令で。


『本国は現在ポーランドと和平交渉に向けて交渉中につき、総ての作戦行動を一時停止する』

そうのように総統命令が布かれていた。


―総統不在での国家運営―

これだけでも、既に国情は半分以下に陥っているといっても過言ではないが。
彼らにはそれ以上に、ゲーリング並びに、各将軍たちの頭痛の種となる…… 国境以外の場所の存在に頭を痛ませていた。



「ゲーリング将軍。 空軍の偵察はどうなっているかね?」

ルントシュテット上級大将は最高年齢という意味と、ポーランド侵攻軍の司令官でもあると言う事で、各将軍達がこの場の運営の纏め役として彼に白羽の矢がたったのである。
その纏め役をこなすためにも、国家の危機を乗り切るためにも、彼は各軍から早急に情報収集を集めさせており、今日集まったのも、この国以外は一体何がどうなっているかを議論し、これからの危機にどう立ち向かうかを会議するのだ。


「は、既に持てうる限りの航空機を使用し、偵察を行った所… 東・西・南のわが国の周辺諸国は総て…… 存在していません」


―ザワ…


ゲーリングの言葉に一応ながらも彼らも、まさかと思っていたことを彼の口から聞き、既に少しは認識していたのにもかかわらず、彼らは動揺する。


「確実にかね?」

「はい。 周辺諸国の国境等の村落や都市を調べましたところ… それらの建物総てが中世の造りだと証言できうるものを持ってきました。 そして、我らの知らない河川・村落・都市・港を発見しましたが… これらは我らの知っている周辺諸国では無いものと…… 空軍は結論付けました」

彼はそういいながら、今回持参していた資料を、欧州地図にばら撒くように放り出す。

その数は数百枚。
写真には、白くどの方面の何km行った地点の写真なのかを総てに示している。
それらを見て、総ての将軍達は驚きの顔を隠せないでいた。 何せ、確かにこれらの写し出されている建物は……近代建築ではなく、中世程度のお粗末とも言える建物類であり、自分たちの知っている河川に似ていない河川があり、そこに設置されている橋は現在とはかけ離れて耐久性に問題がありそうなものばかりであった。




「やはり…… 次に、レーダー海軍総司令官」

「は! 既に測量艦を伴った部隊及び、駆逐艦だけで編成した艦隊を行けうる限りまで調査に赴かせましたが…」

「やはり、違うかね?」

「はい。 北極海に向かうためにあった…広大な大西洋は無く、変わりに未知の大陸が存在。 さらにアメリカ大陸までかなりの距離があるにも関わらず、その半分程度の距離にて別の大陸を発見。 さらに、出動している艦艇より『今まで見たことも無い国旗を掲げた帆船を多数目撃!』と、武装艦らしき船も総て木造でありましたが、現状が判明していない今なので、戦闘を避けるように通達しております」

「帆船… しかも、今まで見たことも無い国旗か…… 海軍総司令官、これからも海軍には調査を行ってもらいたい。 ただし、戦闘は確実に避けるようにお願いするよ」

「了解であります」


…だが、我々の知らない彼らがどうでるか、次第でしょうが。

レーダーはルントシュテット上級大将の言葉に了承しながらも、あの突然ドイツ国土総てに異常な濃霧が発生した日から、海軍は直ぐに異常だと気付き、その事を報告したのが彼らがまったく別の場所に居るという事を知るのが、最初の手がかりでもあった。

あの異常な濃霧の次の日(転移された翌日)から、今まで見たことも無い魚が発見され、さらには海流の流れが今までとは違うことに気付き、海上訓練と言う名目で駆逐艦を派遣してみれば、木造船の帆船を多数発見し、それらの船に接触を試みた駆逐艦艦長から『我々の知らない国家の存在あり』・『この海域は別国家の領海である』等のことや、どこの国の民族なのかまでドイツ海軍でも知りえない(世界各国の民族や、国家を他の軍よりかは遥かに知っているのにもだ!)事ばかりの新事実をこの時初めて知ったのだ。

海軍は調査と国防警戒という名目で、既に戦艦を除く現在出航可能な戦闘艦はドイツ本国の付近の海域を調査するために、貴重な数隻の測量艦を護衛しながら本国周辺の海域を重点的に調査を開始している。


これらの測量艦と護衛の駆逐艦は海軍総司令官のレーダーの機転によるものだが、独断である。
この独断は、転移後の一週間経った初めての総統不在(ヒトラー総統は転移後に謎の病気に犯されてしまい、極秘級の極秘で現在入院中である)国家防衛会議において、事後承諾をレーダーはその時に得た。


陸軍・空軍からは独断行動に抗議する発言があったものの。

1、我らの知りえない国家が、貴重な測量艦を沈められては困る。

2、測量図を得ておかないと、大型船が座礁してしまう恐れ。

3、海軍増強計画である『Z計画』艦の今後の運営上必要不可欠である。

等の3点が挙げられて、空軍も陸軍もそれ以上抗議をしなくなった。
何故かと問えば、海軍の増強にはヒトラー総統も気にしており、Z計画承認時には一切の軍事計画の中でも最優先事項と位置づけているからである。


その証拠に、現在4万トンを越す『ビスマルク』級戦艦が建造中であり、航空母艦や、ビスマルク級を越す戦艦が既に起工なされているのである。



「さてと、残るは我が陸軍だが… 今現在どうなっているかね? グデーリアン将軍?」

「は! 現在対ポーランド戦に集めた総ての軍集団には停止命令を徹底させております。 そして、本部より周辺国及び国境警戒としてそれぞれの方面に一個師団を展開中であり、住民の治安及び、防衛を厳重になすように命令させております! 特にドイツ西部には総統司令部付のロンメル少将に大ドイツ師団より分遣隊として、一個大隊程を指揮させて、未知の隣国へ越境するように命じ、現在調査を行っております」

ドイツ本国においても、将来有能な将軍として見られているグデーリアン将軍の報告にルントシュテットも空軍・海軍に負けじと調査させているのに少しは安堵の表情を浮かべる。

どうして陸軍は特に西部地方に重点を置くかのように調査しているのかと問えば、彼らにとって西は大国が存在するものだと認識しているのだ。
本当の世界での西には大国でもあり、欧州の主だといわんばかりにフランスと言う国が存在し、今の戦力でも勝てるかどうか不安という考えもあり、東には大部分の戦力を配置(ポーランド侵攻軍)しているが、西部方面には何とか国防できうる程度の部隊しか配置されていない。 その為に、未知の隣国=越境した場合にはどの様な国土や国家が存在するのか確かめるために、一応武装した部隊を派遣しているものの、防衛行動だけはロンメルに許されている。 先制攻撃等はいらぬ不幸を呼ぶものだろうと言う事で、隣国の人に会った場合には平和的に話し合い、情報収集を第一にするように厳命されたのである。


空軍や海軍とは違い、陸軍は歩行または車両による調査だけしか行えないので、広範囲に展開できる空軍や海軍にこういう点では負けてしまい、今後彼らに対して頭が上がらないことに少しながら彼も危惧していたのだ。


…特に、あの傲慢なゲーリングにだけは負けたくは無い!

それが陸軍の統一された意思でもあった。
彼らは伝統と誇りある陸軍である。 其れに対して空軍は新参者であり、その司令官が豪華な事に大好きで、傲慢たらたらを示しているかのような肥満しきった肉体を見ていて、快く思わないものがいない筈が無いのである。


「そうか、ロンメル少将か。 うむ、彼ならば総統が復帰なされた折にご報告させれば、総統も現在の不可解なこの現状にご理解してくださるだろう」

そう、あの総統のお気に入りの将軍の一人であるロンメルを使ったことに、ルントシュテットは総統が病が完治し、我々がほぼ独断のように行っている事を違反ではなく、適切な処置であるという風にロンメル少将が報告してくれば、総統の気分も多少は良くなるだろうと考えている。
人と言うのは、病の時や病み上がりの時は情緒不安定で、ちょっとしたことで怒号したり怒り狂うのを、あの総統という人はそう言う人物に近いと長年の経験から、ルントシュテット上級大将は認識していたのだ。


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