『ユフ戦記』27


守るも攻むるもくろがねの 2

昭和17年2月11日
現在帝國の直面した未曾有の現象に臨んでも諸兄には陛下と臣民より課せられた義務の履行を求める。110号艦の建造が不透明な現状であるが、将来主力艦の建造を再開することは疑うべくもなく、それに付随する基礎研究は続行されたい。


昭和17年10月8日                発 軍令部   宛 艦政本部
 
軍令部では4隻の主力艦の廃棄とさらに4隻を予備艦(注1)とする方向で話が進んでいる。代わって2隻の超甲巡建造が承認される見通しなのでそれに関する基礎研究を行われたい。なお流動的な点もあるがB65型(注2)を基礎に置く見通し。以下本級を仮称108号艦と呼称する。


昭和17年11月6日                発 軍令部   宛 艦政本部

軍令部は仮称108号艦に以下の性能を要求する。
主砲 50口径12インチ砲10門以上
速力 35ノット以上
防禦 @15,000m〜30,000mにおいて自艦の主砲弾に耐えうること
   A800キロ爆弾の急降下爆撃に耐えうること
   B片舷二本の魚雷を受けても戦列から落伍しないこと

特記事項 夜戦水雷戦隊の指揮・統括が可能な司令部設備ないし通信能力を備えること、航続距離の大なること(注3)


昭和18年2月23日                 発 艦政本部   宛 軍令部

艦政本部は軍令部の要求に対して以下の所見を述べる。
@ 主砲は特に問題なく設計にかかることができる。ついては主砲に関するより具体的な要求性能の提出を求める。
A 防禦項目のAないしBに関しては実現可能。しかし@に関しては排水量過大となるおそれあり。
B 軍令部の要求する速力に対して、防禦項目@との両立は困難。少なくとも要求速力を33ノットまで下げることを求める。


昭和18年6月11日                発 軍令部   宛 艦政本部
 
現在、米主力艦の30ノット以上に達すると見られる速力に対して33ノットでは有効な夜襲指揮を取りえるか疑問。
防禦要目に関しても近距離砲戦が予測される夜戦部隊としては前述の性能を要求する。


昭和18年9月3日                  発 艦政本部   宛 軍令部

艦政本部は軍令部の要求に対して以下の基本設計案を提示する。
基準排水量 41,500トン
兵装    50口径31センチ砲 三連装四基
65口径10センチ砲 連装八基
機関出力  236,000馬力
速力    35ノット
航続距離  16ノットで13,000海里


昭和19年10月2日                発 軍令部   宛 艦政本部

貴方の出した設計案では夜戦指揮艦としては排水量が過大に過ぎる。軍令部は基準排水量を30,000トン以下の巡洋艦を要求する。
検討の結果、要求性能を一部変更する。
@ 主砲は9門で忍ぶ。
A 航続距離は8,000海里を以って目標とする。
B 防禦に関する要求は変更し得ない。


昭和19年12月20日                発 艦政本部   宛 軍令部

艦政本部は軍令部の要求仕様変更に基づき108号艦について以下の基本設計案を提示する。
基準排水量 33,000トン
兵装    50口径31センチ砲 三連装三基
65口径10センチ砲 連装八基
機関出力  200,000馬力
速力    35ノット
航続距離  16ノットで8,000海里


昭和20年1月1日                 発 軍令部   宛 艦政本部

艦政本部の基本案はなお過大。主機関の見直しと主防禦範囲の縮小を検討されたし。


昭和20年2月4日                  発 艦政本部   宛 軍令部

検討の結果、軍令部の提案するディーゼル・エレクトリック方式機関に関して、艦政本部は耐久性ならびに信頼性の点から保障しかねる。従来の高圧重油専燃缶方式を採用されたし。(注4)


昭和20年4月10日                発 軍令部   宛 艦政本部

軍令部は108号艦の要求速力を33ノットに変更する。これに基づいて108号艦の基本設計を行いたし。


昭和20年4月15日                 発 艦政本部   宛 軍令部

艦政本部は軍令部の要求仕様変更に基づき108号艦について以下の基本設計案を提示する。(注5)
基準排水量 30,000トン
兵装    50口径31センチ砲 三連装三基
65口径10センチ砲 連装八基
機関出力  170,000馬力
速力    33ノット
航続距離  16ノットで8,000海里


昭和20年6月4日                 発 軍令部   宛 艦政本部

対空兵装に若干の意見があるものの艦政本部の基本設計案に基づいて設計作業を進められたし。以後仮称108号艦級を231号艦級とする。


昭和20年10月8日  
                    対米戦研究会報告

近い将来に於いて帝國が遭遇する危機を明らかにすべく対米戦研究会は以下の報告をあげる。
@転移から現在までに米国が就役させたと見られる主力艦
BB61級(注6) 
基準排水量  42,000〜46,000トン 
主砲     50口径16インチ9門 
速力     30〜33ノット 
4乃至6隻が就役したものと見られる。

A現在建造中ないし計画中と見られる主力艦
1940年計画艦(注7)  (BB67)
基準排水量  60,000〜65,000トン
主砲     50口径16インチ12門 
速力     27〜30ノット
4乃至6隻が遅くとも昭和23年には就役すると見られる。

BB67後継艦(注8)
基準排水量  65,000〜75,000トン
主砲     45口径18インチ砲ないし50口径18インチ砲 8〜9門
速力     27〜30ノット
4乃至6隻が遅くとも昭和26年には就役すると見られる。


昭和20年12月8日                発 軍令部   宛 艦政本部

軍令部は対米戦研究会の報告に基づき以下の結論を得た。
わが主力艦との相対性能比較
BB61級 
長門級 砲力・速力において劣勢 防御力において互角あるいは劣勢 大和級 砲力・防御力において優勢 速力において劣勢 

BB67級
長門級 全ての面で劣勢
大和級 砲力において優勢あるいはやや優勢 防御力において優勢 速力において互角あるいは劣勢
BB67後継艦級
長門級 全ての面で劣勢
大和級 砲力において互角あるいはやや優勢 防御力において互角あるいはやや劣勢
速力において互角あるいは劣勢

今後計画される主力艦についてはBB67級に対抗可能な主力艦を少なくとも4隻、昭和25年までに就役させたい。BB67後継艦に対抗可能な主力艦を4乃至6隻、昭和27年までに就役させたい。これに関しての所見を艦政本部に求めるものである。


昭和21年1月13日                  発 艦政本部   宛 軍令部

軍令部の要求に関して以下の所見を述べる。
@BB67級に対抗可能な艦は少なくとも長砲身16インチ砲を10〜12門を装備することを要し45,000〜50,000トンに達する
ABB67後継艦に対抗するには18インチ砲9門以上を装備せざるを得ず、65,000〜70,000トンに達する
B細部をつめなければいけない点は数あれど、@のような艦を直ちに4隻建造するのは危険である。艦政本部としては2隻ごとに分けて建造するのが望ましい。
Cわが国の国力、人員に鑑みれば8隻もの@、Aの艦を平行して建艦するのは不可能。
D多数建艦するのであれば一種類の艦型に統合すれば、生産効率の上昇が期待できる。


昭和21年2月2日                  発 軍令部   宛 艦政本部

主力艦建艦に関わる問題点は理解できるが国防上の急務でありその点を理解していただきたい。主力艦4隻と建造中の超甲巡4隻という現状に照らせばその点は理解していただけるものと確信している。
今後建艦されるべき主力艦の主砲の基礎研究に入っていただきたい。(注9)
@ 16インチ級 45口径砲と50口径の比較 砲身重量、砲塔重量 
A 16インチ級 大重量弾と高初速弾の比較 特に大遠距離砲戦においての貫徹力、弾道
B 18インチ級 45口径砲と50口径の比較 砲身重量、砲塔重量 砲身寿命
C 18インチ級 大重量弾と高初速弾の比較 特に大遠距離砲戦においての貫徹力、弾道


昭和21年3月18日                  発 艦政本部   宛 軍令部

軍令部の指針に基づき砲身の基礎研究を行う。
16インチ砲は10月、18インチ砲は明年初頭に概容を提出
しうる。

昭和21年4月1日

最近海軍ので大掛かりな軍艦を揃えようとしていると聞いたが、とんでもないことだ。
現在日本のおかれた状況に鑑みれば大艦建造に割く余力はないことは軍事に疎い私でも知っている。
海軍は一隻でも多くの護衛艦艇を造り、大内海航路を確保すべきだというのが私の、ひいては財界の考えであり、三菱や川崎といった連中でさえ賛同しているのだ。
委細は貴兄に任せるが、どうか海軍の頭を冷やしていただけないだろうか?


昭和21年5月17日                 発 海軍大臣 宛 海軍各部

現在の帝國の置かれた状況に鑑みれば、民間船舶の建造、大内海航路の安定、旧式化する小型補助艦艇の刷新に重点を置くべきであり大規模な主力艦建造は現時点ではありえない。
231号艦級4隻と重巡3隻を以って昭和24年度まで新規主力艦の起工は認められない点は各位承知願う。(注10)


昭和21年7月14日    
             
かねてから議題にあった建艦能力の拡張を実行に移したい。現時点で小型艦艇ならびに民間船舶に関して云えば十分な造船能力といってよいが、将来実行されるであろう大型艦艇の建造を思えば現状では些か不安を覚えざるを得ない。(注11)
大型艦艇の建造が凍結状態にある今が絶好の機会と考えるのだがいかがだろう?
出来れば10月の主査までに海軍として概算予算を見積もりたいので各方面の理解を取り付けていただけないだろうか?
私案では大神、呉、横須賀を対象としており少なくとも4つ、できれば6つの甲級船渠、10個の乙級船渠の整備が必要と考える。


昭和21年10月12日 

海軍が多額の予算を工廠整備に要求している。
当方としては建艦計画で譲歩させた以上これ以上の譲歩を求めるのは難しい。
しかし国産の各種工作機械が海軍の要求する水準に達しておらず工廠が拡大されても建艦能力に不安を抱かせることになり、これは海軍のみならず帝國工業全体の大問題である。これに関する解決策として、D計画を実行したいがいかが。


(注1)金剛級を予備艦、その他4隻を解体する計画があったのは事実。その後実行に移されるがこの時点では憶測の段階に過ぎない。
(注2)いわゆる超甲巡計画。転移により中断されていた。
(注3)内南洋での迎撃だけではなく大内海を動き回る航続距離を求めた結果。当初では16,000海里程度を目指していたらしい。
(注4)軍令部は航続距離の延伸化と艦型の小型化を求めディーゼル・電気複合推進方式の採用を求めた
(注5)無論わずか5日で軍艦の基礎設計が出来る訳もなく、艦政本部はあらかじめ所定の主機関、速力の条件を定めて設計していたものと見られる。
(注6)アイオワ級高速戦艦のことで、転移前からある程度正確な情報を掴んでいた。 
(注7)モンタナ級。帝國国内でも転移前から計画は知られていたが建造隻数、就役時期が不透明だった。
(注8)帝國が独自の予測に基づいて認識した脅威。
(注9)浅間級に搭載予定の50口径砲が軍令部の予想を上回る高性能を発揮したため、従来軍令部内で反対の多かった50口径砲採用に傾きつつあった。
(注10)この命令以降、高千穂級の起工まで大型艦艇の建造は中断する。
(注11)現代の帝國を知る人間からすれば信じがたいが、昭和20年ごろの帝國の造船能力は悲惨の一言に尽きた。


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