『ユフ戦記』04


戦争計画 player A 中編2


クロイツェンの話は続く。

「第十六艦隊を叩けば、速やかにライアールを早期に安定化し敵主力の逆襲に備えます。
敵主力の母艦は四隻、これは帝國海軍第一航空艦隊の全航空兵力でありますが、同時に帝國の緊急展開可能な母艦の全てです。
ライアール奪還に来寇する敵主力を近衛艦隊で迎撃します。
我々が致命傷を負わせられなくとも、ライアール攻略のためにはセンカンの艦砲射撃と上陸船団の接近が不可欠ですから、これを緊急展開した基地航空兵力とユウジルド艦隊で迎え撃ちます。
ここで敵に多大な出血を強くことにより、早期講和が可能になると思われます。
あとは渉外努力ということで。」


クロイツェンは渉務卿に目配せをする。

「勿論、皇主陛下とお国のために出来うる限りのことは致します。
現在も避戦のための交渉を続けておりますゆえ。
しかしその前に疑問点がございます。」

「ええ、何なりと」

「なんと言っても、敵主力が即座に来寇しない場合。
ライアールに敵艦隊が居座れば皇国本土の防衛上好ましくないのはわかりますが
必ずしもくるとは限りますまい。
我々としてはライアールを抑えておけば大内海での交易は行えるのですが、
帝國が我々の交易を妨害せずにひたすら戦力の拡張に努めれば厄介では?」

一同は、もっともだという顔をして頷く。
戦争には相手があるのだから、こちらの思惑通りとに行くとは限らない。
むしろ、歴史上脚本どおりに進んだ戦争など数えるほどだ。


現時点では何とか洋上兵力で対抗できるが、
それは帝國が本格的な戦力拡張を行わなかったからであり、
戦時ともなれば本腰を入れてくるであろう。

かわって答えたのはアウステルだ。
確かに艦隊司令の職分で答えられる問題ではない。

「ええ、そのような悪夢は見たくもないですが、
とりあえず軍では長期戦を想定して予測を立てました。
帝國の機械式飛竜は性能が向上し続けますが、
ワイバーンは現状で頭打ちです。

さらに確度の高い情報として、
帝國は母艦の数を拡張しようとしているとの話が入っています。
敵の防諜活動のおかげで詳しいことはわかりませんが最低二隻、
最大で六隻の母艦が建造もしくは計画中とのことです。
航空兵力が質量ともに向上した後に纏めて叩きつけられては打つ手がありません。

敵が戦力を整えた後に反攻すれば、
三ヶ月で近衛艦隊とユウジルドの主力が小内海の藻屑となります。
六ヶ月以内には基地航空戦力も壊滅します。
その後は沿岸の主要都市は艦砲射撃で、内陸部は航空攻撃で壊滅的な打撃を受けるでしょう。
そして制海権を奪われ、国力の回復の出来ない我々は反撃の機会もないまま降伏します。
これが考えうる最悪の状況です。」


アウステルは一つだけ隠し事をしているのだが、
それを知っているのはこの場では宰相のみである。
帝國流に言えば、敵を欺くには何とやらである。

アウステルはいったん息をつき
「短期決戦が望ましいですが、
長期戦の場合でも敵主力にまず傷を負わせなければいけません。
そこで我々は敵主力を誘出する策を練りました。

敵が主力を温存する場合、フェンダートに上陸、
ここに艦隊根拠地を設けます。」

おお、と部屋の中が騒がしくなる。
誰もが帝國におけるフェンダートの重要性を熟知している。

フェンダートとはガルム大陸の北側およそ400リーグに位置する島である。
大陸沿岸から離れているため、列強の商船や艦隊は近づけないが、
皇国水軍の航海技術ならば造作もない。

帝國はそこに貿易の一大中継地を作り、
そこから大内海を経て本国へ物資を搬入している。
まさに帝國のアキレス腱であるが、二大海軍以外には辿り着くことすら出来ない島だ。
無防備であっても不思議でない。

「フェンダートを占領されれば、帝國も主力を出すのでは?」

たしかに、先手を取って主導権を握れば、
有利に戦争を遂行できるかもしれない。
相手が超大国であってもだ。


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