『平成日本召喚』37


――1

 “帝國”と再戦。
 その命令に俄然とやる気を出したのは、<大協約>第14軍団第2歩兵連隊であった。
 連隊長にとって、手に塩かけて育てた大隊が消し飛ばされたのだ、復讐の念が無い筈が無かった。
 更には個人的にも、第1421大隊長は自身の愛娘の婿にと考えていた相手なのだ。
 これでやる気が出ない方がおかしいと云うものであった。

 第142歩兵連隊長は<大協約>第14軍団軍団長へと意見具申し、自らの連隊を対メクレンブルク攻略軍の先鋒へと配備する事を強く要請した。
 軍団長側としては、戦意旺盛な第142歩兵連隊が前衛を務めるのであれば是非も無い話であり、特に躊躇する事も無く、快諾していた。
 否。
 それどころか、虎の子の第3“鉄血”鉄竜騎士団から鉄竜の2個中隊の派遣を認めた。
 貴官らの勝利を期待する、と付けて。
 割と単純な所のある第142歩兵連隊長は、それだけで舞い上がった。
 必ずや勝利してみせます、と断言して軍団長の部屋を辞した。

「閣下、甘すぎるのでは?」

 軍団の参謀が1人が呟く。
 第3鉄竜騎士団が保有する鉄竜――Mk-Z<カッティング>は最新鋭の鉄竜であり、<大協約>各軍団でもまだ200両と配備されていない代物なのだ。
 それを2個中隊、24両もである。
 第3鉄竜騎士団に所属するMk-Zが4個中隊分と予備を含めて52両しか無いにも関わらずである。 
 更に言えば、第3鉄竜騎士団にも歩兵部隊は軽歩兵大隊として存在しており、又、第141歩兵連隊への支援も考えれば、大盤振る舞いと評しても良いだろう。
 少なくとも<大協約>軍の常識として見れば。

「そうでも無い。ふむ、参謀長。君が出したメクレンの叛徒制圧作戦で、少しばかり冒険的なものがあったな?」

「はっ? ――ああ」

 突然自分に向けられた軍団長の一言に、参謀長は少しだけ首を傾げ、それから思い出す。
 自分が極めて冒険的な献策を行っていた事を。

「ではトッカータ航空団司令をお呼びすればよいですな」

「いや、面倒事は一度で十分だろう。選抜竜挺隊指揮官も呼びたまえ」

「はっ」

 参謀長が人を走らせるのを横目に、軍団長は手元の煙草箱から極上の葉巻を取り出す。
 吸い口をナイフで切り飛ばすと、心得た参謀が素早い仕草で火を差し出す。

深呼吸

 紫煙を盛大に噴出す。

「苦労を買って出てくれたのだ。我々は精々それを活用しようでは無いか、ん?」

 その口元には人の悪い笑みがこびり付いていた。





 上層部の思惑とは別に、やる気に溢れた指揮官に率いられた第142歩兵連隊は、自らの同胞の汚名返上と武名を掲げようと、これまたやる気に満ち満ちていた。

「“帝國”軍にめにもの見せてくれるわ!」

 細身の体をふんぞり返らせた第142歩兵連隊長は、出撃準備を終えた手勢を見る。
 連隊の全戦力、2個の歩兵大隊と魔道砲兵大隊、そして戦竜大隊。
 更にその後ろには小山のような鉄竜、Mk-Zが2個中隊も居るのだ。
 鋼鉄の奔流、下手な国家の軍など鎧袖一触の戦力だ。
 連隊長は口元を緩めて、手を大きく振り上げる。

「諸君、さぁ往くぞ!!」

 奔流が動き出す。


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