『平成日本召喚』13
森の中を進む400人規模の部隊、大協約第1421歩兵大隊に所属する第3中隊だった。
その隊列の中ごろを行く、人よりも大きいくらいの真っ黒な犬――魔道犬がじっと森を見ていた。
「どうした、居るのか?」
その事に気づいた中隊指揮官は、魔道犬の傍らに立っていた捜索魔道兵に小声で尋ねた。
捜索魔道兵は小さく頷く。
「はい。距離はやや遠(500m以上)。火薬と鉱物油の臭を察知しました。規模は小規模ですね」
「地元の猟師の可能性は………無いか。“帝國”の偵察隊だな」
列強では銃を猟に使うのは、そこまで珍しいものではない。
軍が余剰となった旧式の銃を格安で民間に提供してもいるからだ。
だがメクレンブルク王国軍は、その様な余裕に乏しかった。
軍備に関して、大協約条項に厳しく監視されていたからである。
故に、この場所に居るのは帝國軍に他ならないのだ。
「動きはあるか?」
「いえ。音の方は何も…」
「………」
しばし考える中隊指揮官。
中隊の位置と、目的とを考える。
位置はメクレンブルク王国の北部の森。
目的は、大隊本体に先行しての情報収集、否、威力偵察。
察知される事と交戦する事は、その目的からすれば是非も無い話ではあったが、それでも中隊長は、敵が待ち受けている場所で交戦する愚は犯したくないと思った。
この森の中をはしる街道は、この先10kmで平野地へと出るのだ。
そこで待ち受けられている可能性が極めて高かった。
「敵の罠にはまるは愚行。されど一当りするが我らの務め、か………」
「中隊長殿?」
中隊長は、怪訝な声を上げた捜索魔道兵にそのまま周辺注意をする様に命じると、参謀と伝令とを呼び寄せた。
「部隊に先行して偵察隊を出す。それから部隊には行軍しながら戦闘準備を行わせろ。平野地では即、対帝國攻撃隊列を組める様に準備させろ」
「こんな狭い街道でですか?」
「出来ないとは言わさんぞ。やれ。でなければ我々は鏖殺されるぞ」
「中隊長殿?」
「考えすぎかもしれん。だが僅かの兵をこんな所に貼り付けさせていた様な敵だ。油断する訳にはいかん」
「はっ!」
森の中に潜んでいたのは陸上自衛隊特殊作戦群、所謂特殊部隊のメンバーであった。
彼らは呆れるほどに綿密な擬装の施された窪地から、眼下をゆく第1421歩兵大隊第3中隊の情報を、収集していた。
彼らは各種機材をもって第3中隊の装備や人員規模等を収集すると、その情報を圧縮して発信すると、その場から撤退した。
僅かも痕跡を残す事無く。
そんな地上の遥かに上、高度2万メートルの高みを飛ぶ影があった。
グローバルホークだ。
誰も居ない孤高の空をゆっくりと飛び、情報を収集していた。