『平成日本召喚』11


 フォアポンメルン王国の駐屯地を、第1421歩兵大隊に所属する約2000名の兵が出発した事は、かねてより同王国内へと侵入していたメクレンブルク王国諜報部のダークエルフ達によって即座に察知され、その日のうちに、魔法を介した通信システムによって本国へと通報された。
 大協約軍動く。
 その一報は、予想された衝撃とでも云うべきものを、日本政府およびメクレンブルク王国の中枢へと与えた。
 日本では諦観と共に。
 メクレンブルクでは覚悟と共に。
 似て非なる内心。だがその意図するものは同じであった。
 不転退。
 国家、民族の存続の為に死に物狂いにならんとする、その決意があった。
 そして期待していた。
 <第1次メクレンブルク支援団>が、第1独立装甲連隊が勝利を掲げてくれる事を。


 その第1独立装甲連隊である。
 師団規模の部隊にも匹敵する幕僚(参謀)団を抱える司令部は、第1421歩兵大隊が<大協約第14軍団>全軍の出撃前に出立した事を、威力偵察であると認識していた。
 強力な筈のワイバーン・ロードを撃破可能な敵――自衛隊の戦闘力を測ろうとしているのだ、と。
 その認識は、第1421歩兵大隊の大隊長が敢闘精神に溢れた武闘派であるにも関わらず、思慮深い側面があるとの、メクレンブルク王国諜報部の分析を知って、益々に強くなった。
 敵は戦慣れし、慎重な侮れぬ相手。
 故に彼らは決意する。
 生かして返すな、と。

 日本の状況は戦時体制へと移行しておらず、持久戦には耐えられない。
 補給線は、船腹の不足で極めて細い。
 そんな日本の事情と共に、日本を助ける為に敢えて困難な状況へと自国を置いたカナ女王等に対する義理、或いは道義的責任があったのだ。
 負ける訳にはいかない。
 それが、“生かして返すな”と云う言葉へと繋がるのだ。

「手段を問いません。大事な事は敵に一欠けらとして情報を持ち帰らせない事。それが目的です」

 淡々と言う福田一佐。
 だがその雰囲気には、この人物が常日頃周囲へ振りまいている柔らかさは微塵も無かった。

 相手に自衛隊の情報を欠片も渡すまいとする理由は、この後に控えている第14軍団との衝突時にあった。
 寡兵で、戦慣れした精鋭揃いの大軍――そう、自衛隊では第14軍団を認識していた――を討とうと云うのだ。
 その為には陣地に篭って正面から戦うだけでは無く、積極的な機動戦も行わなければならない。
 或いは、ドイツが生み出し、アメリカが洗練させた空地共同作戦――エアランドバトルの日本版を実施しようと、福田一佐とその幕僚団は考えていた。
 それを成功させる為には、火砲の威力を、索敵能力を、機動能力を相手に知られる訳にいかなかった。

 故に、第1421歩兵大隊の運命は決まったのだ。



 かつて“帝國”陸軍が整備したシュベリン航空基地。
 使うものが居なくなって60年。
 その荒れ果てた地に、再び、機械の鳥が降り立った。
 何やら生物的な雰囲気を感じさせるデザインを濃緑色に塗り上げた機体、C-2輸送機であった。
 貨物室には機体整備用の機材が満載されていた。
 それが、メクレンブルク王国へ航空自衛隊が最初に進出させた機体であった。


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