『平成日本召喚』04
メクレンブルク王国が平成日本へ示した原油及び食料の輸出の対価は、適正価格による買い上げと共に国家の安全だった。
平たく言えば同盟関係。否、どちらかと言えば、嘗ての日米安全保障条約の如き片務的同盟の締結であった。
対帝國大協約との約定で、国家規模に比しても慎ましい軍備しか整えてこれなかったメクレンブルク王国にとっては至極当然な話であった。
既に憲法の一部凍結によって集団自衛権を認めていた日本にとっては、特に問題の無い話ではあったのだが、問題はその余りの性急さであった。
『条約締結の公表と同時に、軍を展開させて欲しい』
それが、メクレンブルク王国の要求であった。
当然だろう。
国のすぐ傍に自国の軍事力の5倍、装備の質まで含めば10倍に達しようかと云う大軍が存在しているのだから。
この状況で日本との同盟関係を締結する事を望むのは危険すぎる。
それがメクレンブルク御前会議での大勢であった。
それをひっくり返したのはカナ女王の言葉であった。
御前会議を締める為、最後に言葉を求められ口にしたのは、日本に関してでは無かった。
「対帝國大協約を信頼出来ますか?」
それは問いかけであった。
カナ女王は、その永き治世に於いて列強諸国がメクレンブルク王国に対して行ってきた横暴な要求、要請を列挙した。
内務や外務、財務に軍務。
様々な重臣達が、首を横に振る。
彼らこそが一番に知って居たのだ、大協約を構成する列強諸国の横暴さは。
国が遠いからこそ、何とか凌げて来たが、最近はメクレンブルク王国の北の国家に1万の軍勢を駐留させるなど、
緊迫の度合いが増して来ていた。
だからこそ、と言う。
頃合だと。
「そう申されましても………」
「宜しいですか。嘗ての帝國は、交わした約定は一度として違えた事はありませんでした。
横暴であった事や、乱暴であった事は一再ではありませんが、それでも文章で交わした協定を自ら違えた事はありませんでした」
「ですが陛下、彼らは帝國ではありません、それは」
「その為にこの者に参加してもらっているのですよ。さあエドリック大佐、貴方が見た今の日本、信用出来まして?」
その言葉に、老ダークエルフは立ち上がって答える。
「信用は難しいかと。ですが信頼は出来ます」
絶対と頼り切る事は危険であるが、同盟として組むには信頼するに値する――そう言葉を締めていた。
「宜しいですか?」
賢王名君として名を馳せた女王の重々しい言葉を、否定出来る者は居なかった。
かくして自衛隊は、メクレンブルク王国へと派遣される事が決まった。
派遣決定当初は中央即応集団の派遣で決まりかけていたが、1万からの正規部隊との交戦が想定される為に
重装備部隊が送られる事となった。
中心となったのは第7機甲師団、第11普通科連隊を基幹として編制した連隊戦闘団に、北部方面隊総監直轄の
各種部隊を編入して部隊を編制していた。
戦略予備的性格のあった第7機甲師団が真っ先に投入された理由は、車輌の足回りに理由があった、
メクレンブルク王国の国土の多くが不整地である事を考慮して、装軌車輌のみで構成する為であった。
平成20年代に入ってから自衛隊が採用した車輌の殆どは装輪車輌であり、この手の車輌の不整地機動能力と装甲(装輪車輌は、その重量問題から装軌車輌に比べれば薄装甲となる)に不安を感じた事が理由であった。
この点で第11普通科連隊は、些か老朽化していたとは云え装軌の89式装甲戦闘車を装備していたのだから、選ばれて当然と云う面はあった。
連隊向けとは思えない充実した各種支援部隊を編入され、更には中央即応集団から偵察用として特殊作戦群やヘリコプター部隊までもが編入されているのだ。
又、そもそも第11普通科連隊は戦略予備の第7機甲師団の一員として、なによりも日本で唯一の装軌機械化連隊としてRMA化が推し進められていたのだ。
準旅団規模の戦力、否、下手な旅団などでは鎧袖一触の戦力であった。
その部隊、名は第1独立装甲連隊であった。