『無題』1


帝國が消えて60年の月日が流れても、ダークエルフ達はあきらめ切れずに帝國帰還の可能性を探り、
一方で、大内海で何か異常があるたびに調査船を派遣しては無駄骨を折ると言う日々をすごしていた。
そんなある日、大内海を通る商船の乗組員の中に夜、水平線の向こう側に「奇妙な白い光」を見たというものが現れた。
それも一隻や二隻ではなく。
そして海図上にその怪現象を見たときの船の位置と方角を書き込んでみると、ある事実が浮かび上がった。
その怪頭上の直線は、全て旧帝國本土で交わっていたのだ。
損情報を掴んだダークエルフは、即座に調査を開始した。

「……船長。まもなく、旧帝国領海内です」
「……うむ」
「しかし、本当なのでしょうか……? 帝国の復活の可能性というのは……」
「わからん。今までも散々そういった類の噂が立っては――裏切られ続けてもう60年だからなぁ。
今回の”奇妙な現象”とやらも、単なる偶然じゃないかと私は思っている」
「このまま進んでも、やはり「何もない」と……?」
「だろうな。この調査も、これで通算32回目だぞ? なにか異常があったってだけで、過敏すぎる」
「しかし、今回は長老直々の命令です。今度こそは、きっと……!」

船長のさめた言葉に、もう一人の若い(といっても年齢は70を超えているが)部下が反応した。
(やはり皆、あの「素晴らしき日々」を忘れることが出来ないのだな……)
船長は、誰にも見られないように、自嘲気味の笑みを浮かべた。
どうやら、帝國とかかわったおかげで、人間の悪い癖が身についてしまったようだ。
信じて、裏切られ、そして泣きを見る。
希望を持たなければ傷つくこともないのに、やっぱり希望を持ってしまう。
本当は無駄だとわかっていても。
ダメだとわかっていても。
次こそは……そう期待してしまう。まさに人間そのものではないか……今のわれわれは。

諦めムードの船長をよそに、船員達は超真剣な目で双眼鏡を覗いている。
そして、あと半日で帝國本土……というところで、水平線上に「灰色の何か」が現れた。

「左舷9時方向、不審艦1!」
「列強の船はこのあたりには絶対に近づかない……。どう思う、副長」
「どこか別の組織が向かわせた調査船かもしれませんが……。もう少し近づいてみないと……」
「まさか、な」



「せ・・…船長…・・船長!! 」
「なんだ、どうした!」
「不審艦の、かん……艦尾に・・・…は、旗が……!」
「旗?」
「かい…海軍旗! 海軍旗です!! 不審艦……いえ、左舷の軍艦に掲げられているのは間違いなく海軍旗!」
「な……なんだとっ!!!」

「帝國の……日本の軍艦です!!!」


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