『終末の果てに』


-勝者の伝承-

パチパチッ
薪の爆ぜるわずかな音が、しんとした夜闇に響く
成人の儀も今宵で最後、村長が子供たち相手に伝承を語るのだ。

とおい昔、大地は緑に溢れ泉は湧き、人は大きな町をつくり、
飛竜に乗って空を飛び、魔法をつかって遠く離れた人と話すことすら出来た。
世界には10の偉大な国があり時には争う事もあったが、
おおむね平和に暮らしておった。

しかしある時、誰も気づかぬうちに、
遥か海原の果てに、異世界より魔の帝國が現れたんじゃ。
そこは人の船で行くことが出来ぬほど離れた場所だった為、
不幸なことに誰も魔の帝國が現れたことに気づくことが出来なかった。
いや魔は魔を呼ぶんじゃろう、
邪悪な闇の種族ダークエルフだけは奴らの存在に気づき、
急いではせ参じ、この世界を裏切って魔の帝國の尖兵となったんじゃ。
次に忌まわしきヨツアシどもが尻尾を振って魔の帝國に忠誠を誓った。
忠実な闇の下僕を手にいれた魔の帝國は世界を闇に包むため動き始めたんじゃ。

山を鉄で覆ったような巨大な船、大岩を一撃で砕く巨砲
機械竜と呼ばれ全身を鉄で覆った空と陸の魔竜でもって、
瞬く間にこの大陸の北東部を侵略し制圧した。
小さな国々は魔軍の忌まわしくも強力な力の前に次々と飲み込まれていった。
偉大なる10の国のひとつレムリアは世界を守る為
10万の勇敢な騎士達を派遣し魔軍に正々堂々戦いを挑んだ。
残る9の大国もレムリアの騎士ならば魔軍を倒せる。
そう考えっておった。
しかし魔軍は騎士の勇敢な突撃に対し、
伝説の火焔の王を召喚し、
丸一日かけて10万の騎士を焼き尽くし虐殺したんじゃ。
その知らせを聞いた心優しき賢王は、
多くの騎士を失った心痛とその騎士達の無念を思いやってしまった為、
その息を引き取られたんじゃ。
賢王と勇敢な騎士達を失い悲しみに沈むレムリアに、
魔の帝國は無理難題を突きつけた。

魔竜で国中を破壊されたくなければ
国中の黄金や宝石を差し出し降伏せよ

その言葉通りレムリアの各都市の空に、
機械竜が姿をあらわし国民は大いに恐れ、
王都の豊かな森は魔竜によって焼き尽くされたんじゃ。

この脅しに事もあろうに王家の忠臣と思われていたレムリアの軍務卿が応じ、
王家と国を裏切った。
軍務卿の手下は王都を奇襲し東からやって来た魔軍を出迎えたんじゃ。
また金に汚いボルドーの商人どもも結託し魔の帝國に尻尾をふって出迎えた。
悲しむべき事に、世界の裏切り者は人間だけに留まらなかった。
人間の争いには関わりをもたず中立を守ってきた妖精族からも、
裏切り者がでてしまったんじゃ。
北東ドワーフの長じゃ。魔軍の邪悪なまでの強大さに恐れをなしたこのドワーフは、
魔帝の与えた爵位を見返りに他の同胞を見捨て裏切り魔の帝國についた。

しかし真に国と世界を思う西部レムリア貴族たちは、
腰抜けの東部レムリアの豪族とは違い、東から来て王都を占領した魔軍に対し、
西方レムリア王国を名乗り、残る9王国の助力をうけて魔の帝國に対し
敢然と立ち向かったんじゃ。

そして残る9王国の準備が整った時、魔の帝國とそれに与する勢力に対し
宣戦を布告したのじゃ

戦いは壮絶を極め、世界中で争わぬ国と地域がなかったほどじゃ

………

 村長の話は夜を徹して続き、地平線から太陽が昇り始めた。


さぁ子供たちよ、見るがいい。
日が再び昇るように正義は必ず勝ち、魔の帝國は追い払われた。
代償に世界は大きく傷つき、マナは枯れ果てかつての10王国は
その姿を見る影もなくした。
この荒地もかつては地平線まで続く美しい田園だった。
しかし最後に生き残り勝利したのはわし等じゃ
異界からの魔の帝國を見事に退けたのじゃ

そして再びあの魔の帝國がよみがえらぬ様に、
わし等は正義を守り、神様の教えを守り
毎日をまじめに生きていくんじゃぞ。
そして万が一、魔帝率いる魔の帝國が蘇った時は、
世界を守る為に勇敢に戦うんじゃ

今日から村の共同体の一員として
認められるようになった若者たちは、
誇らしさと荒涼とした世界を元に戻す熱意を
胸に朝日を眩しげに見つめた。

これで成人の儀は終わったのだ。


-敗者の伝承-

深い森の中、木の洞に身を潜めるように、
影となるように、一夜を過ごす者達がいた
濃緑色のフードを目深く被った人影はふたつ
身を寄せ合うように抱きしめあっている。
無理も無い晩秋の夜の森で火の気もないのだ。

「おかぁさん、さむいよぅ」
母親はキュッキュッと揉み込む様に幼い娘の体を抱きしめる。
「夜が明けるまで我慢してね?」
「うん…ねぇお話して」
「そうね、何のお話がいいかしら?」
「お日様の国の人ー」

そうお気に入りなのね
母親は愛しさと哀哭が折重なった笑みを唇にかすかに浮かべ
語り始めた。

かつて世界から見捨てられた人達がいました。
その人達は人の嫌がるような仕事をしなくては
生きていく事が出来ませんでした。

神様もその人達には振り向いてくれませんでした。
神様が振り向いてくれないのですから、
神様に認められた王様達も
当然のように構ってくれませんでした。

そんな日がこれからも続くのだと、
その人達は諦めていました。


でも…

何の前触れも無く…

ひょっこりと…

他の世界からお日様を崇める人達が来てくれました。

お日様の国の人達は、その人達を見ても驚きはしたけど
嫌って石をぶつけたり、逃げ出したりしませんでした。
「貴方達は私達を怖がらないのですか?
 嫌わないでくれるのですか?」

「嫌う理由も怖がる理由も無い!」
立派なお髭をはやしたお日様の国の人はお髭をさわりながら
堂々と言いました。

「では友達になってくれますか?」
その人達はどうせ駄目だろうと思っても、初めて嫌いもせず怖がりもし
ない人に会って、どうしても聞いてみたかったのです。

「うむ、友達になろう」
あっさりとお日様の国の人は言いました。
「しかし、いきなり知らない場所に来てしまって、
困っているのだ。道案内をしてくれないだろうか?」

お日様の国の人達は他の国から油や鉄を買っていたと言います。
この世界でも手に入るだろうか?とその人達に聞きました。

「はい、油のある場所、鉄のある場所を知っています。」
お日様の国の人達は大喜びでした。
お日様の国の大王様はよその世界の神様がご先祖様でした。
「この世界の神が君達に振り向かないなら、私が君達を認めよう。
君たちは今日からお日様が認める民だ。」

その人達はその言葉を聞いて呆然としました。
神様に振り向かれず、人に嫌われ、
1つの場所に住む事すら許されなかったのに…

お日様の国の人達は、あっさりとその人達の為に
お日様がよく照らす暖かい国まで作ってくれました。

当然、その人達を嫌っていたこの世界の人々は、
お日様の国の人に文句をつけました。

「彼らは私たちの友人である。友を侮辱するなら覚悟しろ」
お日様の国の人は優しいけれど、とても強かったのです。
誰も見たことの無いほど大きな鉄のお船、
どんな飛竜よりも速い鉄の竜、
どんな国の兵隊よりも優秀な兵隊さん
それをみたこの世界の人々はすごすごと帰っていきました。

そんなお日様の国の噂を聞いて色々な人が集まってきました。
みんなこの世界の人から嫌われた人達です。
尻尾をもつ人、国が無くなって行くあての無い人、
大きな国にいつも苛められている小さな国、
みんなお日様の国が照らす新しい世界にあこがれました。
お日様の国はそんな人達を前にこう言いました。
「奴隷はいらない。だが隣人としてなら君達を導こう」
こうしてお日様の照らす世界は、どんどん大きくなっていきました。
でも、今までこの世界を治めていた10王国の人達は面白くありません。
どこかからいきなり現れた余所者に自分たちの場所を奪われると思ったのです。

ある日、いつものように大きな国に苛められていた小さな国が、お日様の国に助けを求めました。
お日様の国をよく思っていなかった10王国のひとつ、レムリアという大きな国は、乱暴者の兵隊を地面が見えなくなる程集めて、お日様の国の兵隊さんごと小さな国を踏み潰そうとしました。
他の意地悪な国達もこれでお日様の国も思い知るだろうと、笑っていました。

でも…
お日様の国は強かったのです。

誰も見たことの無い大砲をドンドン撃ちました
乱暴者の兵士は近よることも出来ず、最後には降参してしまいました。
このことを聞いたレムリアの王様は悔しさのあまり
泡を吹いて倒れてしまいました。

王様も乱暴者の兵士も居なくなってしまったレムリア国は、
とうとう降参してお日様の国の一部となりました。

これを聞いてのこる9王国は大慌てです。
今まであまり仲が良くなかった国同士でも、
お日様の国相手には力をあわせようと悪巧みをしました。
……


「あら、寝ちゃったのね」
母の腕に抱かれて幼子はいつのまにか寝息を立てていた。
「そうねこの先はつらいお話ですからね…」
いつかまたお日様が昇る、そう信じましょうね




老いた村長と痩せ細った母親が語り終え数刻たった時、
かつて魔の帝國とも、お日様の国とも呼ばれた島が
あった海域にも日の光が差し込み始めていた。
海面を照らし出す曙光の鮮烈な輝きの中、
陽炎のようにもやが生じていた。

帝國の平行世界…敗戦を乗り越えアメリカの庇護の下
アジアいや世界でもTOPクラスの裕福さを享受した国家

自衛隊を引き連れた西暦2006年の日本国が
この世界に出現しようとしていた。

To be continued
  ↓
自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた


inserted by FC2 system