『進め!帝國輜重科、走竜隊』3&4


進め!帝國輜重科、走竜隊 3

(技研の連中がレムリアに来てたのか)
陸軍技術研究所とは携行火器から戦車まで陸軍の装備全般を扱う開発部門である。
「余計な横槍がはいらんと良いがな… 西山!予定は変更だ、明日は朝09:00から
総督府で会議だ。」
「あ、そうなんですか?」
「あぁ、その会議で今日の資料使うからそれまでに資料まとめとけよ」
「え゙」
「俺は今から田村に任せた仕事の確認作業と運送予定の組立だ。黙ってキリキリ働
け!」

仕事が終わった頃には日付が変わって短針が3回ほど回っていた
「大尉ぃ、もし働く軍人さんって漫画描かれたら、うちらの事描いて欲しいですよ…」
「あほぅ …これ以上、輜重科希望者を減らすような真似するな。
 それと西山、ノーランのところには遅れるが会議が終わり次第必ず行くからな。
 お前は俺が会議中に搭乗員を選んどけ。
 なんだったら輸卒の班構成も変えて良い。数は…二人一組で六名だ」
「了解です」
「じゃあ、今日の仕事は終わりだ。おつかれ」
「お疲れ様です」

翌朝、倉山は伝言の指示通り総督府に出頭していた。
早めに会議室に入り、資料をまとめながら考えていた。
昨日の竜舎の資料と輜重科の現在の稼働率、今日竜舎で実地確認すべき項目の洗い出し
考えることはいくらでもあった。

ドアが開くと同時に立ち上がり敬礼して典礼参謀と技研関係者を迎える。
「おはようございます、閣下」
「やぁおはよう、倉山大尉
 紹介しよう、こちらが陸軍第四技術研究所の佐世保技術中佐だ。」
 丸めがねにこけた頬、体格もひょろっとした男だ。
「ひさしぶりだな、倉山大尉」
「な…、失礼しました!こちらこそ、お久しぶりであります佐世保技術中佐殿」

「ん?君達は知り合いだったのか?」
「はい、同郷の出で同じ学び舎で学んだ事があります。」
「ほう、それは話が早そうだ。
 さて、倉山大尉 今日君を呼んだのは昨日の件だ。」
「戦竜輜重科採用計画ですね。」
「そう、こっちの佐世保技術中佐は本土から来た戦竜研究班の責任者でね。
 お互い意見交換をすれば、色々新しい事実を見つけられるかと思って引き合わせた。」

「まだレムリアに来て日が浅い、いろいろ教えてほしい。」
「了解いたしました。」

「ここからは専門家同士で話し合ってもらおう、私はこれで失礼するよ。」
「「有難うございました、典礼参謀殿」」
 二人して敬礼をし、礼を述べて見送る。
 倉山は参謀が部屋を出ると同時に横の男に話しかけた。

「7年ぶりか…なあ、佐世保中佐殿よ」
「なんだ倉山」
「かたっくるしい言葉使いは無しの方向でいいか?」
「あぁその方が話が早い」
「よし、じゃあドスブッスリで聞くぜ。お前の、いや技研の目的は何 だ?」

「簡単さ、帝國の生産力といえど無限じゃない、
占領地の兵力で使える物があれば研究して帝國の兵器体系に組み込む。
帝國の水準には及ばなくても現地の治安活動に使えれば十分だ。」

「なるほど、ブッスリな意見だ。さしずめ飛竜と戦竜、それに魔法ってところか?」
「この世界で帝國が見るべきモノは多くはねぇって事さ。じゃあこっちの番だ。
 今どこらへんまで進んでいる?」

「はっ、昨日の今日だぜ どこまで進んでいるって言われてもなぁ」
「あっははは、上司の命令が出るまで大人しく何もしない…いつからそんな玉になった?」

何時の間にか二人とも立ち上がりお互いの顔を覗き込むように近寄っている。
美青年同士なら耽美だろうが、むさいオッサン同士だとどう見ても、 チンピラの因縁のつけ合いにしか見えない。

「へぇ…第四技研いって、ちったぁ行儀が良くなったかと思ってたが、
 その口ぶりじゃあ、自分も同類って言ってるようなもんだぜ?
 ははぁてめぇ…飛ばされてきやがったな」

「研究室に閉じこもって現場を無視した品拵えるより、
現地の実情調査から造るほうが性に合ってるんでな」

「本当にかわらねぇな、よく佐官様になれたもんだ。
 くっくっく、河岸変えようぜ、二度手間はごめんだ」
「いいねぇ。俺の好みで言やぁ、熱い吐息を吐いてくれる別嬪さんが居るとこが良いねぇ。」
「とびっきりのお嬢さん方が揃ってる、うってつけの所があるぜ」
「そりゃあ、大いに楽しみだなぁ、えぇおい」

ニヤニヤと顔を覗き込むように笑いあうオッサン二人
レムリア王都を統括する栄光の総督府より、
ドヤ街の赤提灯がぴったりな二人であった。

「まずはうちらのねぐらに寄ってくぜ、連れて行かなきゃいかん連中がいる。」
「遠いのか?」
「いや、この時間なら早めに昼飯食えば1300には着く」
「そりゃいい、別嬪さんに会うのに腹を鳴らしてちゃ、しまらねえしな」
「だな、あぁ佐世保、洋食は平気な口か?」
「おう、独逸に5年ほどいたからな」
「ほう、外遊たぁ羽振りがいいねぇ」
「仕事だよ、仕事。でなきゃ芋とキャベツの酢漬けしか、
食え無い国に好き好んでいくか」
「…そんなに酷かったのか?」
「あぁ、帰国後の日本の不況が可愛らしく見えた。」
「そうか…」

進め!帝國輜重科、走竜隊 4

ほどなくして見えてきた仰々しい門をくぐると、
倉庫の中で無駄なく働く輜重科員が見える。
「ここがレムリア方面軍輜重科の根城だ。
 今戻った!西山少尉はいるか!」
「はい大尉!」
「紹介する、陸軍第四技術研究所の佐世保技術中佐殿だ。」
「はっ!自分は陸軍輜重科少尉西山であります!」
「よろしく、西山少尉」
「硬くなる必要は無い、中佐殿は俺の幼馴染でな話のわかる方だ。」
「はっ!わかりました! 早速ですが倉山大尉、人員の選抜は終わっております。
 しばらくの間、機種転換訓練の名目で実務のほうから外しました。こちらが名簿です。」

「うむ、若い奴が多いな」
「小隊長級は、なかなか外せませんので。ですが、体力と熱意のある連中ばかりです。」

「よし、ならばいい 選抜者を集めろ早めの昼飯を片付けたら乗り込むぞ!
 おっとその前に西山、あいてる机はあったか?」
「はい、あります。」
「よし 佐世保中佐、机を用意させますが?」
「総督府のほうに一応席はあるが…まぁこっちにも用意しておいてくれるならありがたい」
「了解しました!手すきの者にすぐに用意させます。」

「輜重科と聞いて士気は低いかと思ったが、なかなかどうして活気あるじゃないか」
 連絡のため離れていく西山少尉を見送りながら佐世保が関心したふうに言うと
「うちは俺が目を光らせているからな、だが他も同じだと思うと…間違いがおこるぜ」
 詰まらなそうに呟く倉山だった。
「だからこその戦竜採用計画か?」
 倉山は煙草に火をつけて大きく吸い込み吐き出した
「装備も人手も足りないってのは勿論あるが、何時までたってもぱっとしないなんて
思わせて仕事させるよりは明確な目標に進ませるほうが良いんだよ。
 結局、現場は現場なりに頑張らなくちゃいかんのは何処だって同じって事だ。」
 もういちど大きく吸い込んで大量の煙を吐き出すとボソリと言う
「力貸してくんねぇか?」
「お偉いさんは即戦力化の方に目が行ってるぜ」
「ごまかせ」
「餓鬼のころから無茶しかいわねぇなお前は…」
「石ころかじって弾の無い鉄砲でドンパチ出来ると思ってる馬鹿よりはましだろ」
「くくくっ違いねぇ、だがな、下手すると輜重科が前線に立たされる事にもなりかねんぞ」
「胸張って生きるにゃ、血を流さなくちゃいかん時もあるさ。
 それに忘れるな、俺達輜重科も軍人なんだよ。」
「そうか…」
「そうだ。」

呼び声に目をやると、食堂の方で手を振る西山少尉と6名の若者の姿が見えた。


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