『進め!帝國輜重科、走竜隊』1


帝國の版図がレムリアを含めて広大に広がっている現在
大きな問題が立ち塞がっていた。

補給経路の確立である。
帝國本土からの距離とインフラ設備の未熟さが帝國の前にあった
もちろんレムリアを中心に大陸鉄道が急ピッチで建設は進んでいる。
しかし完成するまでの穴を埋めるべきは輜重科であったが、
その輜重科の扱いがまた問題であった。
 1907年まで陸軍大学校では輜重科(しちょうか)の入学は、
認められず、その後ですら毎年1名しか認められていなかったのである。
「輜重輸卒が兵隊ならば 蝶々トンボも鳥のうち」等と言う野次が飛ぶほど
冷遇されていた兵科である。
 しかも、転移による陸軍の大刷新でもこの構造は変わらなかった。
 当初、無駄飯ぐらいの輜重科から兵を削減せよとの声が大きく、
実際、輜重科から削減されていった。
 もっとも削減規模が大きかった為、輜重科だけが削減されたわけではなかった。
 それでも他の兵科よりもかなり割りを食らったのも事実である。

転移してしばらくは、まだ帝國の版図が沿岸部周辺に限られていた為まだ良かった。
しかし内陸部の大国レムリア併合から事態は大きく変わっていったのである。

「いったいどうなっているんだ!畏れ多くも総督殿下の御身を
 御守りする近衛師団への補給が滞るとは!」
(人手も装備も足りないんだよバーカ)
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす近衛師団の大尉に
輜重科の倉山大尉は表面は申し訳なさそうな顔をしていたが、
内心沸騰しかけていた。
(大体他の兵科にかまけていて補給の要たる輜重科を蔑ろにしてきた ツケがたまったんだよ)
一通り怒鳴り散らし少しばかり落ち着いたところを見計らって
「わかりました、至急手配しましょう。明日には物資が届くこと間違いありません」
堂々と言い切った。

近衛大尉を丁重に送りだした倉山大尉は執務室に戻ると足を投げ出し 煙草を大きく吸いだした。
(実際明日にはつくんだよ…だが荷の積み下ろし用の人手から輸送手段の手配…
輜重科は無い無い尽くしだ…)

「輜重輸卒が兵隊ならば 蝶々トンボも鳥のうち」なんてほざいてくれる他の兵科は
当てにならん。同じ陸軍であってもだ。

どーっすかなぁ

まず輜重科の装備自体がモータリゼーションの波の中でも後に追いやられている。
トラックの生産台数の少なさがその証拠だ。
 例え生産されても歩兵科の移動用に優先的に配備される。
中古でも回ってくれば御の字だから、トラックの方は当てにならない
次に同じ輜重科であっても他の連中も当てにならない。
輜重科にまわされた後でやる気をもって仕事をしている者等数えるほどだ。
ほとんどが官僚的に右から左に書類を回してるだけだ。

……このままじゃいかん、何とか士気を上げて軍内部に輜重科の重要性を認めさせないと
そのうち取り返しのつかない問題になる。
問題は輜重科だけじゃない帝國陸軍全体に及ぶそれは帝國本体にも及ぶという事だ。

俺達は輜重科だ。輜重科の本分とはなんだ?
 限られた物資を必要な必要な場所に確実に届ける事だ。
戦場でドンパチして敵を殲滅する事じゃない…

よし!たとえ平時であっても俺達は戦時と変わらぬ仕事ができる唯一の兵科じゃないか!
まずは行動だ!
かねてから暖めていた計画を典位参謀殿にお願いしてみるか

早速アポイントメントをとってみると、意外な事にあっさりと面談が約束された。
「お初にお目にかかります。典位参謀殿 自分は帝国陸軍輜重科 倉山大尉であります。」

「うん、輜重科についての意見具申という話だが何故私のところに?」
「はっ! 旧レムリア王国軍の協力が必要な為です。参謀殿にはその仲介を是非お願いしたく、
誠に不躾ながらこのように面談をさせていただいております!」
「くくくっ、倉山大尉だったか、君本当に不躾だなぁ」
「は、何分平民出の為 礼儀に欠ける所多大でしょうが何卒お許し願いたく!」
「あぁあぁ、もういいよ」
 そう言われて落胆の顔を見せる倉山だったが、
「同じ陸軍の身内同士なんだ、もう少し楽に話そう。」
「はっ!ありがとうございます!」
「それで、旧レムリア軍との仲介との話なんだが具体的にはどういう事なんだい?
輜重科が大砲や兵隊が欲しいってわけじゃないだろう?」
「はい、輜重科が欲しいのは『竜』です!」

「りゅう? 竜って『戦竜』の事か!?」

「はい!参謀殿はもう十分知られているでしょうが、この世界の荷役馬は本国の馬と
比べたらとことん貧弱であり、代替の馬を現地で用意する事は難しく、
かといってトラック等の輸送車両の配備も歩兵科などが優先的に行われます。
 ですが兵の毎日の食料や弾薬などは、日々消費されているのです。
 現在でも輜重部隊の荷役馬はフル回転しております。しかし、この広大な大陸を、
縦横無尽に補給物資を行き渡らせるには荷役馬の絶対数が不足しているのです。」

「……そこで荷役馬のかわりに戦竜をつかおうと?」

「はい!戦竜の頑強さ、馬力いずれをとっても本国の荷役馬に劣るとこ無く、
むしろ勝っております。 それに戦竜はガソリンがいりません。給油施設などが
未設置の地域においても十分活躍できるものと考えます。」

「戦竜の御者はどうする?あやつれるのか?」

「戦竜の原種は飛竜にくらべて魔術的な部分が少なく帝國人にも扱える可能性が高いと聞きます。
 また輜重科の性格上、戦闘機動させる必要性も少なく最低限の訓練で実務投入が、
可能だと考えます。」

「…面白い、司令官閣下には私の方から提案しておく。
 倉山大尉は今からレムリア軍戦竜舎に赴き、実用に耐えうるかどうか調査を開始したまえ。 
 典礼参謀名義での要請書を事務に発行するよう通達する。帰り際に持って行きたまえ」

「はっ!あ、ありがとうございます!」

この時こそ、帝國陸軍輜重科実験部隊 別名「走竜隊」が産声を上げた瞬間である


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