『獣人労働者』


よーし今日の仕事も終わりだ。
全員ひとっ風呂浴びて飯にするぞー!
おー!

ここは帝國直轄領の港
近くの鉱山から算出される良質の鉄鉱石を、
運び出す為に港の整備を行っている最中である。
重要な労働力としてこの地の主力となっているのは、
他の地域と同じく獣人たちであった。

月がぁでた、でーた
月がでーたー あ、よいよいっと

「おやっさん、何すかそれ?」
「おう、これか?帝國に昔から伝わる歌でな
気分の良い時に歌うんだとよ」
「へぇ、おやっさん 物知りっすねー」
「わっはっは、伊達に帝國の旦那方から物を教わってねーよ
 さぁ飯にしようぜ」

湯上りで軽装のまま食堂で山と盛られた黒パンやコロッケ、
シチューなどを旺盛な食欲をみせて食べる光景も
他と変わりない

「しっかし、今でも時々夢じゃないかと思うんすよ」
「ん?」
「俺たちがこうやって大手を振って、まともな仕事につけて
美味いもの食えるなんて」
「あぁどこに行っても獣人だとばれたら良くて追放、大抵は
総出で狩られて私刑が当たり前だったからなあ」

「そうっすよ、でも帝國なら獣人のアドリーですって名乗っても
珍しい者を見るような目で見られるけど、それだけっすから
近寄っても怖がられない、嫌がりもされない…
 へへ、たったそれだけなのに最初のころはもう泣けるほど嬉しかったんすよ」

「あぁ奇跡のような国だ。おまけに俺たちの国まで認めてくれた。
 獣人の国マケドニアか…
 5年前なら笑い話にもならない出来の悪い冗談だったのにな」

おやっさんと呼ばれた纏め役の獣人が、かみ締めるように呟くと
急に大声をだした。

「だからだ、お前ら 気合いれて働けよ!
 帝國が他のくそったれな国に俺たちを認めさせれたのも帝國の力あっての事だ。
 その『国の力』って奴を支えるのに俺達の力が必要だって言ってくれるんだ。
 ここで汗水流すのは回りまわって俺たちに返ってくる、いやもう返ってる!
 俺たちがようやく手に入れる事が出来た、この『当たり前の平穏』って奴を
守るために俺達が頑張らなくてどうするよ!」

おぉおおー!
周りで聞いていた他の獣人労働者も皆、賛同の声を上げていた。
誰もが流浪の生活を経験し、貧困にあえいだ事があった。
同族以外信じられない 普通人など正体を知られたらあっさりと
手のひらを返すように裏切る。それが彼らの共通認識だった。
だが帝國はどうだ?
彼らは自分達をありのままで良いと言ってくれたのだ。
誰にも偽らずに生きていいのだと。
若者の一人が帝國バンザーイと叫ぶと周りの者も続いた。

帝國の若い技術士官と周辺の地質調査の報告に来ていたダークエルフの若者が、
仕官食堂からの帰り道でこの万歳三唱を聞いていた。

技術仕官はあまりの熱狂振りに最初は何事かと構えていたが、
話の内容を理解すると
「帝國の友邦として頼もしい限りだ。」と満足げにうなずいていた。
 ダークエルフの若者は感慨深げに技術仕官にうなずき返していた。

(…諸外国の連中は彼らの盲目的な忠誠心を、
『犬の忠誠心』とあざ笑うだろうな。
 だがそれは奴らが今までの主流派だったからだ。
 今まで人並みに扱われなかった者たちにとって、
帝國の好意というものがどれだけの価値があるのか、
本当の意味で理解しているのは
我等ダークエルフと彼等ぐらいなものだろうな)

皮肉屋で滅多に感情を表に出さないダークエルフの若者であったが
口の中で小さく、だが厳かに帝國万歳と呟いていた。


inserted by FC2 system