『唄う海』後日談2


ヴァイスローゼン・ペルトバジリスク

荘厳な音楽隊の奏でる演奏の中、かつてのネームレス、アシェスの戴冠式が諸候が集まって執り行われていた、引き続いてリーネとの成婚の儀も
『まさか、あの状態に陥って国が持つとは思えませんでした』
もともとラスプーチンと共に政権を奪取した時点で諸候の半数以上は様子見、もしくは半敵対の形を取っていた。残った諸候も列強地上軍との戦いで壊滅状態、あげく第二の都市、ハマは芥塵に期し、復興に負担を強いることがわかり切っていたからだ。
『当然だ、帝國がまがりなりにも味方した。加えてあの虫どもとの戦いの時、列強、帝國、そしてこの国が共に戦ったという事実は残る。誰がそんな世界最強の連合に手を出したがるというのだ?ま、その既成事実の為に手元に居た騎全てで助勢に行ったのだがな』
儀典のさなか、顔を動かさずに二人は会話する。
かの目論見があってこそ、リーネはとりもとりあえずワイバーンに乗って飛んだのだ
『それに帝國人のこの国に《永在》する駐在武官がやってくる、帝國とまだ手を組んでいると他の国は見るだろう。今回のような兵力派遣が二度と無いというのに、その幻想に怯えてな』
『まったく、あなたはおそろしい』


呆れたようなアシェスの声
『私の発案じゃ無い。帝國の永野といった御人の案だ、だからこそ私のように帝國の息のかかった人間との婚儀がこうやってすんなり行われている。少なくとも帝國の意向を我々は無視できない立場だ』
なにせ対馬丸等の帝國への裏切り行為とされることは全てラスプーチンに押し付けて新政権、いや、正当な王権を持つものが立つことが必要とされたのだ。ある国に悪い人が居ましたが、帝國の味方の人が悪い人を追い出して仲良しの国になりました。誰にでもわかりやすい図式だ。もちろん、帝國本土の民にも
それを演じなければすぐにこの国は消し飛んでしまう
『・・・未だに私はあの時より何をすればいいのかわかっていない。帝國から指針があるなら、まずはそれと復興に費やす時間で考えていくしかない、か』
『ああ。私にはかわいい姪が居たからな。それを守ることしかなかった。それが今ここにある。私に出来たことだ、お前にも出来るだろう?国王陛下』
『でないと尻にしかれたままか?皇后陛下』
お互い微笑みあう
『そうだ、ついでに名乗りをかえてはどうだ?』
灰からフェニックスは蘇るといわれる、ならばアシェス(灰色)からは
『フェニキアス(創成の火帝)とな』


サオーマ・ミヌィスカワ

『やはり結局のところ、周辺諸候の取り込みには各国は失敗した模様です』
リィズが報告する、既にサオーマの軍は列強の派兵した軍の中で一番最初に帰国の途についていた
『作戦の必要上でありもしても、おい達はヴァイスローゼンの領土から一兵残らず退いたこっになる。その上で帝國ん助力があっとすんなら、おい達の敗北は明白。こっちに諸候が付くはずがなか。状況が不鮮明なままで事態が安定化すっとならば元の鞘に納まるとが一番の手たい』
その分駐留する維持費がかかる。大兵力ならなおさらだ。しかし、なんらかの成果が欲しかったイェンサーやワラキアの以外のほとんどの軍将はヴァイスローゼンの周辺諸候の切り離しに着手していた
が、結果はこのとおりだ
『動員して、成果を得る所か、戦わずに帰る。これだけでどれだけの損失を被ったのか』
無論、列強軍としての連携行動の経験は得られたであろう
『しかし二度目が出来るか、正直なところ疑問です』
やはり多国籍軍では指揮系統の一本化が出来ず、戦功勲功の所在や、誰がどの所領や金子からそれを出すのか
日本で言う天下人、豊臣秀吉。権威として室町幕府の足利義昭が存在しない事はやはり大きいのだ


『必ずしも列強同士は友好だとは言えません、今回の協同派兵が強大な帝國が居たからこその奇跡なのかもしれません』
そして悔しいが、軍事的にはそれでも完敗した。六ヶ国でワイバーン・ロード1500余騎を動員した空中騎士団は1000騎近くを喪失し、海洋戦力は戦力と呼ぶ事すらおこがましい状態だと言うことが判明した。地上戦でも、あのワラキア殿ですら苦戦した・・・(ガス戦という突発的状況で崩れずに戦線を維持したことがむしろその有能さを示している)
『戦ん締め所が勝敗の決め所であり申すよ、リィズ。まだ、戦はおわっちょりもはん』
『あの戦船、ですか?』
『ちぃと違う、よく考えれば水軍は水軍じゃ、たとえ勝ったとしてん、本土という胴体がのこっちょる』
『・・・っ!』
インパクトが凄すぎて失念していた、確かにそうだ
『あげなもんがいっぱいあるっちゅうこっだけで、それにどんだけの人間が気付いたじゃろか?ただ、印象のみで帝國を追い掛けてん、本当の力がつくじゃろうか?国の力は人の力じゃ、無理をすればほつれがずっ、酒も一気にあおれば楽しめずに酔い潰れっ・・・技術も同じもんたい』
リィズは求められている事に気付いた
『ならば、無理をしたところを一気に!』


がっはっは!とイェンサーが豪傑笑いをする
今後起こるであろう技術戦争ばかりを考えていた・・・しかし無理な技術追求は金がかかり、その負担は民へと重くのしかかる。技術は又聞きで汎用化したものを手に入れ、特殊なものは奪って手に入れる、帝國をあまりに見る事で、弱体化したその時を狙って、総取りとは・・・!
『時は多少かかりもす、子や孫の代になるやも知れぬが、今は国内をさらに調え、たゆまず力を蓄え、時を待つのが肝要。そん時が生きとる時に来れば、おはんにも、もっと働いてもらわにゃならんな。もっとも、兄者達のさ配次第でありもすが』

我、この人に勝てず

リィズが膝まずく
『このリィズ、必ずやイェンサー様のお力に・・・!』

列強とて一枚岩では無い、足元を掬われるのは帝國からだけとは限らないのである


小笠原沖

『第二十一根拠地隊は本日を持って解隊、筑紫は大修理を成す為、本土に帰還する。みんな、ご苦労だった。私は本土までの指揮を執り終わり次第、予備役編入となった、そのまま退役だろう』
小値賀が電信の紙を見つつ発表する
『小値賀大佐、ご苦労さまです』
『退役だなんて!まだやれそうじゃねぇですか。』
首を横に振る小値賀
『いや、予備海軍中佐から復帰していろいろやってきたが、そろそろ後進に席を譲るべきだろう・・・一支中佐、貴官は本土帰還と共に大佐に昇進、新設の第121根拠地隊司令を拝命、隊創設に備えよ。対馬中佐、君は同じく昇進し第122根拠地隊だ』
小値賀なりの手向けなのだろう
『俺達が隊司令・・・ですか』
実感が湧かない、海防艦四隻の主となるのだ
『艦長職は先を譲ったが、今度は同時だな。一支、任期を考えれば、俺の方が優秀とやっと認められたかな?』
対馬の方が艦長職に奉じられて短い
『アホ抜かせ、お前には負けねぇよ』
二人に小値賀が微笑む、この二人は競わせた方がよい、互いに切磋琢磨してくれることだろう
『そしてこの艦には新しい制度により、報償として菊の御紋が装着せられることとなった。殊勲艦と認められた事になる』


大陸に展開する海防艦や配属された人員の異動が距離的に頻繁に持ち回せないことから、旧式戦艦に於いて武勲のある艦からは菊の紋を外さなかった事を利用し、大陸に於いて成果を挙げた艦を表彰するシステムである。菊の御紋があるのだからと、工作艦や給油等補給の番を先にしてもらったりと利潤もある(一定期間の間は無論休暇や内地帰還も優先される)対馬や一支は享受できないが、筑紫の兵達はその恩恵を受ける第一号となるだろう。士気の維持には効果的だと判断されたのだ
さらに武勲を重ねた艦には菊の御紋の次に煙突に白線を一本二本と増やしていく事になる、こういう艦だと本土の連合艦隊内でも出来合い、促成栽培、低練度と言われる大陸展開部隊でも一目おかれる地位に就くことが出来る。特に御紋がなく、上記の罵声(近親憎悪からか?)を浴びせることが多い駆逐艦乗り達を見返す事が出来るのだ、励みにならないはずが無い
『そういえば、今度、少佐の艦長が生まれるとか?』
『数が足りないんだから仕方あるめぇ』
現在海軍内では階級の一段階上乗せが行われている、予備士官などで下の層が大きくなってきたためと各勢力との付き合いのためだ、少佐なら一段階下、本来は大尉程度と見た方が近い


『そうだな、隊司令が中佐になるという噂もまことしやかに噂されている』
隊司令が中佐になる、つまり志摩の特佐という階級は、派遣される艦艇を一時的に指揮できる(最低でも海防艦の分隊なら中佐や少佐以下になる)、列強に対してそれだけの権威を持つ者を派遣するという意味を持たせる為に創られたものだ。かつ、彼は連合艦隊、ひいては海軍、つまりは本土からの統制下にあり、現場の人間の好きなようには使わせないつもりなのだ。しかも戦災後の危険な地、なにかヘマをやらかしたり《処理》が必要になった場合、階級詐称を含めて家族、女もろとも消す、そういう算段だ。オールオアナッシング、である
それはともかく小値賀の言に一支がニヤニヤしつつ対馬の背をばしばしと叩く、つまりはそういうことなのだ、と


『今は違う、そうだろうが!』
対馬は一支の脇を小突く
『まぁ、階級が変わろうが責は同じだ、今後の海軍を頼むぞ、二人とも』
『『はっ!』』



一支が小笠原の青い空を見て呟く
『しかし、ターニャとあの二人、どうしているものやら』
『頑張ってるさ、みんなな』
対馬が舵をとる


その空はどこまでも青かった


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