『唄う海』61


あの日の出撃はひどいもんでした

そう龍騎士は語った

龍舎に居るときには機銃弾、というんでしたっけ?帝國の機龍のブレスに追い掛けられるわ、反撃だと勇んで出撃してみれば、悪魔の塔

ああ、扶桑と言うんでしたね、私達の間ではそれで通っています

それが噴き上げてくる炎の壁を突き抜けねばなりませんでした。操龍は難しくなるし、帝國さんはあまり関係ないようだけど、炎の壁にくわえてドンドンという音と一緒に出てくる黒い毒雲も厄介でね。そこを突っ切るときに息を吸ってしまった仲間ですが、肺をやられてしまってねぇ・・・

実は、第三次攻撃隊には入れなかったんだ、龍にだって恐いって感情はありますからね、一時待機が言い渡されまして。おかげさまで、彼等ほどはひどい目に会わず生き残ったわけだけどね

でも、第三次攻撃隊がぼろぼろで帰って来て、もうすぐ日が傾くから攻撃隊を出す事はないなって時間に騎士団長が呼ぶんですよ

すわ、薄暮攻撃か!?

と思ったら、なんと帝國の空母へ飛ぶと言われまして、しかも攻撃じゃないんですよ?ええ、納得できませんでした、憎っくき敵でしたから

でも、我等龍騎士団は忠誠を持って鳴る部隊でしたから、命令は絶対です


飛び立ってしばらくすると、各所の龍舎からワイバーンが集まって来て、一旦集合したのですが、総勢は50から60騎は居ましたね、今日一日で攻撃した回数とあの迎撃を考えれば、全力といって間違いはなかったでしょう。

畜生、爆弾なり魔法の槍でも持たしてくれりゃあ・・・

矯導に現れた機龍に、何度ブレスをブチ込んでやろうと考えたことか。操者はさぞ肝を冷やした事でしょう、殺気って奴はわかりますからね。今では笑い話にしてるかもしれませんが

しばらく・・・二時間程でしょうか、飛ぶと空母が見えてきましてね、途端に勝つ気が失せましたよ、一隻でとにかくデカい、そして広いんです。そこに降りろと手で指示されまして

こうなったら見るもの全て覚えてやるってね

ええ、ヤケでしたね。

そういえば、あの信濃という偉大なる母艦はどうなっていますか?え?もう一隻増えて入れ代わりに改装中?まいったなぁ・・・あの食堂で食べた料理の味が変わってないといいのですけど。

今度の周辺国海軍総合演習の際には、その増えたもう一隻、薩摩、ですか、その味を確かめにいかせてもらいましょうかねえ?強行偵察ですよ?勿論ね、はっはっは

ああ、翌日の話としましては・・・


あの日は俺達整備員にとっちゃ、てんやわんやの一日でしたよ、朝は空母の中を一気に空にする出撃でしたから

初陣のこの母艦じゃ事故が多発してもおかしくない。だが今日は晴れの舞台だ、恥かかないよう気合入れぇ!!

なんて整備長は叫んでましたよ。まさかあの人が亡くなるとは・・・ええ、大鳳の爆沈事故で・・・噴進式の機体燃料の保持に関してノウハウがまだ集積できておりませんでしたから。しばらくぶりに意欲作をようやく海軍に送り出せた中島さんが全キャンセルを喰らって零落して・・・

ああ、脱線したな、あの日の事だったね。攻撃隊が飛び立った後は寝たね、うん、仮眠で寝て起きたぐらいが攻撃開始時間なんですよ、傍受の可能性がないから、誰誰が何した、とか、艦攻からバンバン艦内放送で流れて来てね、艦長のサービスだったんでしょうけど

おい、やったな!

なんて、担当の機が戦果をあげると仲間うちで肩を組んでは腕を振り上げて喜んだものです。完全な奇襲でしたから、他艦では発着艦の際の事故で損失機が出たみたいですが、本艦は損失機が全くなかったですからね、呑気なもんですよ、敵に海上から遠く離れた目標に向けて攻撃隊を送る能力は無いとわかってましたから


敵の想定圏外だからとて警戒を怠るな、勝って兜の緒を絞めよ

て、小沢さんから直々に通達がありまして、空気読めない人だな、とブーブー文句も、今ここで白状すると吐きましたよ。有り得ないことですが、もし、潜水艦が居たらと思うとゾっとしますね、全く無警戒でしたから。今はGF長官をお勤めになっておられますが・・・

おっといけない、あの日の事でしたな。脱線し過ぎてますな

整備班というのはこういうときはホントによく働きます、帰って来た機の整備は、予定よりかなり早く終わりました。なんでしょう、流れ、というかリズムって言うものでしょうか、そんな時

航空隊は各空母に移動、移動割を発表する、集まれ!

なんて飛行長から。被弾も何も、弾薬すら足りてるのになんで信濃を空にするんだろうって不思議に思いました。そのあと整備長が来てこう通達したんです

これから列強のワイバーンが飛んでくるから、馬の世話とかした事あるやつは前にでぇ!

私は訳もわからないまま手を上げました、私は東北の山出の猿でしたから、馬の世話は既に経験済みです。

では貴様らが責任者だ、粗相のないように、丁寧に扱うんだぞ!他の者はマッサージのやり方を教える!集まれ!


こまりましたよ〜。訳のわからない生き物の世話役ですよ?もう、食われるんじゃないかと、冷汗が止まりませんでした

何で最新鋭の信濃にわざわざ乗せるんですか!?

たまらず悲鳴を上げるように抗議するとね、爪が刺さって穴が開くんだそうですよ、木甲板だと。ささくれだって使えなくなるんで我々が選ばれた、と。当時の四航戦は信濃と大鳳のペアだったんですが、ワイバーンを恐れて小さい方に乗せたと言われては帝國の恥だからなといわれては、私のささやかな抗議なんか何の足留めにもなりませんでしたよ

な、なんじゃありゃ?

実際に間近にワイバーンの大編隊なんか見たら腰抜かしますよ、私もその一人でして、ぐおんぐおんと上下に羽根が動いとるのですよ?あんなデカい生き物が。そりゃあ標的としちゃあ認識してましたし写真は見てました、それでも衝撃でした、ええ

あんなのの世話なんて無理だ、絶対食われる、間違いなく食われる!

まぁ実際には、おっかなびっくりやってみれば、なかなか面白い相手でしたよ、鉄の機体もそうですが、気持ちいい時はきちんと答えてくれますから、ま、それよりも驚いたのは、翌日の出撃の為にですね・・・


ん?私か、そうだな、あの日については語ることが多すぎて、正直な所、何から語れば良いかわかりかねる
でもまぁ、あの機械仕掛けの神雷。大和、といったな。あれが行った行為のあと、イェンサー様と役割を決めて、あの悪辣な・・・褒め言葉と取ってほしい、松浦とか言う交渉相手とやりあって居たときだ

では、あの艦の処分はこちらがやってよろしいな!?

こちらがほぼ占拠状態にあった古鷹という鋼鉄艦、その処分を巡ってだ。帝國としては自沈作業はこちらがやる、引き渡せと言ってきたが、そこまで弱腰を見せる訳にはいかない。神雷を見て、恥ずかしくも私は衝撃に膝を屈してしまったが。譲れなかった。

あれには既に我々の血が染み付いている、我々の手で沈めなば、何の為の犠牲か!

いや、金きり声をあげるのはあれっきりにしてもらいたいものだ、イェンサー様はあれで、けっこういぢわるなのだ、多少子供っぽいともいうがな

処分の方法?我等に判らぬと?

処分の方法は確かに聞かれた、我々だとて、研究はしていたのだ、侮られては困る。魔硝石、あれは爆発を起こすな、風の魔石は帝國も時たま使ってると聞く、我々が使ったのは

魔導師、用意していた氷の魔石を撒け!!


古鷹の片舷に魔導師達と魔石で氷を張ってな、私も騎士をしているがちょっとした魔術が使える、同じく風の魔石と魔導師と共に突風を一時的に起こして高波を造ったんだ、意外に思われるがバランスの崩れた船というものは実に波に弱い

はぁはぁ・・・どう、だ!

だが、よほど船が波に慣れているのか、かなりの波が必要で、死ぬかと思ったぞ。ああ、実戦には役にたたんだろうな、敵船が止まった状態で沢山の魔導師が要る。だが、我々も水上で敵を沈められるというポーズが必要だったのだ

つ、次にヴァイスローゼンについてだが

息も絶え絶えで切り出した所だったかな?実直そうな馬鹿・・・これも褒めている、本当だぞ?馬鹿なのは男の魅力でもある。あーなんだ、そんな事はどうでもよくてな、あの男が持って来た映し絵。写真というのか、それを見せられてな。協力しろなど、普通は受けられるものか。まったく・・・それをイェンサー様は二言三言で受け入れてしまうんですから。馬鹿・・・

一体何をするつもりなんだ!

怒鳴った私にあの男が語った作戦は馬鹿を何度付けてもいいものだった。だが、付き合ってみたくなる馬鹿だったのも、くやしいが本当だった

で、次の日の事だが・・・


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