『唄う海』外伝05


『おーい、魚ぁ!生きとるかぁ!?』
桟橋の前につけた車の影から浦出警部が叫んでるので手を振り返す

『ひでぇ有様だな、お互い』
海から上がってみれば浦出警部も爆風で体を持ち上げられたらしく、泥と埃だらけの風体である、ちょっと悪態ついた自分に自己嫌悪
『湾港部のオフィスで整理しましょう、このままじゃ、後手もいいとこ・・・弾もいい加減切れちゃったし、補充しないと』
『そうだな』
警部の九四式は効かないし、何か良い手を相模中佐なら編み出してくれるかも・・・ああその前に説明があるわね、面倒だけど
『よし!車は動くようだな、風通しが良くなり過ぎちまってるが、乗れ!』
海防艦の爆発した方が全部割れてる、動作確認やらをしていた警部が私が乗ったのと同時に車をだす
『中佐も含めて、何か現場で証拠があがってるかも、それを持って来させないと信用させられないわ』
『だな、海軍さんなり陸軍さんなり、こっちに増派してもらわねぇと話にならねぇ、落葉を呼ぼう』
これはもう、警察力程度でなんとかできる事態じゃないもの。警部が無線をいじる 『そうか、でかしたぞ!』
『どうしたんです?』
『劇場での一部始終を報道班が8oで撮ったやつが手に入った』


『ど、どうなさったんですか!?お二人とも、それに港で爆発音が』
キャサリンたんが湾港部に戻って来たら真っ先に応対してくれた、後ろに獣人の子供達、一緒に建物の中で遊んでて外で何があったのか全く知らないらしい
『まぁいろいろあったのよ、着替えてくるわ』
『落葉が来るまでここで待っとる、キャシー君、タオルをくれんか?顔は拭きたい』
『あ、はい!ただいま!みんな、おとなしく待ってるのよ?』
『はーい!!!』

後ろの子供達とキャッキャと遊んでいるらしい子供達と浦出警部の声を聞きつつ更衣室で服を脱いで、菜っぱ服(第三種軍装)を着る、ポケットが多いから弾倉をより多く持ち運べるのが魅力だ・・・しかし、私らどうするのかしらね、あくまで湾港部に過ぎないのだし
『警察力で出来得るかぎりの治安維持をしつつ現状を維持、かしらね・・・』
まぁ私らもそれを手伝うことにはなるだろうけど
『先輩、伝言です。みなさんお揃いになりましたので着替えが終わったら会議室に来てください』
キャサリンたんが呼びに来た、落葉さん意外と早かったわね
『あ、うん。待って、今行くわ』
ともかく、あのガミガミ中佐を黙らせて、何としても部隊の増援派遣を頼み込まなきゃ


会議室に着いたときには現場で撮られた8oフィルムが上映されていた、バッチリ自分も撮られてる、恥ずかしいわねこれは・・・ただ、見てる殆どの人間はア然としている、何の前触れもなく人が燃え上がり、そして私の銃撃。それなりに当てられる腕だとの認識はみんなに持たれてある、そして・・・熔けた
『な、なんのトリック映画ですか?これは』
ゴン太君、まぁ普通はそうよね
『こ、こんなもの相手に我々は戦うのでありますか?警部』
あ、落葉とかいった警官、中身は見ていなかったのね。直接対峙するには確かにこれじゃ不安過ぎるかも
『先輩、これでよくご無事で・・・』
キャサリンが胸をなでおろしている、ありがとう、でもこれからなのよ
『海防艦の爆発は私も見ていた、これは由々しき事態だという認識は浦出警部とティータ潜水士の二人と変わらん・・・こんな化け物が居るとは未だ信じられんが、こういった映像を見せられてはな』
浦出警部が頷いた、ガミガミ同士話を先につけたみたいね、ありがたいわ、私じゃ説得する自信ないもの
『海防艦は先に出航していた2隻に早晩戻ってくるよう要請しよう。地上の人員増援は2艦からの陸戦隊抽出で行う。すぐに出来るのはまだこれだけだ』


これには浦出が渋い顔をする
『それでは少な過ぎる、武器の方も我々警察機構が保持している九四式拳銃ではどうにもならないことは言わせていただいた、正直ここに置いてある南部式でも相対するのはこちらに不利窮まりない』
私も相模中佐を見つつ頷く
『しかし、私の権限で好きにどうこうできる範囲はそこまででしかない、もしくはさらにもう一つ上、緊急時派遣艦隊群を呼ぶか、だ』
緊急時派遣艦隊群・・・大陸に常に配備され、突発的紛争が発生した場合、帝國海軍が一番最初に展開させて解決にあたらせる部隊だ、大陸に展開する全ての根拠地隊の親玉でもある、戦艦山城を中心とした旧式艦を隊の主体とし専用の陸戦隊も持っている
『この事件を紛争と同じレベルと見なさなければ艦隊は動かせない・・・たしかに海防艦はやられたが、こうして警察機構は動いている、何らかの部隊に攻め込まれてるわけでもない』
つまり、簡単に言えば死人が足りないのだ
『傭兵を集めるとかは出来ないんですか?』
ゴン太君が聞く、そっか、その手が・・・
『誰が賃金を払うのかね?軍や警察が報償を払うとしても、出張所あつかいの警察庁、湾港部の我々では払える金自体がたかが知れている、貯蓄を含めてな』


全市をカヴァーする程の人員は雇えない、武装もバラバラ・・・なにより雇用に乗ってくるのは流民、下手をすると肩書きだけで何をするかわからない所がある
『その案は最後までとっておこう、あまりにも劇薬過ぎる。関東大震災で自警団がある種の暴徒となった事を忘れてはならない』
浦出が舌をうつ、やはり私と同じく期待していたが相模の言うことももっともだからだ
『武装に関しては多少あてがある。数は揃えられそうにないが』
『え?』
どこに?
『海防艦は2隻とも完全に破壊されたわけではあるまい?武器庫に陸軍のあまりものの三八式歩兵銃があるはずだ、ライフルだから貫通力その他拳銃とは比べものにならん、それからゴンダルス!貴様の私物も提供せい!』
ゴン太君?
『あ、あれは部長・・・狩猟用でかなり接近しないと・・・使いにくいですし』
『ショットガンでも拳銃よりはましだ、今は貴重な武器だ、つべこべ言わずに出せ!』
『は、はいぃっ!!』
しどろもどろで答えていたゴン太君に相模中佐が一喝する
『我々から警察の方に余剰兵装を提供するというのは本来ありえないが、保管する要員が失せてしまい、我々だけでは完全な管理ができない・・・つまりはそういうことだ』


『おじちゃーん!!』
預かっている獣人の子供達が会議室に入って来た
『あ、こら。入って来ちゃダメでしょ?パトカーのところで遊んでなきゃ、めっ!ですよ?』
キャサリンが子供達を窘める
『違うの〜、パトカーから助けてくれ〜って、それからバァンバァンっておっきな音がいっぱいして・・・切れちゃった』
『なんだとっ!?』
キャサリンを除く全員がその場を立ち、パトカーの元へ

無線を浦出が扱う
『出張所本署、応答願う!』
『ザザー・・・』
『第四分署!!応答を!』
『ザザー』
『だ、第六分署!!!聞こえるか!』
『浦出警部!』
『よしっ!繋がっt』
『た、助けっ!ば、化け物どもが警察署に!!う、うわぁあっ!!』
『ザザザザザ・・・ザザー』
『おい!どうした!おい!!』
無線は砂嵐を伝えるだけでなにも答えない
『何故警察署を襲う・・・何故だぁああああっ!!!』
浦出がガンッとボンネットを拳で殴る、握り締め過ぎて血が出ている
『・・・浦出警部、警戒に出ている者達は無事なはずだ、状況を確認しつつここに集めてくれ、そして!私は緊急時派遣艦隊群の派遣をここに要請する事を決定する!』
相模中佐が宣言した、異を唱える者は誰も居なかった


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