『唄う海』外伝04


駅馬車や、露天商の荷車等を浦出の運転で乱暴に避けて海防艦がつけてある桟橋へとパトカーで急ぐ
『魚ぁ貴様何か隠し事してねぇか?』
運転で正面を睨んだまま浦出が問う
『射殺しろだの人の通れない場所を考慮に入れろだの・・・何か知ってんじゃねぇのか?』
『・・・』
もしかしたらあれと相対するかもしれない・・・自信無いけど説明しなきゃかな
『相手は人間でも獣人でも、ダークエルフでも・・・そしてレーヴァテイルでもないわ』
『・・・なんだそりゃ?新手の珍動物の一種か?擬態をつかう、いや、それでも共演者らが気付かないはずが無い、そんな完璧な擬態なんてできるはずがねぇ』
『ううん・・・擬態とか、そういうのであれば、それほど私も心配しないのだけど』
自分の拳銃をだしてみせる
『これを一弾倉全部食らわせたけど・・・あれは平気な顔をしてたわ、そして、熔けて下水に流れていった、次の公演は終わっていないって言って』
キキィー!!!と浦出がブレーキを踏む
『おい!なんだそれは!犯人(ホシ)が熔けるだってぇ!?』
『全部、全部よ、叩き込んだわ、確実に・・・』
浦出がティータの拳銃を取って銃口を鼻に近づける・・・確かに発砲した肖煙の香りがした


『火炎放射器でも使った特殊部隊あたりかと思ってたが・・・』
『信じられないのもわかるけど!!本当なの!信じて!』
私だって否定したいし、逃げ出して他の人に担当してもらいたいぐらいなのに
『拳銃をしこたまくらって人を燃やす化け物、な・・・想像つかんし、この目で見るまでは信じた訳でもねぇが』
アクセルを一気に踏み込み、パトカーを先程と同じく乱暴に飛ばす
『俺のシマで暴れた分はきっちりお縄にしてかえさなきゃならねぇ!!違うか?』
『ど、どんなやつなのか、全然わからないのよ!?』
ものすごく不安な私ににやりと浦出警部が不敵に笑う
『だったらなおさら、海防艦の海軍さんにゃあ活躍してもらわなきゃなんねぇ!そのための俺達だ!つかまってろ!少し浮くぞ!』
坂を全速力で駆け上ったパトカーがジャンプした、痛っ!頭打った
でも、この人のこういう言動ややり方だからこそ、警官達の精神的支柱になれるのかしらね
『そう、そうよね・・・確かに。ごめんなさい、あたしらしくなかったわね』
『しゃあねぇさ、100人単位での人死にだけでも普通じゃねぇ、化け物がどうとか、それがなくても動転するのは人間様として当然でぇ!』
『私はレーヴァテイルだっつの』


多少は気が楽になった
『少し、落ち着きました。ありがとうございます、警部』
『年季がちげぇよ、年季が』
ガハハハハと豪傑笑いをする浦出警部

桟橋に到着した、人がいる気配がしない、あたりを慎重に確認しつつ車から降りる
『発砲音もなにも聞こえない』
劇場で感じた熱さも、遅かった・・・?
『おい!』
浦出警部が呼ぶ、無線に出た桟橋入口の詰め所だ
『ひでぇ事しやがる、劇場のやり口もこれか?』
兵が無線の受話装置を持ったまま炭化している、間違いない、彼女はここに来ていた 『ええ、間違いないわ』
桟橋には簡易ステージが作られてる、艦の舷側、外から見えないように2艦の内側に合わせて横断幕まで、こういう所は海軍はミーハーというかなんというか・・・床には白い布でコーティング・・・
『なによ・・・これ』
桟橋に何枚も落ちていた白いもの
『服だな、水兵の・・・数が多すぎるが』
浦出が回りに注意を払いつつ、ちらりと落ちているものを見て答えた
『コンサートを観て、場が興奮して裸になって踊りだした、か?こういうのはかなりの盛り上がりを見せるんだろ?』
『この数はいくらなんでも異常よ』
まったく、変な露出狂集団みたく海軍をいわないでよ!


『そは不思議な恋の妙薬』
『誰!?』
私は後で知ったがオペラのセリフをのたまってマーニャと言われてたそれが桟橋の先から現れる、体はまだ変わってない、使いにくいといっていたけど。それに拳銃を向けてもやっぱり全然動じやしない

ぬめぬめぬめめぬめめ

『な、ななななっ!!!』
桟橋の下や海防艦のいたる場所から赤紫色のぐろい液体が流れ出してくる、浦出警部が銃を構えていたのに、びっくりしてあとずさってる、呂律も回ってない、無理もないわ
『乗員達はどこ!?』
『肉の頸を捨て、目の前にみえておろうに』
『なっ・・・!?』
目の前の彼女の元に集まっていく液体が、海防艦の乗員達だっていうの?
『言の葉を繋げたは、我が倦属の力を知るため』
それって・・・あの言葉をわざと伝えたって事?
『つまり・・・おびき出されたってわけね、私達は』
彼女の前の桟橋からこちらに向かって何かが、波をたて、板を弾け飛ばしつつ近づいてくる

ザッパーンっ

カサカサカサカサカサカサ

5メートル近い蟹が、2隻の海防艦の艦首に挟まれた部分の桟橋からよじ登ってくる 『こ、これは・・・でっかい蟹じゃのぅ』
浦出警部なんか、驚きのあまり言葉が平板になってるし


『警部!!応戦します!!支援してください!』
まぁ正直、こんなでっかい蟹とか、警部と同じく驚いてたけど、もういいや!何か諦めついた、私はもう何が起きても驚かないぞ!
『お、おおぅ!こんな蟹の化け物みたいな畜生だったら幾らでも弾ブチ込んでかまわん!』

タタン!タタン!!

ダメ、弾が食い込んだりもしているけど、拳銃弾じゃ・・・!むこうでマーニャがじっとこちらを観ている
『魚!!上だ!避けろ!!』
『キュウッ!?』
振り上げられた大きなハサミが私に向けて振り降ろされた、転がって間一髪で避ける、浦出警部、サンキュー、助かったわ!
『俺の94式じゃどうにもならん!弾かれる』
『私のも食い込むだけ!』
甲羅なりなんなり全部硬い、くそぅ、あっちの残った桟橋でなぶり殺しにしてるのを見てて楽しいのかしら!?怒りがふつふつと湧いてくるわ!

ドスン!!!

『わっ!?』
普通の側足もとんがってて危険きわまりない、焼きがににして食べちゃうわよ!・・・焼き蟹?焼き蟹。焼き蟹って殻やわらかくなるわよね、茹でてもそう・・・熱で蟹とかの種類は外殻がやわらかくなるんだ!そうだ、あれがある!!!
『浦出警部!なんでもいいから引き付けて!』


『おいっ!引き付けろったって・・・ええぃ!だったらここならどうだ!!』
浦出警部が頭の上の狙いにくい目玉を狙って撃ってくれてる、よしっ目指すは海防艦のタラップ!CD215、海防艦215号と書かれた階段を蟹の足を擦り抜けて駆け上がる、途中でイブニングドレス引っ掛かかってやぶいちゃった、ごめんキャサリン
『給油管のノズル!』
キャップを外してホースを引きずり出す、まだ機関が生きてる!電力が通じてるなら、動いて!!!

ドルルルルル

動いた!!!
『よぉっし!!!警部!さがって!!』
『お前それは・・・そうか!やっちまえ魚ぁ!!!』
この化け蟹め!!!

ブシャアアアアアアアア!!!

『ちょ!?わっ!』
思ったより勢いよく噴出するので体が振り回された、結果的に全体に重油がかかったのでよしとする、ホースは手を離して放置!勝手に流す!あとは・・・
『ありったけぶっぱなして火花に引火させれば!』
タン!タタン!タタン!
浦出警部と共に手頃な所に打ち込む、ろくに気化してないのでなかなか着火しない、やばっ!こっち気付かれた!蟹がゆっくり向きを変えてこっちへ、そこに浦出の放った銃弾が海防艦の舷側にあたり火花をちらす、引火した!!


炎が化け蟹を包む、体の各所から水分を吹き出して悶えている、だが粘着性の高い重油がそれでこそぎ落とせるもんですか!焼き蟹いっちょあがり!

ショゲェアアアアアアアッ!!!

『ざまーみろ!あり?』
マーニャの方を見るともう居ない、乗員の肉の塊も
『魚!船の方にも火が回ってる!早く脱出しろ!こっちは先に逃げるぞ!!』
ノズルから火が回ってる、乗員が居たならばすぐに消し止められただろうけど、それがない・・・やばっ!!重油が満杯なわけないから、火が入ったら気化した物含めて大爆発じゃない!浦出警部の薄情者〜!!
艦尾方向に走って逃げる、レーヴァテイルは楽に泳げて本当によかった!
ガン!!!

『えぇえ!?』
海に飛び込もうとしたところを、熱で断末魔になり暴れた蟹が艦に体当たりをした衝撃で投げ出される、そのタイミングで火が回ったのか海防艦は艦中央部で大爆発を起こした、蟹がばらばらになったのは言うまでもない
『げほっげほっ!』
少し海水飲んだ・・・体にはとりあえず異常はないみたい
『あー・・・最悪の一日ね』
そしてそれは、まだ終わりじゃない事に気付いて私は凹んだ


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