『唄う海』外伝03


『ともかくここから出ないと・・・』
一人じゃどうにもならない、死体もゴロゴロ転がってるし、これの処理もしらせなきゃ・・・どのレベルで対応すればいいのか皆目検討つかないわ
遺体を踏まないように玄関へ・・・あ、あの焼け残ってる帽子の傍の死体、ドアボーイの人だ、逃げる人の足で踏まれたのかマネキンみたいにばらばらになっちゃってる・・・ひどい、ただ、中から焼いたみたいに炭化してるからあんまりグロくないのが救いね
『おい、貴様!相模のとこの魚じゃねぇか!中から出て来たのか!?なにがあったんだ!?無事か!?』
質問は一つにして頂戴よ、もう一人の今度は暑いガミガミ親父こと浦出警部、ニューコンティネンタル市の警察庁出張所の叩きあげ、警官達の精神的支柱といったところかしら、海事事件での犯人、及び、情報の引き渡しでよく見る顔でもある
『なんとか、死なずには済んだわ』
『消防隊が先に到着して突入しようとしたんだが、いきなり燃え上がってひどい火傷をしてな、控えさせておいた。元が石づくりのコロシアムだ、遠巻きに包囲して固めていたんだが・・・魚ぁ、貴様一体何やらかしたんだ!?』
『私の方が知りたいわよ!・・・待って!何か出てこなかった?』


『なぁにを言っておる、のこのこ出て来たのは貴様以外おらんわい、だから驚いとるのだろうが、見ろ』
指で浦出警部の後ろを指す、警官達が10人ばかし遮塀物から拳銃を向けて指をトリガーにかけてこちらを睨んでいる、消防隊もポンプで水噴射ぐらいしそうな感じ・・・とりあえず両手万歳しとこ
『これをやらかしたのはこのオペラの主演女優よ、本当に見なかった?まだ、公演は終わっていないって言って、出ていったわ。』
熔けて出ていったとは言わないでおく、信じられるはずないもの、銃弾が効かなかったのも。私だって聞かされたら笑ってほっておくわ、錯乱してるとしか思えないし 『犯人は確実に見たんだな』
念を押される
『ええ、間違いなく彼女よ』
『わかった、何を使ったのかはわからんが。こんな騒ぎをおこしよって!見つけたらさっさと、お縄につかせてやる!』
浦出が不敵に笑ってがしっと拳を打ち合わせる
『ダメ!ためらわず射殺して!』
無茶よ、逮捕なんて!
『・・・おいおい、こちとら警察だ、先ずは身柄の確保が優先に決まっとろうが』
この人達は中の惨状を知らないから、そんな事が言えるのよね
『中では100人単位でこんがり焼けてるわ、それこそ、焼き魚みたいに』


『なにぃ!?ということは複数犯か!?脱出した客を拘束しなけりゃならんな!誰か、病院ほか使いをまわせ!それから銃をおろさんか貴様ら、大丈夫だ、こいつはわしが保障する』
みんながやっと銃を降ろしてくれた、やっと手が降ろせるわ
『それなら、今日の入舘リストと従業員の名簿です』
ヒョロッとした警官がリストを片手に駆け寄る
『落葉君か、よぉし!とりあえず偽名を使ってないかぎりは現住所他は確保できそうだな!どうやら中もこいつが出て来たし、大丈夫そうだ、消防各位と協力して署のものはできるだけの証拠をひったくってこい!』
わぁっと警官と消防隊が劇場の中に突入する
『魚!お前はこっちだ!』
その姿に見とれてるうちに浦出がパトカーの上で地図を広げている
『次にやつらが何かするとしたらどこだ?』
そんなの検討つくかい!あ・・・
『下水設備の流れを地図に書き込める?』
熔けて流れていくなら水の流れが一番考えるのに手頃かも
『下水か!表に出てこないで逃げるにはうってつけだな!よし!』
パトカーの中からペンを取り出して書き込んでいくかなり多岐に渡ってる、海にも流れ込んでるし
『それで人が通れるのはな・・・』
『警部、除外しないで考えて』


『あぁん?』
理由は・・・えっと
『複数犯なら、手数があるし、100人単位で殺すにはそれなりの計画があったはずよ』 『採掘したってのか・・・よし、あらゆる可能性からさぐらにゃな!』
単純だけど物分かりが良いってのは楽よね
『彼女はまだ公演は終わっていないって言ってた・・・誰かに聴かせる気があるのよ』
人口の密集地、とにかく人が集まるところ
『聴かせるっていうのは燃やすってことか?』
『たぶんね・・・なにかイベントがほかに開かれてるとかない?』
浦出警部が少し考えて頭を横に振る
『博物館がなんかやってたが、今日は休館日だ』
『商店街のバーゲンとか』
『そりゃ、貴様の方が詳しいだろ』
そうだったそうだった・・・えっと・・・
『無いわ、今日はそういうのは無かった。ええ、確かに』
『船の入港は?特に客船、移民船』
『無いわね、中型船舶以下が17、8隻かそこら・・・それに帝國以外のこっちの船、100人以上の船なんて滅多に無いし・・・』
人数的に陸の人間より密度が高いとか有り得ないわ
『帝國の船・・・ならあるぞ、あるじゃないか魚!!』
『へ?』
なにかあったっけ?
『海防艦だ!あれには100人以上乗ってるじゃねぇか!それも二隻な!』


そっか!半舷上陸してても一隻分は人間が一箇所に集まってるわね
『行きましょう!』
パトカーに乗る・・・あれ?浦出警部は?
『魚ぁ、通報したら海軍さんの軍艦だぞ?自力で何とかするさ。一応こちらもパトロールは増やすが・・・ふぅ、奇襲を受けずに済んだのは幸いだったな、思えば警備を減らす為の騒ぎだったわけか、どこの馬鹿だ?こんなのやらかしたのは』
港でドンパチするなら被害は少ないし、それに軍艦なら、確かに勝てるかも・・・うん、そうよね。
『浦出警部!!』 『どうした!』
落葉とか言った人だ、慌てふためいてこっちに走って来た
『犯人の主演女優のマーニャですが、今日の公演のあと、お忍びで海軍の慰問コンサートを行うことになっていたそうです!!』
『やはりか!!』
推理じたいは的中ね・・・あ!
『待って!ということは海防艦の所に彼女が現れてもフリーパスで入れちゃうって事!?』
うまい!でも、あの化け物が一人で計画してやってるの・・・?もしかしてホントに複数犯?
『無線!!海軍さんに繋げてくれ!!!』
車の窓からパトカーの無線を取って警部ががなりたてる
『少しお待ちください』
交換所の人が繋げる間がもどかしい
『繋がりました』


『はい、こちら海軍第211根拠地隊』
やっと無線に根拠地隊の桟橋詰め所(湾港部が管理するが常駐するのは根拠地隊の人間)が出る
『そちらに、オペラ歌手が行っておりませんか!!!?』
『歌手の方なら、お一人で今そこに』
『今すぐ拘束してください!!!そいつは』

キィー!!!ザザザザザザザザザザザ!!!

黒板を爪でひっかくような高い音のあと雑音が入って切れてしまった
『ど、どうなされた!?もしもし!もしもーし!!』
『交換所です』
別の声が間に入る
『おい!何をしている!繋げろ!!』
『向こうが切れました・・・今のはおそらく、私の経験からいうならば、火事に依る高熱で回線が焼ききれた音です』
『なんだと!!くそったれめ!!』
『警部!車を!!』
私は叫んだ、一刻も早く現場に向かわなければ
『おう!こうなったら直接乗り込むしかねぇか!落葉ぁ!あとは任せたぞ!』
『はっ!!』
『急ぎましょう!』
『まかせろ、港までぶっとばすぞ!』
私は車に乗っている間、予感していた。内懐にあれが入られては、どんな精兵も抵抗もあったもんじゃない、まして女一人、コンサートの予定なんか入っていたら・・・あれに対して一体何ができるというのよ!


inserted by FC2 system