『唄う海』外伝01


闇の中、10メートル程の小船がなにやら中型の水蒸気船から、埠頭に向けて近づいている、荷物には毛布がかけられ小さく震えている。
獣人の子供達だ。帝國が獣人の保護をし労働に対価を出す事は良くなった。けど、帝國の範途外の国から奴隷として売られてくる獣人も多い、しかも運びやすいのと騙しやすいからとの理由で子供ばかり。
この新日本人町とも言われるこの街は、限りなくグレーだ、そういう面もあって、なにかと非公式な交渉事が行われやすい、外交上のやり取りもあるし、マフィア同士の会合も今回もそんな小さい取引の一つ
『おうちかえりたいよぅ・・・』
獣人の子の一人が喋った、あぁ、黙ってた方が良かったのに
『うるせぇっ!黙ってろ!!!』
ガッとバイヤーがその子の頭を真正面から蹴りつける、あ、鼻血、口も切れてる、歯が折れてないといいけど

ヒュルルルル、ドパーン

照明弾があげられる
『な、なんだ!?』
『サツか!?』
船上には二人、きちんと確認した
『う、うわぁあああああっ!?』
腕を延ばして呑気に照明弾を眺めてる馬鹿なバイヤーを船から落とすと防水加工した改・南部式拳銃をもう一人に向ける
『海軍湾港部のものよ!人身売買で検挙します!』


小船に対して私たちが良く使う手だ、照明弾に気は取られるし、船の影も深くなるので、海軍さんがこれまた開発した黒い潜水具でますます私の姿は見えない
『こ、この化け物・・・!』

バキュン

『抵抗は無駄です、弾倉全部叩き込まれたいですか?』
ボウガンを向けようとした相手に、一発掠らせる、なんとか相手に拳銃他この系統の小火器が普及する事は抑えてるけど、このままだとどうなることやら
『わ、わかった、捨て・・・のわっ!?』
ぽいと武器を捨てた所で、船を揺らしてそいつも振り落とす、すわらされてる子供達はこいつらより低い所にいるし、激しく揺らしても振り落とされにくい・・・重いって言うな!やり方があるのよ!
埠頭の方も騒ぎが起きていたがすぐ納まる、さ・て・と♪
一人はいきなり振り落とされたから泳ぐのにアップアップ、今さっきのは武器は捨てて両手開いてるし、落とされてもまぁ大丈夫、船のへりぐらい掴めるでしょ
『た、助けてくれぇ・・・!』
『ええっと、どこの国の人かなぁ?それからどこの組織の人?』
にこやかに聞く
『あっぷごぼっ!た、助け!』
着衣に重い刀剣類腰に挿してたらそりゃ溺れるわね、子供の顔に蹴り入てるし、同情はしないけど


『キュキュキュ〜♪はい、準備できました、答えて答えて〜♪』
ペンと紙を取り出して用意オーケー、さぁカモ〜ン
『う、生まれはダヌカヌ!そ、組織は言えねぇ!こ、殺される!』
ちぇ、いつも通りの言葉が帰ってきたし
『あ、そう!じゃ、死んでね♪』
船の櫓を自分で漕いで埠頭へと向かわせる、大抵はこれで吐く、吐かないのは大物か、意志が強いか、ただの馬鹿か、だ
『言う!言うから待ってくれ!あっぷ、三丁目から西のクレーターヘヴンだ!死にたくねぇ!げぼぼぼっ・・・!』
やったね、いっちょあがり〜♪といってもあたし達の役目はここまで、あとは陸の警察庁の出張所が片付けるかどうか
『はいはい、じゃ、今行きますよ〜』
綺麗な弧を描いて海に入る、後ろでようやく助かったのが解ったのか、獣人の子供達がわぁ〜歓声をあげる、どうだ、すごいでしょ?
『た、助かった!・・・おふっ』
右ストレートをおみまいして気絶させる、子供の顔に蹴り入れたんだから、いい気味。なに?溺者救出の際は溺者を拘束ならびに気絶させるのはセオリーよ?なにか文句ある?
『こちら水中班、船は制圧、最低限の情報も手に入れました。状況終わり』
班、といっても現場勤めは一人だけだけどね


『おつカリ〜、はふぅ』
『あ、お疲れ様です!ティータ先輩、出動ですか?明日休暇でしたよね?』
港湾部のデスクに戻る途中で後輩のキャサリンたんに会った、みんなはキャシーて呼んでるダークエルフの娘、実年齢はかなり上らしいけどとってもいい娘♪

この大日本帝國海軍港湾部は管轄内の麻薬捜査に今回の人身売買、簡単な所で船の塗装の規定違反なんかを取り締まる所。あとは安全な航海の為の講習会や釣り人達へ注意を促したりする、結構雑多な部署。場所が場所だけに結構実戦配置であるわけだけどね♪
『そうそ、だからって部長め、こき使いやがって〜』
『あはははは・・・悪い人じゃ無いですよ、あ・・・』
『ウォッホン!!・・・そこの魚!!!銃器使用の書類を書き上げてから帰れ!キャシー、身元が最大限判るまで、獣人の子達は頼む、わかったな!』
ゲッ!!この声は部長の相模中佐だ、ガミガミ中佐と良く言われている、良く怒鳴るんだこの人、こっちは耳いいんだから少しは黙れっての。あ、これだけで戻ってく、キャサリンたんが居たからかな?ラッキー♪
『ほら、書類を残してたら明日呼び出しですよ?気にして下さってるんですから』
庇わなくていいのにもぅホントにいい娘!


『そんな訳ないでしょ、あのおっさん』
『そうかなぁ帝國の人って意外とみなさん繊細なんですよ?・・・じゃあ、私は子供さん達の所へ』
『うん、引き止めてゴメンネ』
とキャサリンと別れる

『ただいま〜』
『お帰りなさい、怪我、ありませんでしたか?』
こっちは獣人のゴン太君ことゴンダルス君・・・たんだとか、ゴン太とか人の名前に変なあだ名つけるな?その前に幼名とはいえ、お国の息子に奇妙丸とかつける人よりゃましでしょうが
『拳銃使用の書類を書き上げてから帰れ、だってさ』
『ハハハ・・・でないと明日呼び出されますからね、部長なりの優しさですよ』
なにこれ・・・私の方が空気読めない大ボケ?
『はいはい、まったくもぅ・・・』
たしか書類は自分のデスクに・・・あった、と
『休暇はあしたのオペラに行かれるんですよね、やっぱりレーヴァテイルですね』
『・・・うん』
ちょっと曖昧に答える、自分でも、なんで休暇とってまで見に行くのかわからない、ただ、ラジオから流れてきたあの歌、私だって素晴らしい曲や推進音(近頃の造船所にはレーヴァテイルの調音師すらいる)が聞こえたなら立ち止まるし口ずさむけど、何かが違う
『彼氏でも誘ってあるんですか?』


『あのねぇ、そんな玉じゃないでしょ、私は』
何言ってるのよゴン太君は、と机につっぷす
『そうですよねぇ!ティータさんが彼氏連れでオペラなんて、有り得ないですよね、ふぎゃっ!!』
ムカついたので、水筒を投げつける、彼氏居なくて悪かったわね!
ゴン太君は驚いて少し獣化してる、んで書き終わった、と
『ここで仮眠して着替えてからいくわ』
自宅に戻ると会場に行くのにむしろ手間ねこれは、こんな事もあろうかと服を持って来ててよかったよかった。宿直用の仮眠室で寝てよっと、あ、からかっちゃえ♪
『ゴン太君だから有り得ないと思うけど、襲わないでね?』
『な、何言ってるんですか!』
『もし襲って来たら・・・ちょん切るからね♪』
『うへぇ(汗)』
あっはっはっは、顔真っ青♪・・・ちょっと待ちなさい、私がそんな事しそうだってこと!?まぁ気を取り直して宿直室で横になる
なかなか寝付け無い・・・でも、何故あの歌手に引き付けられるのかしら・・・?オペラなんて知らなかったし(ちょっと調べたら、帝國でようやく有志が復活させたと聞いた)、今回初めて聞くのに、何故?好き、とかそういうものじゃない、もっと何か別の・・・

気付いたら、私は眠りに落ちていた


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