『唄う海』50


『観客が来るのが、多少早かったですか』
昼戦艦橋倒壊の衝撃を夜戦艦橋で耐えた松浦が船団発見の報を受けて口内で呟く
『速力下げ、火災鎮火に全力を尽くせ、古鷹以下は扶桑復帰まで持久せよ!』
『何を言っておりますか!!機銃弾が駆逐艦ではもうないのですぞ・・・!!ワイバーンに対して有効打を与えられません!!』
禿頭の煤まみれが艦橋内に入ってくる
『誰か!?』
誰何する
『前部機銃座、統制指揮官の吾妻特務中尉です!中佐』
兵隊の中将、しかも留年組か
『先に一時海域から撤退する事が先です、火災は見たところほぼ全て船外火災、多少の延焼は問題になりますまい!』
『帝國の戦艦が炎上しながら海域を去る、まるで敗北ではないか。扶桑はまだまだ戦える、ここの夜戦艦橋、後艦橋も無事、主砲も側距儀が個別に生きている砲の方が多い、近づいてくるなら主砲のブラストで蹴散らせばよい!やれるのだ、中尉!』
結末までにはまだ無駄に時間を潰さねばならない、いい合いの手だ
『ちょ、統制官!』
『黙っていたまえ新庄君!!』
突然の爆発音が後方から聞こえた、艦橋が静まる、松浦が報告を求める
『今の音はなにか?』
『初春です!初春が・・・爆発、炎上中です!!』


『壁が一枚減ったか・・・』
『若葉、ワイバーンによる集中攻撃を受けています!!』
次に伝令が届けた知らせも凶報だった
『やつら、対空火力がある、まだ抵抗できる艦から狙ってやがる・・・!』
機数が一次攻撃隊よりも少ないためか、今度の攻撃隊は無理をせず、かといって、逃げているというわけでも無く、いまだ健在ぶりを示し火力も強い古鷹は狙わず、対空火力を保持するが与しやすい駆逐艦から叩いている・・・弾が切れたのか乗員が小銃持ち出してやけくそのようになっている初霜は完全に無視されている。
ある意味、大物病にかかっている我が帝國、いや、我々を含めたあちらの世界のパイロットより粘着質で手強いかもしれない
『あの船団と戦う前に駆逐隊が失われますぞ!!!たった扶桑一艦だけ残って勝利など!!』
百や二百では利かない帆船の群れ・・・古鷹だけでは・・・死にに行くようなものだ、扶桑の主砲で三式で撃ったって、対艦では一隻、二隻巻き込めばいい方だろう
『ボロボロであれば、ボロボロであるほど良いのだ、この戦は』
『どういう・・・意味です、それは?』
艦橋全員の目が松浦に集まる
『釣り、を知っているかね、特務中尉は』
松浦はニヤリと不敵に笑った


古鷹艦長が迫り来る船団に目を向けている
『この古鷹・・・一隻で逃げるわけにもいかん、命令も明確に出ている』
『各機銃の門あたり残弾、700発を切りました、こういうときの為の機銃増設だと言うのに!』
停泊している港湾が帆船で埋められているなどざらだ、そこでテロなり奇襲なり(群れてる船全てが敵の場合も無いわけじゃ無い)かけてこられても主砲と高角砲は咄嗟の取り回しに難があり、かつ・・・いや、これが本音だ、弾が帆船相手にはもったいない、ならばもしもの対米戦での対空にも有効な機銃を、ドックに整備で入るたびに載せれるだけ載せとこう、となるのは自然の流れだった。なるべく25oに統一したのは弾を含めて生産効果を期待してだ、高射機銃も欲しいところだが、ラインが割かれるのを忌避したのだ(陸式の銃など使ってたまるか、の意見もあった)
『是非もあるまい、突入と離脱を繰り返そう、小船は波をあてて転覆させるのも手だ、ワイバーンの動向には絶えず注意をしておけ』
『敵の船が進路の全てを塞いでしまったら・・・』
『・・・そりゃ君、ぶつけるしかなかろう。』
おどけた調子で言って見せる艦長、自分の制帽をかぶり直すと表情を元に戻す
『さぁて、行こう、諸君』


『イェンサー様!!もっと船を下げてください!ここでは危険過ぎます』
軍師の女騎士、リィズがイェンサーに注進する、乗っているのは日本の中世で言う小早の部類、下手すると帝國の艦が作り出す波だけで転覆しかねない代物だ
『指揮官陣頭がサオーマの流儀たい!ばってん簡単にやられてん意味のなかけん、こいば選んだったい』
イェンサーら列強将兵の殆どは帝國の戦いというものを見たことが無い、伝聞だけである。見識を広める必要がなんにしてもある、敵情は前に出なければわからない、それがイェンサーの信条だった
この場には各国五万人余の水軍、ほとんどが水夫だがこの数だ、大小250隻以上の大船団を形成している
『向かってくるのは一隻だけね?なら都合がよか』
向こうの方ではサオーマのどの城よりも大きくて強固でありそうな巨艦が燃えている

ドンドンドン!!ダダダダダダダダダダ!!

向かってくる艦が大きな火の玉と小さな火の玉を吐き出している、大きな火の玉はイェンサーの頭を飛び越えて後方の大型帆船を一撃で粉砕し、小さい火の玉は目の前の中型帆船の甲板上とガンルームをズタズタにした、焼夷弾故か、しばらくしてから船そのものが燃え上がる
『すごかなぁ!!』


嬉しそうにイェンサーが目を細める、リィズは気が気ではない、あの小さな火の玉はいつこちらに向けられるかわかったものでは無いからだ
『こりゃあうかうかしとられんばいね、対艦魔法の槍ば使う!リィズ!伝達をせぃ!』 『はっ!』
鎧の胸の隙間から合図の人指し指大の鏡を出して反射させる、しかしいいのだろうか?この対艦魔法の槍はいわゆる切り札、オリジナルに近いタイプで攻撃力も大きいがニ発しか後方の船に据えつけていない
『こいじゃ魔法の槍ばつんどる船がいつ沈められてんおかしくはなか、使わんで沈んだら損たい』
疑問に答えるようにイェンサーが笑う、戦うのが心底楽しいようだ
イェンサーの心づもりでは大火災を起こしてのろのろ動いている扶桑はあとでじっくり片付けるつもりだった、それよりも近くに来て、積極的に戦うものを討ち取るべし、と これは、あとは士気を失った敵軍の裏崩れを期待し、また睨みあいに戻すという陸上の合戦のセオリーを海戦も同じように通用すると考えたのだ
『やる気のあるもんば全部倒せば戦は勝ちじゃ!皆の者!今が潮である!総ががりじゃあっ!!!』
後方から二つの光点が打ち出された、船団も素早く動き始める、風の魔石を使う船もあった


『右舷!ニ基!対艦魔法の槍です!大きい!!!』
『高角砲、機銃座は迎撃に集中せよ、やつらが我々に打撃を与えられる兵器はそれだけだ』
帆船の船団も相対速度でか急速に接近してくる、機と見たらしいが残念だったな
『一基迎撃成功!』
光点が砕け散るのを見てニマリとする、すぐに離脱してアウトレンジだ、現代艦に帆船が追いつけるものか、いくらか攻撃は受けるだろうが、先程言ったように魔法の槍以外に敵は無い
『か、艦長!!右・・・!』
『どうし』

ガギィン!!!

どうしたと言う前に艦長の身体がふっとばされていた、ふっとばしたものの正体は丸太、あちらの帆船のマスト用かと思われるぐらい大きなものだ
『艦長!!!』
『げふっ・・・大丈夫だ、死んではいない・・・なんだこれは?』

ガコン、バコン、ガギン、ヒュンヒュヒュンヒュンヒュン

弓矢の飛翔音が投げ掛けられる丸太棒の当たる音に加えて聞こえてくる
『ニ基目!撃墜!しかし機銃弾、弾切れです!!!加えて弓矢で外に出られません!』 『よし、取り舵!これは堪らん』
弓矢もそうだが重量物が飛んでくるだけで厄介だ
バギャン

イヤな音と振動が走った
『木材を巻き込んで舵とスクリューが!!』


本来は攻城兵器と呼ばれるものを船に持ち込んでいたのだ、城門や薄い壁なら貫通してしまう丸太飛ばし、カタパルトといっていい、は思った以上の働きを見せた、スクリュー等を破壊したのは幸運過ぎたともいえるが
『動きが止まりおるか?それに小さい火の玉もやんだ・・・これはもろた!リィズどん!!』
『はっ!全軍突っ込めぇっ!!』
乗り移ればこっちのものだ、同じ次元に降りて来てもらおう、あとは数だ。
『氷の魔石で転覆させる案は使わなくてもよかったみたいですね・・・これもイェンサー様の御慧眼、恐れ入ります』
リィズが主将を褒める、果断な指揮は彼でなければできなかったろう
『奪えるならそれが一番よか、沈めるのは我々にとって二の次、今回は運がよか、それだけたい。それができるのも、ワイバーン隊と今も撃たれよる船にのった兵たちあってこそじゃ、でなければおいはとっくの昔に粉みじんたい、やっぱり帝國は噂通り、強かぁ』
目を細め、扶桑を見やる、まだ、あれが居るのだ
『しかし私たちはそれに打ち勝ちました!』
『・・・』
勢いは確かにこちらにある、しかしイェンサーには勝った気が全くしない、こんな戦は初めてだ
『三次のワイバーン攻撃隊が来ました!』


『釣り・・・とはなんです』
こうしている間にも古鷹の状況は悪化していく
『古鷹より、我、航行不能と・・・それからワイバーンの影を見たり、気をつけたし、本艦は艦内戦に突入せり、機密保持のため通信機その他を処分す、です』
電探はどの艦も失われていた、蚊帳の外に置かれた朝霜は加古らの溺者救助を行っている
『おお、ワイバーンですか、ちょうどいい、最後の御奉公に主砲斉発を行います、それにどうやら、役者が揃ったようですから』
『中佐!!』
『まずしなければならないことは敵への対応だよ、吾妻中尉。左砲戦用意!弾種三式!機銃座、及び応急修理要員は中へ!』
扶桑の六つの砲塔がそれぞれの目標へと旋回する、肉眼でも見えるところまで来た、今度は200機程であろうか、第二次攻撃隊もまだ空域にいるので、約300ものワイバーンがここに居る算段になる。攻撃隊はこちらの火災で反撃不能と見てバラけるのを怠っていた、ふふん、と松浦が鼻で笑う
『奢敵を撃て!!撃ち方始め!!』

ドドドドドド!!!

十二の軌跡が指示された空域へと向かう、三式は大輪の死の花火を咲かせることだろう、戦果も期待できる。しかし、と吾妻が呟く
『奢っているのは一体どっちなのかね』


第三次攻撃隊は少々混乱に陥っていた、パイロットは一次攻撃隊の者が多いのだが、二次攻撃で扶桑が被った被害の受け具合いが外見上酷いので、どこかで安心してしまっていたのだ
『まだ生きてやがるのか!!!』
あれだけの攻撃を受けて、あれだけの火炎と黒煙を吐いて反撃など・・・!何てしぶとい!!
『散開!!!散開!!!散開!!!』
一騎でも被害を減らさなければ

ズババババババババ!!!

跡形も残らなかったり、身体の一部がちぎれたり、全身を穴だらけにされてしまったワイバーン達が落ちていく
『くそったれめ!!!』
今度は高いところからでなく肉薄して確実に爆弾を叩き込んでやる、それで終いだ!!!
しかし終いにされたのはワイバーンを駆る事に集中していた彼の方だった、それからその災厄は彼一人に降りかかったものではなかった。
『まさに紫の電に打たれたようだった』
老いた龍騎士はそう語ったという。
薄い青紫、この周辺の海の色に合わせて塗装された紫電改の上空から逆落としに行った奇襲の成果だった
『な、なんでいまさらこいつらがここにっ!?』
彼等は第一次、第二次とも空中迎撃を受けなかったので、もはや無いものとして頭から放り出していたのだ


『そ、そんな・・・あれだけ燃えて、なお生きているのですか・・・あれは』
リィズが自らが言った勝利という言葉のあっけない崩壊に打ちひしがれていた
『み、見ろ!!!向こうにやつらの大艦隊だ!あのデカいのともう一隻同じ奴が居やがる!!』
水夫がもうダメだと恐怖の交じった声で叫ぶ
『加えて機械龍・・・こいははめられたばいね』
イェンサーは龍の舞う空を見上げて呟く
『・・・』
『・・・』
『・・・』
『・・・』
『どぎゃんした?』
リィズさえ答えないあまりの無反応に海の方に視線を戻す
『・・・』
そして彼も沈黙した
『なんね、あれは・・・』
ようやく出した言葉は、それだけだった。
先程まで列強がその全力をあげて戦っていまだ生きているあの要塞艦、それと同じ船が先頭を走っている、しかしあの後ろの、馬鹿デカい船は一体なんなんだ、しかも二隻、回りを見てみればあの船と同じぐらいの大きさだがデザインが纏まっていて精悍そうな船が二隻にあの馬鹿デカい船よりは小さいが、あの要塞艦より大きくて強そうなのが二隻
『私たちは、一体何と戦っているんですか・・・』
他の比較的小型のどの船をみても自分達が戦って来た相手より新しく、強大そうではないか


『第一艦隊に航空隊は第三艦隊の・・・何故ここに』
列強の基地等を攻撃しているはずじゃなかったのか?居るならもう少し早く・・・
『チェックメイト、と。何故、本艦が組むべき山城と組まずに一艦だけでここに出向いたかわかったかな?書類上でも分隊ごとに動かした方がやりやすい、被害も分散したはずだ。では何故?』
わかるわけが無い
『・・・』
松浦が一人で説明する
『視覚効果だ、もう一隻大変苦労している相手と同じのが居る、だというのにその後ろには、あの大和というこちらの世界にとって卑怯極まりない存在を見せ付ける。他の艦もそうだ。比べられる。扶桑は大和と、古鷹は最上と、初春級は陽炎級や秋月級とな』 『つまり我々に投入した戦力が多ければ多い程・・・絶望を味わう、と』
『御名答』
愉しそうに松浦が笑う
『彼等は撃破せんよ、彼等は連合軍だ、彼等の存在そのものが列強に対して情報爆弾足り得る。彼等の情報が戦争や紛争抑止に繋がる。そして帝國にとって最大脅威足る列強のワイバーン隊はこの通り』
上を指差す、空中戦は一方的に紫電改が追い回している
『奇襲で壊滅的な被害を受けてしまった、回復に一体何年かかるか』
最悪二十年で利かないかもしれない


『ダメ押しに見せ場を造らなければなりませんので、今すぐに、総員退艦を命じます』
『総員退艦ですと!?中佐自身がおっしゃったように機関は無事、主砲も無事なのですぞ!?』
『ええそうです、まだ戦える扶桑をあの大和の主砲で自沈処分します、持ち帰って修理、大改装する予算を得るよりは、喪失したとして代艦の予算を得た方が何かと喜ばれるものでな、まぁ、紀伊級でお流れになりそうな超甲巡二隻あたりに化けると思われるが』
事もなげに松浦が言い放つ
『何故、君らにこの事を聴かせたかと言うと退艦の理解をしてもらうためだ、君らが理解するならば他の乗員の退艦はたやすい』
夜戦艦橋にいた兵達が顔を見合わせる
『海軍が新たな力を得るためと帝國の平和の為だ、協力してほしい』
『命令である以上・・・退艦には協力します、ですが、中佐のやり方には賛同できかねます』
司令、艦長以下、何人の人間が死んだ事か、なにより今の説明では政治色が濃過ぎる、海軍軍人は政治に関与すべからずじゃなかったのか。
いや、賛同できないのはそれが大元じゃ無い。死力を尽くした者達を劇場化し、見世物然として利用しようとしている点だ
吾妻の言には何人かが頷く
『海軍の美徳か・・・』


第一艦隊旗艦大和

ここまでしなきゃならんのか
開封による命令と分派艦隊の目的と命運、作戦の意図をを聞かされての司令部の反応は、やはりその念が大きかった
『扶桑から退艦始まります』
『宇垣戦隊司令・・・大和が、大和が撃たねばならんのですか!敵主力艦一撃轟沈を夢見たこの艦が、最初に撃つのが同朋の扶桑とは・・・!あまりにも・・・』
『有賀君、大和でなければならんのだ、この作戦は』
鉄仮面とは言われただけはある、心根はどう思ってるかはわからないが、全く表情を変えない
『艦長、介錯はその者と仲のよいもの、その中でも腕のよい、一撃で命を絶ってやる事が一番の手向けなのだと聞いた・・・ならばこの大和がやるしかあるまい』
『近藤長官・・・』
第一艦隊を統率する近藤が、諭すように有賀に答える
『一撃で苦しまずに、できるな、有賀艦長』
宇垣が抑揚をつけずに言う、やはり落ち込んでいるのかもしれない
『・・・わかりました、最善を尽くします、戦隊司令、全門命中を期すため、接近の許可を』
『・・・一万まで許可する、あまり近くても傍観者的に言ってしまらない、それでは威圧の意味を成さん』
『それでやれるなら十分です、ありがとうございます!』


『やつら・・・攻撃してこないのか?』
当初はパニックが起きて船から飛び込む水夫がかなりの数発生していたが帝國艦隊が何もしてこないので、今は落ち着きを取り戻している。攻めてくるとなれば一気に崩壊しそうな士気ではあるが、人間誰もが持つ恐い物見たさといったところか
『攻撃しないのは占拠しかけているあの船の為でしょうか?』
リィズが言う、古鷹の事だ
『いや、ちがいもそ。あの馬鹿デカい船ん動き出してから脱出ば始めたとはあちらの船、なんばする気か?』
彼等にとって船とは奪ってまた活用するものである、燃やすことすら珍しい。自沈作業など理解の外だ、ましてや戦艦の艦砲として最大である46センチ砲でそれを行おうとは
『戦船を突きつめていった究極の船とはあん船ん事ば言うとやろうね』
直感的にイェンサーが大和を見て感じている
『ならばおいは見たか!究極の船っちゅうもんが示す力を!』

ドドドドドドド!!!!!!

『!!!』
凄まじい発射音、そして衝撃、水夫には腰を抜かした者すらいた、今まで戦っていた扶桑の主砲音には何も感じて居なかったというのに
そして飛んでいった砲弾の為した行為に船上の誰もが膝を屈した、イェンサーただ一人を除いて


『退艦、無事済んだようです・・・救助にあたった最上ら第七戦隊から扶桑の指揮をとった生存者の中の上級指揮官が自沈作業の後、説明に訪れるそうです』
伝令から紙を受け取った有賀が伝える
『そろそろか・・・』
宇垣が時計を見つつ呟く
『扶桑には親子二代で乗り込んだ者も居ると聞いた、長らく帝國に奉仕して来た勇艦だ、ここに沈めてしまうことは悲しいが、その遺訓はなんとしても残していかなければならない、それが手向けだ。艦長、始めたまえ』
『・・・一撃で沈めます、撃ち方始め!!』

ドドドドドドド!!!!!!

九発の巨弾が飛翔し扶桑の命運を絶たんとする
ある一発は列強が何をしても貫けぬ砲塔を貫通し吹き飛ばした、またある一発は艦内深くまで貫通し、強固な艦の構造を喰い破っていく、やがて砲弾の起こした爆炎は自沈と退艦の為開け放たれたハッチから副砲火薬庫に進入しそこの誘爆は艦全体に配置された砲塔下の弾薬庫に連鎖、艦全体へと広がっていく

ドドーン!!!ドゴゴゴゴ!!!

扶桑は大爆発を起こして、艦が三つに割れ、横転し沈んだ。列強の船団の誰もが膝を屈した光景とはそれだった
大和の艦橋では誰が言うでもなく挙手の礼が行われ、扶桑を見送った


『そういえば、さらに分派したはずの第二十一根拠地隊の姿が見えませんな、そろそろ合流してもいいはずですが・・・』
挙手の礼を降ろして宇垣が問う
『うん・・・?そういえば、そうですな、見張り員、ハマの方向を注視』
有賀が命じるとすぐに報告が上がる
『筑紫と思われる艦、後退してきます!・・・各所が焼け爛れて斑になってます』
『筑紫一艦のみか?他に海防艦二隻が居たはずだが』
『見えません!一艦だけです!』



第二十一根拠地隊を壊滅させたモノ・・・パンドラの箱が開かれようとしていた


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