『唄う海』49


二番目の被弾は左舷側の古鷹、彼女には9発の扶桑へと感知に失敗した対艦魔法の槍が突入をすべく飛翔を開始する
古鷹が幸運だったのは加古と違い舷側を向けていたこと、反対舷の火器を除き出来うる限りの火力を向ける事が出来た事、それから扶桑に寄っていた為加古より対応時間が長かった事だ。
9発のうち対空砲火で7発の迎撃に成功、2発の命中も、一発は古鷹艦橋基部左舷側(缶室周辺の人員を感知か)で爆発、機銃員のいくらかと艦橋側部の測距儀を使用不能にしただけですんだ。
残りの一発は後部指揮所に突入し、その周辺にあった25o連装機銃二基、搭載機のいないカタパルト、中身の無い魚雷兵装を海に吹き飛ばしたり、使用不能にしたりと破壊を撒き散らした
二次被害としてはカタパルトほか航空兵装から火災が発生したが、それをチャンスと見た騎士団のいくらかが強襲をかけるも、古鷹側の対空砲火にそれほど穴が空かなかった事、指揮系統の遮断がなかった事が彼等の勇敢な突撃を粉砕することに成功した、それとほぼ同時刻に鎮火に成功している、艦外火災は消火もしやすい
古鷹は依然健在だ、その証とばかりに古鷹の頭上を飛び去り、扶桑に向かった魔法の槍を加えて5発を叩き落としてみせる


最初に加古の艦橋が弾け飛んだ、次に古鷹が被弾して炎上した
『新庄君!右だ、右舷に銃座を回せ!!!』
吾妻らの担当の機銃座は艦橋前の三連装機銃座だ
『左舷の古鷹らと重ね合わせた方が撃墜率は増えると思いますが!!』
他の銃座からも射撃を開始しているので新庄が意見を怒鳴り返して伝える、もちろん右に指向して、射撃ペダルを踏みながら、だ
『間に駆逐艦がおる!まだ離れきれとらん!!うまくすれば目標も引き付けてくれるかもしれん!!だが!!加古があれほどやられておったら、右から来る残りの全部を扶桑は貰ってしまうぞ!!!』
『了解です!!!』
まわりにまた空になった弾倉と薬矯がうずたかく積まれていく

シュオオオオーン!!!ヒューーー!!!

『な、なんの音ですか!?耳に来ますね!!秘密兵器ですか!?』
甲高い音が耳をつんざく
『後艦橋下の噴進砲だ!!前の攻撃じゃ距離があるのと、勿体ぶって撃ってなかった!!この音は鏑矢だ!!!ワイバーン用のな!!!』
今で言うロケット花火のヒューーーという音を何倍にもしたような音だ

ドドドドドド

時限信管で一斉に爆発する噴進弾、見た目は派手だ
『すごい!!!』
『次弾に時間がかかるのがな』


『加古被弾!!!大破っ!!!』
『相手が誘導弾ならば、回避行動はむしろ迎撃の邪魔になります、舵はギリギリまで切りません、よろしいですね?』
『・・・かまわん、操艦は全て君に任せる、私が君以上にできる自信は無いよ』
敵弾が向かってくるのに舵を切らないというのにはかなりの決断力が要る、本人に動かせるもの、力があるからだ。そして先程の言葉を恥じる、艦長始めまだまだ諦めてなど居ない、あとはどっしりと、ここで座っているのが仕事だ
『古鷹被弾!!こちらは健在です!!!』
『噴進砲座、撃ちます!!!』

シュオオオオーン!!!ヒューーー!!!

『新兵器か・・・』
この甲高い音は弾頭に穴が空いた噴進剤のみ搭載した噴進弾で音響兵器とでも言うべきものと聞いている
『迎撃に全力を尽くせ!!』
『左舷高角砲!!射撃できません!味方撃ちになります!!』
まだ補給の為に扶桑に寄っていた駆逐隊がまだ離れきって居ないのだ、高角砲といえど駆逐艦にしてみれば主砲(対空射撃にあまり使えない主砲より威力が劣るが)相当だ、当ててもいい、などとはできない
『射線から外れるまで射撃待て、機銃座、すまん!踏ん張れ!!』
艦長が精力的に指示と激を飛ばしていく


『ぬぁっ!?落ち着け!!うわぁあああっ!!!』
扶桑後部から放たれた鏑矢噴進弾に動揺し、避けようとして隊列を外れ、翼を暴れさせたワイバーンが、対艦魔法の槍を巻き込んで自爆する
『楯よ!!手前の船の上を飛び越るの!!』
駆逐艦を背にして飛ぶよう空中騎士団の女騎士が叫ぶ、今現在の最先任なのだろう

ドドドドドド!!!!!!

『抜けろぉおおおおっ!!!』
一斉起爆した噴進弾に驚いたワイバーンはもれなく機銃弾を被弾し、もちろん弾片などに引き裂かれたワイバーンも水柱の中に消えていった、だが本望だろう、自分に射線が向く、すなわち自らを含め、放った対艦魔法の槍へ向けられる火線が減るのだから。 噴進弾が爆発した事で発生した黒煙を突き抜ける
『ぷはっ』
空気が悪いので息を止めていたのを吐き出す、綺麗な顔も鎧も黒く硝煙臭くなってしまった。水浴びをしたい、と考える間もなく先ほどより激しい火の玉の雨を浴びせかけられる
『まるで炎の壁!!でも、その壁を打ち崩してくれるわっ!!いけぇええっ!!』
ブレスを目標を定めずめくら撃ちしつつ対空砲火の穴と見えた三番砲塔直上で騎を急上昇させる、後ろから爆炎が吹き上がるが後ろは見ない、まずは離脱だ


『撃て〜!!!撃って撃って撃ちまくれぇい!!!一基も近づけるんじゃなぁいっ!!!』
吾妻が土佐犬のような顔で吠える
『ちょっとばかし!数が多すぎやしませんか!!』
新庄が引きつった諦念ともみれる笑いを浮かべつつ機銃を乱射している、数は魔法の槍、ワイバーン含めて吾妻らが見える範囲には50越えている、反対側もそうだろう
『新庄君!!!当てやすいからといってワイバーンを狙うなよ!!光ってるやつに集中させたまえ』
ワイバーンは時たま耐えきれず羽根をはばたかせ上昇離脱したりするので、標的としての面積も速度も広く遅くなるのだ、しかしそれを狙って射撃をするならば、たとえ撃墜に成功したとしても魔法の槍に対しての撃墜効率は下がる、それこそが彼等の勝利だ、吾妻にはそれが良くわかっていた

ガンガンガンガンッ

『ぬぅっ!!!』
『うわっ!?』
反対側にワイバーンのブレスが命中したのか、着弾して飛び散ったブレスの火花がこちらまで飛んできた、物凄い音がする、思わず誰もが身をすくめ、弾の補充の切れた機銃座が沈黙する
『いかん!!!』
気を取られ過ぎた、射撃を続けさせるか・・・いや、無駄だ!!
『新庄君!貴様ら!!みんな伏せろぉっ!!!』


一基、また一基と光点が消えていく、噴進砲も効果はたしかにあった、だがしかし迫ってくる数が違い過ぎる、敵の攻撃方法も巧みであり、士気も良く保持され、一糸乱れぬ機動をとり続けている
『あの連中なら、帝國でも欲しいところだな』
しかし叩き潰すべき相手であることが恨めしい 『くぅっ・・・!ここまでか!面舵一杯!!!』
加古と同じく、艦首を飛び込んでくる魔法の槍の数の多い方へとだ、加古の艦橋部分があのようになったのを見ても、だ。艦長の勇気がここに現れている。加古はあのようになってしまったが、被弾する箇所は少なければ少ないほど良い。ものによっては集中させてもよかろう、しかしそれは自分に向かってくるのだ、頭で判断できてもそうできることではない
ぐぐぅ〜っと艦が直進のエネルギーを殺し頭を振りはじめる だが、ただ一つ問題があった、加古は回頭が早過ぎた、扶桑は遅すぎたのだ。見慣れない対艦魔法の槍の速度を見誤って、艦長の基本動作として染み込んでいる魚雷を避けるタイミングの間の取り方で艦を動かしていた、対空砲火で粘ろうかという踏ん切りの付け方で戸惑った間、魔法の槍は艦長が考えるよりも至近に擦り寄って来ていたのだ


着弾の閃光が走る


扶桑に最終的に向かっていた対艦魔法の槍は64発、うち撃墜に成功したもの、29発、撃墜率約45%
七隻の艦隊の防空火力でここまでの効力をあげた事自体、どれだけ艦隊が奮戦したかわかろうものだ、そして防空体制のなっていないうえに上空直援すらない艦隊がどれだけ攻撃側にイニシアチブを奪われてしまうのか、そしてそれが与えた攻撃力が帝國の軍艦、防御力に於いて最強と言える戦艦に叩きつけられたらどうなるのか


被弾した36発の行方はこうだ
第一砲塔、第二砲塔部分に3発
艦橋部分に14発
左舷艦橋横、一番高角砲周辺に3発
三番砲塔両脇の連装機銃座に両舷合わせて7発
煙突横、右舷副砲座と連装機銃座にかけて2発
四番砲塔上部に2発
後艦橋の高角砲座に3発
五番砲塔に1発


これらが時間差をおかずにほぼ同時に着弾した、着弾の傾向として前後の艦橋、機銃座のついた砲塔、缶室、機関室、人間の居る位置に的確に命中したことが後の戦訓に生かされ、対艦魔法の槍が着発信管であることから、海防艦らに金網や装甲外板が取り付けられることになる
だが今は置いておこう、僚艦の乗員からはまるで炎が覆い尽くしたようだったといわれた扶桑の被害はどうだったのか、だ


対艦魔法の槍は第一砲塔に天蓋に一発、第二砲塔前循に二発が激突し爆発、そのいずれもが装甲貫通に失敗して爆発力の全てが中空へと拡散していく、ただし、第二砲塔上部に設置されていた三連装機銃座を巻き添えにして
前艦橋へは14発の被弾、あまりに被弾数が多かった為に特定の被弾箇所をはっきりと指摘することはされていない、ただ、扶桑艦長の転舵が効き出した直後で艦が傾斜していたため、昼戦艦橋に狙いを定めていた魔法の槍は左舷側は目標よりも上部、主砲指揮所並びに電探等の装備品に多数が命中し、右舷側は昼戦艦橋の下、副砲指揮所付近に直撃、少なくとも8発が命中したのは間違いない。最悪の場合6発が命中したとされる主砲指揮所は壊滅、ただいびつな残骸を残し、かんざしとも、毒電波とも呼ばれた電探は跡形もなく吹き飛んだ
副砲指揮所に命中した魔法の槍はその爆発力で上部にあるものを吹き飛ばそうとするも、載っている物が加古と違い重量があり過ぎた、爆風は副砲指揮所にある人間を含めた全てを窓から海へ放りだし、それでなお納まらないエネルギーが副砲指揮所周辺に火災を生じさせつつ、特徴的な扶桑の艦橋のバランスをさらに悪い物とした、そう。さらにバランスの悪いものに


左舷から艦橋基部の高角砲座にに突っ込んだ対艦魔法の槍は扶桑の艦橋にさらに振動と衝撃を与えて死と破片を撒き散らした高角砲座とその周囲の単装機銃が破壊され、直撃した高角砲座はどうにもならないが、向き出しの単装機銃座の兵は無残な姿を二番砲塔にその身を持って刻みつけ
三番砲塔両舷に配置された連装機銃座六基も相次いで飛来した7発の魔法の槍で破壊され、甲板はめくれあがり、見た目にも大きい破孔を出現させた、しかし第二次改装で行われた装甲甲板の増量で艦内部には大きな損害はないようにみられる
右舷側、煙突横の15p副砲にも対艦魔法の槍が突入したがこれもケースメイトとはいえ張られた装甲に弾かれて爆発、砲身こそ持って行かれたものの、比較的軽傷で済んでいる
四番砲塔は他の砲塔と同じく天蓋に配置された三連装機銃と単装機銃を吹き飛ばされ兵員を殺傷した、また五番砲塔も同様の被害を被った
後艦橋に命中したそれは高角砲座を落下させ、その下にあった殊勲の噴進砲と機銃を押し潰し被害を拡大させた、幸いにも次弾を持ってくるところで弾体が無く、誘爆はさけられた。高角砲座が楯にもなった為、後艦橋の機能も維持され、副長が艦橋の様子を見て別個に指揮を採り始める


たとえ直接の命中弾がなくとも艦橋の中はひどい有様だった
『くぅ・・・艦長、艦長!どうなっt!!』
左近丞はお猿の腰掛けと呼ばれる椅子から投げ出されて床と羅針盤に叩きつけられて肋骨を折っていた
『司令・・・』
艦長は海図台に挟まれて下半身が潰れてしまっていた
『桜の下で春死なむ、そは如月の望月のころ・・・靖国の桜は、さぞ、よい詩を詩えるのでしょうな』
ふっ・・・と笑うと艦長の目が力を失う
『ああ・・・そうだな、艦長』
航海長は後頭部を計器に打ち付けて事切れている、見張り員達は首がなかったり、投げ出されて落ちたのか影も形も見えない、まだ無事なのは自分一人らしい
『かしいどるな・・・げほっ』
床が爆圧によってか膨れてるのもあるが段々と傾きを増しているように見える、吐いた咳に血が混じる・・・肺に達しているようだ
『艦橋!応答してください!艦長!司令!!』
伝声管は無事らしい、痛みを堪えてたどり着く
『私だ』
『艦長!松浦です、ご無事でしたか!今すぐそこを退去してください!艦橋が倒れようとしています!』
ああ、艦が傾いでいるわけではないのか、それはよかった、艦の水平が維持できていればなんとかなる
『君の方は無事かね?』


『頭を打ちましたが、無事です!トップは揺れますが、まさか負傷なされて・・・!』
『無事か・・・目論見通りだな、よかった。ああそうだ、動けそうにない、年だしな・・・それに』
気付いてなかったが階下から煙が流れてくる
『火災でおそらく通路が遮断されておる』
艦橋が傾きをます、長くはないだろう
『艦橋の消火に人を回すより他に人を回しなさい、被害状況は副長から君のところに来たのだろう、後艦橋は無事ということだな。指揮は君に任せる』
『無駄、なのですね?』
『ああ、生者は存在しないものと考えたまえ、倒れる際の避難を確実にな』
『・・・中将の指揮下で、楽しゅうございました・・・指揮を、受け継ぎます』
『ああ、君も、みなも有能で、良い部下だったよ、私も楽しかった』
伝声管の弁を閉じる、立ってられるうちに羅針盤に身体を結び付けなければ・・・
『豊久公のように、七度突き上げられ叩きつけられ、それでまだなお生きろ、扶桑よ』
左近丞の出身地で、いにしえの英雄を守って死んだ武将の名をあげる
ぽろぽろと傾きが増したせいか前艦橋で被弾のためボロボロになって固定が外れた部品や残骸などが落ちていく
『これで、しまいだな』
艦橋が大きく振れた


『今回はいい湯とはいかんかったのぅ・・・みんな無事かっ!?』
吾妻が背中に落ちて来た部品を払い除けつつ問う
『なんとか・・・みんな無事です、気絶した者も居るようですが』
兵が気絶した仲間の兵を介抱している
『前の機銃座は壊滅か・・・』
二番砲塔上の機銃座はひどいことになっている
『新庄君、機銃は撃てるか?』
『え・・・ええ、はい、大丈夫かと』
吾妻が向こう側を見ている、新庄が目を追ってみてみると加古がワイバーンに襲われていた・・・あれではまともな反撃も・・・
『隙を見せんことよのぉ、ま、扶桑は大きい、生き残りの機銃座もおおかろうて』
『はい・・・!』
喉がカラカラだ、今度はワイバーンごと突っ込んでくる気かよ

カランカラン

『うん?』
何かが落ちて来た、どこかの部品か?
『と、統制官!統制官!!上、上っ!!』
『なにっ!?敵か!?』
見れば艦橋が大きく傾いでいる、右舷側に向けて・・・これは間違いなく、倒れる!!
『・・・みんな逃げろォッ!!!気絶した者は叩き起こすか背負え!!急げ急
げ!!!』
自分も気絶した兵を背負う
『左舷側は被弾してて足の踏み場が!』
『下敷きよりはマシだろうがっ!構わず走れぇっ!!!』


『はぁっ・・・はぁっ・・・!やったわ!』
比較的安全な高度まで昇ってから、様子を伺う、あの海を動く城塞がもうもうたる爆煙に包まれている
『そ、そんな・・・!』
しかし、それはまだ動いていた、あまつさえ、まだ火の玉すら吐き出していた、一体この攻撃にいくらの資金と労力、犠牲が払われたというのだろうか・・・それが無駄だったというのか!!
『あっ・・・!悪魔の塔が・・・!!』
ひどくゆっくり、ゆっくりと、彼等のうちで悪魔の塔と呼ばれている扶桑の艦橋が倒れていく
『・・・』
何故だろう・・・対艦魔法の槍を命中させたときの興奮も、喜びも、まだ動いているという悔しさもどこかに失せてしまった。ただ・・・沈む気配は無いが、偉大なる者が去った、そんな気がした
『我が騎士団の名に於いて、いつかまた、天上にて戦わん』
サーベルを抜き、肩にあてて礼を失しないようにする・・・誰に対してかはわからないが。部下も続く
『隊長!味方船団です!』
『イェンサー様の水軍か・・・騎士道に浸ってるわけにもいかないわね、小型艦を抑える、健在なものは続きなさい!!』
『おおーっ!!!』



『空中騎士団はよか仕事ばしもした!次は、おい達の番たい!!』


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