『唄う海』45


いつまでも上空を回っている訳にもいかない
『しかし・・・あの火の玉、いつまでも続くものだろうか・・・そうか!!』
『隊長!?』
『ついてくるな!よく見ておけ!』
自騎を降下させる、再びデカブツが各所から火を噴き始める
『怖がるな、怖がるなよ・・・』
自分のワイバーンに魔力制御を通して伝える
『今だ!!』
翼を翻して逃げ出す、爆弾を投下してはいない、そしてまた上空へ戻ってくる
『いいか!爆弾はもうワイバーンが持たないと思ったら好きに投下しろ!気のあう者と組んでもいい!爆撃する振りと織り交ぜて攻撃して相手の火の玉を弾切れにしてやるんだ!こっちの弾は帰ればたんまりあるし、投下するしないなんてあっちにはわかるものか!!』
そう、そうなのだ、自分達には弾が余っているんだ、そして船には積載量というものがある、いくら大きくたって無限じゃない!!振りをすれば、相手は撃たざるを得ないんだ、そうすれば高い値段の対艦魔法の槍の攻撃もしやすくなる、一挙両得じゃない
か!!!
『あ、なるほど!』
『さっすが隊長!冴えてますぜ!!!』
騎士団員達も合点がいったようだ

『行くぞぉみんな!!!あの悪魔の塔を倒すんだ!!!』
『おうさ!!!』


『流れが・・・変わった!』
上空を眺めていた艦長が声をあげる
『右舷後方より二機!降下!』『前方より一機!来ます!』
見張りの声が重なる
『面〜舵!!いっぱ〜い!』
ぐぐぅ〜と艦が傾ぐ
『な・・・前方投下せず上昇!!逃げました!』

ザッパーン!!!

『何?』
左近丞がいぶかしげに首を傾げる、後方からは水中爆発の音が聞こえる
『右舷よりまた一機来まーす!!』
『当て舵、そのまま廻る!勢いを殺すな!』

ザッパーン

『後方二機!』『左舷正面より、三機!』
このまま首を振っては後方の機が投下した爆弾に、舵やスクリューを水中爆発でやられるやも知れない
『・・・取り舵一杯!!』『後方!投下しません!上昇!!』
『何ぃっ!?』
ワイバーンが投じた爆弾は高い投下点からであったが真正面に丸のまま落ちてくる
『舵中央固定!!』
うまく爆弾の間に挟めれば!避けれる!避けてみせる!
『真円から・・・楕円へ!変われ・・・変われ・・・!変われ・・・!!』
念仏のように見張り員が呟く
『間に・・・合わない!!総員、衝撃に備え!!』
『変わった!』
『ば、馬鹿!伏せろ!!』
ワイバーンの放った一弾は扶桑の艦橋を掠め、三番砲塔へ・・・


三番砲塔の天蓋には二基の三連装機銃座に二基の単装機銃が配備されていた。艦橋を掠めた一弾は配置についていた者にとってまさに不意の一撃だった
『みんな、目を見開くばかりで何も出来んかったですわ』
艦橋後部に設けられた連装機銃座からその光景を見ていた兵は後に何十年かたってこう証言している、一瞬の事に対応できる者など誰もいなかったのだ
投下されたことによって多少の回転がついた爆弾は砲塔天蓋前部の装甲に衝突し、その厚さを運動エネルギーで破る事能わず砕ける、砕けた魔硝石は空元素に触れることに依って灼熱化し、空気を膨張させる・・・つまりは爆発

ドドーン!!!

『三番砲塔被弾!!』
『被害知らせェ!!』
『医務班急げ!!まだ生きている!』
爆風によって体を持ち上げられ甲板に叩きつけられた者にはまだ息があったらしい。測距儀の所にあった単装機銃座の奴だ、しかし機銃座はどれもひしゃげている、着弾点に近かった三連装機銃座に居た人間は跡形も・・・いや、一人だけ首から上を無くして天蓋に倒れている、見つけちまった、こん畜生!砲塔自体は無傷、着弾点に目玉焼きのような後が残ってるだけだ
『弾だ!弾持ってこい!!』
まだまだ敵は上に居るんだ


『被害報告!』
『三番砲塔へ直撃しました、機銃座がやられたものの、艦の運営には問題ありません!』
『ふぅ・・・うまく当たってくれたな』
艦橋の皆が胸をなで降ろす、機銃座の人員の事は頭にない、艦の運営にはなにも問題が無い、それだけで十分なのだ
『(攻撃のイニシアチブを完全に取られた・・・相手が降下するタイミングはリズムで読めても、投下したりしなかったりでは・・・いや、機関部の損傷さえ受けなければ、なんとでもなる!)』
帝國に12しかない戦艦の艦長職を拝命させてもらったのだ、たかが一度の被弾で諦めてなるものか!この扶桑、なりは古いがしぶとさにかけては同時期のどの戦艦にも負けない自負がある!
『見張り員!機銃の発射音で報告が聞こえぬ場合がある!後ろから来たら来た方の肩を叩け!前から来るのは手をかざせ!』
『了解です!!』
今度は矢継ぎ早に降下して来たワイバーンの爆弾を水柱の間を縫って全て回避する、一発の被弾で調子づいたのだろう、馬鹿め!そんな単純な攻撃かつ、機銃の弾幕を恐れた高度からの投弾で、避けれぬと思ってか!舐めるにも程があるぞ!
喉が枯れて来たので水筒の水で潤す、よぉし!!
『子の日被弾!爆発です!』
『何!?』


子の日は初春級の二番艦である、先ほど運が悪いことに増設したばかりの艦橋前機銃台に被弾、艦橋に詰めていた艦長らもろもろと吹き飛ばされた、これだけならまだ良い、指揮系統を副長らに引き継がせ、復活させれば。さぁ戦いはこれからだ、となる。
が・・・加熱させられた機銃台の機銃弾が暴発、誰も近づけない上に、一番砲塔を機銃弾が貫通、悪いことは重なるもので、炸薬に引火、砲座から転げ落ちたのだ、本来それを止めるはずの者は機銃弾の貫通で死体となり果ててしまっていた
弾薬庫へ落下した炸薬は次々と砲弾を誘爆させ、(次々と、といっても全てを巻き込むまで一分もかかっていなかったが)

破局が訪れた

ドゴォーン!!!という爆発音と共に艦首から艦橋部にかけてが船体と泣き別れる
『いかんっ・・・!機関を停止しなければ!誰か使いを・・・!』
副長が気付いたがもう遅い
缶室に流入した海水と、最大戦速のため、高圧加熱されたボイラーの出会いはさらなる、いや、完全なる破壊を彼女にもたらした
水蒸気爆発である
今日の子の日はほとほと運に見放されていたらしい、艦中央部から撤去された二番砲塔付近までがバラバラに弾け飛んで、あっと言う間に水面下に消えてしまった


『子の日、二度目の爆発!爆煙は黒から白に変化!轟沈です・・・あれでは生存者は』
爆発の後見張り員が目撃したものは子の日の艦首と艦尾の一部のみ、それも艦尾はそのまま傾きもせずに海中に飲み込まれ、艦首は直立したまましばらくは浮いていたが、泡立つ海面に飲み込まれていった
『白い煙・・・水蒸気爆発、だな。助けたくとも、今は艦を止める訳にもいかん、せめて回避運動中にその海域を通らないようにするくらいしか出来ん』
左近丞が回避に忙しい艦長に代わって答える。もし、生存者が居たならば、スクリューに巻き込んで殺してしまう
『他の艦はどうか?』
対空砲火の分厚さはともかく、速度も小回りも効く艦らだ、報告も無く、自艦に集中して居たため無事だとは思うが
『加古の左舷、船体中央部に小火災、高角砲が一つ潰れてます』
報告が戦隊司令部を通してからなので多少遅れているようだ
『加古被弾、損傷軽微、我、戦闘続行に問題なし!!』
『他、各艦損害はありません、みな元気です!』
見張り員は噴き上げる対空砲火を元気ととったのであろう。海域に回避の問題が無く、広い範囲を使って回避機動ができるのが被弾を抑えている、これが多島海ならこうはいかなかっただろう


『どぉしたぁ!!腰抜けどもが!気合入れておりてこんかぁっ!!踏ん張れや!!』
腕を振り回して統制官が息を荒げる、一番近くに居るこの機銃座は正直いい迷惑だ・・・それでも高度を見誤ったワイバーン数機に有効射を与えてるあたり、頭が痛い
『はぁ・・・』
『新庄分隊長』
『どうした?』
『用意した分の弾が切れそうです』
気付けば薬矯がうずたかく盛られている、冷却の方はなんとか間に合っているようだが 『よし、弾庫に行って持てるだけ持ってくるんd』
『新庄君!!!』
肩をぐわしと掴まれる、顔が恐い、恐いよ。兵の方なんかもう逃げ腰だ
『おわっ?な、なんですか?東統制官』
冷汗が流れる
『弾庫にある機銃弾の総数も弾庫長に聞いてきてはくれんか?弾が無きゃ何も出来んしのぉ!!ちぃとばかし、長引き過ぎじゃ』
『あ、はい!それも頼む!』
『は、は!』
今さっき被った海水で血の昇った頭が冷やされたのだろうか?時計を見る余裕があるとは
『前は加賀にのっとった、空襲というんはバァーッと来てザァーッと居なくなるもんじゃ、狙っとるぞ、何かを』
真面目な顔が上空を見て一気に真っ赤になる
『爆弾が無いなら、とっとと帰れ!もう一回積んでこんかい!!』


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