『唄う海』40


ヴァイスローゼンが空襲を受けるそのいくらか前
『頑張ってこいよ〜!』
手隙乗員が筑紫の上甲板で空母部隊に帽振れをしている、分派艦隊に属する筑紫は扶桑の近くに展開していたのであるが、近くには第五航戦、準鷹・飛鷹からなる母艦が航空隊を発艦させていた。第三艦隊は戦隊毎に別れ、その数から分散しているであろう列強の各龍舎(ネームレスの渡した地図が元である)、飛行場とも言える場所をこちらも分散して、一挙に叩こうという腹である、機体は流星改か天山に紫電改、または零戦の半々という混合編隊である。攻撃力重視の為、流星改をなるべく多く配せよと、一航戦から五航戦の空母までが試作を含めた流星改をむりやり乗せたぐらいだ。

ちなみに四航戦は新顔の信濃と大鳳で組まれている、信濃は被弾の可能性低しと装甲と洋上基地としての機能(装甲より、こちらがごっそり削られた)が削られ搭載数がみっちりと増えている

文字通りの全力投入だ、ただ、他に第六航戦(雲龍・天城)が居たのだが、完全投入は作戦を悟られる、と、大陸に張り付いて活動を続けている
『キュ〜ゴトー、凄い数だね〜♪』
ニーギが五島に微笑みかける、指折り指折り、二十越えた所で数えるのをやめたみたいだが


第三艦隊の総数では三百を越える数が第一次攻撃隊として飛び立ったことだろう、三時間後にはさらに二百機にものぼる第二次攻撃隊が放たれる事になる。敵の大ダメージは必至だ、そしてこの数は損害を相対的に少なくするであろう、まさに数は力だ
『ニーギ、せっかくなんだしターニャさんは呼ばなかったのか?』
筑紫の水測も充足状態、ターニャとニーギの半直制が取られている、かなり負担が軽減されたはずだ、今回、第一艦隊の一部艦船にもやっとニーギ達の教え子が乗るようになった。
大陸での命令では学校に居る者を根こそぎ動員する話だったのだが、これはさすがに五島とニーギらがごねて、一定技量を持つ者を選定して配置する事を押し通した。おかげさまで夫婦揃って典礼参謀でありながら最前線配置だが、身代わりとなった志摩の事もあり、それは願ったり叶ったりだ
『ターニャちゃん仕事は私がしますからお二人でどうぞ、だって』
・・・ノロケが過ぎたかな?ちょっと心配になる、まだまだ新婚だ、余計な事を口走っている可能性はある
『怒ってはいなかったみたいだけど・・・キュウ・・・少し疲れてたような』
ビンゴだ
『あ〜・・・うん、それは俺達のせいだな、いや、正確には俺だな』


実は・・・ニーギにはもう無理をさせたくないところだ、本人は大丈夫、とは言っているものの、やはり【妊娠】してるとなると、私が気になってしょうがない、外見上に変化はないし、検査をしたわけではないが、ニーギにはわかるらしい、言ってくれたのは艦に乗ってからだった、出撃してから艦を戻してくれとも言えない、皆にも秘密だ
『キュウ・・・でも感じて欲しかったんだ。この子にもゴトー達の居る所』
胎教とかいうやつであろうか?
『ニーギ・・・』
五島は気付いていない、たとえ理由はなんであれそれが新婚ラブラブなオーラを出していることに

『あれじゃあ兵が可哀相だ』
『兵といっても常に影響を受けるのはターニャだけだがな』
こちらは艦橋から一支と対馬だ、対馬は艦長を勤めていた六連が被雷したのと筑紫で新しい航海長が病気で倒れた為、異例であるが艦長から航海長として出戻って来ていたのだ
『別にあやしいことしてるわけじゃないか・・・してたら吊す必要があるな』
『まぁそれだきゃあ、あいつらなら無いだろ』
対馬の言に一支が苦笑する
五航戦の機体の影が空のかなたに消えていく、手はもう振らなくてもよかろう
『そろそろ持ち場に戻すか、おぃ、ラッパ吹き!』


一支が総員持ち場に戻れのラッパを吹かせていると扶桑から発光信号がチカチカと点滅する
『旗艦より発光信号、読みます!分派艦隊各艦は序列に従い、一列縦隊を組め、です!』
筑紫は扶桑、古鷹、衣笠、と続いた後に駆逐艦が四隻並び、八番目の位置につく、序列ではやはり海防艦や測量艦は低い
『準鷹からも発光信号です、我等、誓って武運を挙げん、貴艦隊にも武運のあらんことを』
『ほう・・・』
小値賀が感嘆する随分芝居がかった演出だ
『左近丞中将はなんと返すものか・・・』
扶桑の艦橋で発光信号が光る
『扶桑樹の実の如き果実を得られるよう我等奮起するものなり、また会おう』
『扶桑樹?』
一支が首を傾げる
『扶桑国に存在する扶桑樹、太陽を実として生み出すといわれています。日本国の意もあります、五島、持ち場につきます』
『遅いぞ、たるんどるんじゃないのか?』
対馬が窘める
『ふむ、太陽は世界を照らすわけだが、それを手に入れる、つまりは世界を手に入れると言う事か、左近丞中将もなんと剛毅な文を寄越すもんだ』
対馬に恐縮しつつ思う、小値賀が頷いているこの文はおそらく、松浦中佐が手掛けたものだろう
『では、我等も航空屋に負けぬよう、征こうか!』


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