『唄う海』36


『総長!!これはどういうことですか!!』
総長室に聯合艦隊から派遣されて来た参謀が怒鳴り込んで来た
『先方の組織が立ち上がるのと、時を前後して発生した対馬丸事件に対する、国民へのガス抜きのため艦隊の一部派遣だったはずが!』
命令書を取り出す
『加えて1F、3F総出では、まるで決戦ではありませんか!!海軍だけで列強との戦を始めるおつもりか!?GFは承服できません!』
『・・・ふむ』
永野は薄く目を開けただそういうだけでみじろぎひとつしない、鈍いのか、または理解できてないのか
『GFは・・・軍令部が貴官らの上位組織である事を忘れてはおるまいか?』
『しかし!大海令以上の事をしますのは・・・統帥権を』
『列強も我々の世論の高まりに警戒を強めておる、その中で、かの国で起こる内乱の鎮圧は事前演習と連携強化、かつデモンストレーションとして最適である!その為、大兵力が彼地に集まる、と我々軍令部は見ている、その為の戦力強化だ、問題はない!』
怯む、いつものタバコを持ったまま居眠りして手を火傷するような総長ではないのか?
『で、ですが、両艦隊の全力は』
やりすぎではあるまいか?
『当然だ、決戦だからな、徹底的に叩くには必要だ』


『戦果をあげねば国民は納得せんよ、戦果をあげるつもりなら敵の大兵力が集まる今こそがかつてない好機、そして徹底的に叩く。こちらの大兵力投入は先方にとり予想外の奇襲となりうる。これは運命だよ』
聯合艦隊から出向して来た参謀が青ざめる
『総長が運命などと・・・!全面戦争になりますぞ!?』
『それは、ない。その為の決戦なのだから。圧倒的な力を以て列強の大兵力を討ち減らしたのちに、こちらが望まない限り戦争として続行したがる国などありはせんよ、我々は報復としての容赦なき一撃を行うだけだ』
聯合艦隊の参謀はまだ食い下がる
『しかし地上兵力では!ゲリラ戦などされては大陸の陸軍が!』
『何のための1Fかね、地上兵力を戦艦の艦砲で実際に吹き飛ばされれば、そんな気はおこりようがない、抑止力とはそれだ、列強すべてにそれを植え付ける良い機会なのだ、まぁいい』
じろっと睨み付ける
『GFが反対するのなら人事を全て刷新するとな、そう柱島に伝えたまえ』
根負けしたように参謀がふらふらと総長室を出ていく
コンコンコン
ドアがノックされる
『松浦です』
『うむ、入れ』
機雷の件でまた軍令部に戻された松浦が現れる
『派遣艦艇の選定が終了しました』


『山本さんの意趣返しですか?』
やりとりを聞いていたらしい、リストを手渡す
『ま、そんな所だ・・・ん、君もゆくのかね?』
『最終状況の立案には私も加わりましたからね、久しぶりに海の香を嗅ぎたくなりまして』
『わかった、扶桑で左近丞君と仲良くやりたまえよ』
『は・・・それから古鷹・加古の方は渋られましたが、対オマハ級の巡洋艦なだけで、重巡としてさほど有力ではない事からなんとか持ち出せました。5500トンクラスやオマハは限界、特に5500トンクラスより古いオマハは米軍も残しちゃおらんでしょう、あちらは代えはいくらでも造れますから』
『指揮官は・・・加藤与四郎君か、彼を海上護衛総隊から引っ張ってくるとは、嫌がらせにも程がある、油をケチられる前のいい牽制だな』
『潜水艦畑から出て、空母・巡洋艦の操艦経験もある人材ならば、何が出ても柔軟に対応できるでしょう、それをただ選んだだけです、が?』
にやりと笑う松浦
『駆逐艦・・・初春級の四ハイは山田君に、第二十一根拠地隊は小値賀君か、機転が利き、申し分ない。山田君は切れ過ぎて奇行に走っとるがね、まさに有効活用だな。よかろう』
ぽんと許可の印を書類に押す
『作戦名・灼、発動を承認する』


そして松浦が作戦細部をもう一度注釈して説明し終わると切り出した
『例の陸軍航空隊が壊滅した地点の海上浮遊物について・・・なにかわかったことは』
『・・・極秘裏に帝大に回したが回答に今一つ要領を得ない』
永野が机から一枚の透明ななにかを引き出す
『何だと思うかね?何枚か重ねると拳銃弾程度なら止めてしまう強度だそうだ』
松浦がそれを受け取る
『ほう・・・それは、持つと軽いですな。防弾硝子に欲しいもんです』
『現場に何か残っておれば良かったのだが、浮いていた残骸に着いていた機材以外のものはそれ一枚だけだ』
『トンボ・・・の羽根に似てますかね?なんとなく』
永野が黙孝する
『松浦君、コ毒を知っておるかね?』
『いえ?』
『いや・・・まさかな。退出してよろしい』
『はっ』
保険はかけておくべき、か・・・
机にある黒い受話器をとる
『海軍潜水学校・大陸特別分校に関して、資料が欲しい・・・ああ、大至急だ』


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