長崎県人『唄う海』33


『こちら、帝國海軍少佐、志摩大地、現在、列強の一国、ヴァイスローゼンの港町、ハマの丘からこの通信を送る』
唐突に始まった志摩少佐の無線、担当についていた大和田通信隊の分隊の一人が速記を始める
『この国の特務機関GERの謀反自体は確実なものであり、成算の確率は高いものと判断する。』
まず第一報を伝令が軍令部に持って行く
『彼等は非常に高い技術と能力を持ち、我々に対して、全世界の海岸線を記した地図、宿り木と称し、少数とはいえ、ワイバーンを搭載し中継基地とするヘリウム飛行船、と独自の技術を保持している』
第二報が入るころには当直についていた士官が聞きいっていた、飛行船に独自の技術、だと?
『そして今回の謀反に際し、その列強全てに宣戦布告し、世界と戦うための助勢を行ってほしい。具体的には戦艦を含む艦隊を派遣する事を要請している』
『馬鹿な、列強の一国で列強全てを相手にするなど・・・!』
無謀過ぎる!
『なお、この要請が聞き入れられない場合、帝國に対しても宣戦布告を行う、と』
その組織の自信は一体なんなんだ
『GERの名を持つ、彼の組織の首領は、我々の世界に存在した、グレゴリー・エフモビッチ・ラスプーチン、本人である』


ラスプーチン・・・!二十世紀最大の魔術士といわれた人物ではないか
『彼の者の意気は旺盛、勝算ありと疑いなき模様、留意されたし、しかし彼の者、あまりに邪悪、猛毒に猛毒をもって制すが如くなり、取り扱い危険にて、熟考を望むものなり』
さらに五島は続ける
『そして最も注視すべきは、一週間後、この組織の実力をご覧にいれるため、多少の損害は許されたしとの事、警戒を厳にされたし!繰り返す、警戒を厳にされたし!最後に、本官の身柄は艦隊到着と交換との事、しかし一顧の要なし、純戦略目標にて行動される事を望む、以上、交信終わる』

これが、海軍、いや帝國を揺るがす志摩報告の内容だった

軍令部
『一週間・・・力を見せる、という事は、敵対の意志も本気であると?』
『馬鹿な、異世界に我が海軍に驚異を与えられる存在などありえない』
『しかし、時代は違えど、我々を評価できる人物の言、だが?』
『一週間後、相手が手のうちを見せてくれるなら、それでよいのでは?』『しかし流れるのは我々帝國人の血だぞ!?そんな相手を信用するのか?』
意見が別れ紛糾する軍令部内、意見が会議室で乱れとぶ
『諸君、聞いてほしい』
その時、駄馬に劣ると言われた男が動いた


一週間後、とある空域

『青空してから二時間か・・・みんな大丈夫だな』
部隊ともども一式戦の三型甲に変えてもらって、空中フェリー任務である。本当は疾風の方がいいとは思うが、まだまだ回っては来ないらしい
『おっ・・・予定にあった九七式重爆か、あっちは大変だな』
まだ九七式なのだ、これから天測航法でお世話になるが、古臭くてすこし頼りない
『敵も居ない洋上、眠らないように気をつけなきゃな』
どうも独り言が多くなる、空は雲量が少し多いが気流に乱れはないようだ
『っ!?』
雲の向こうに黒い影が見えたのでおもいっきりペダルを踏み急降下に入る、部下たちも追随してるといいが、首を無理をして曲げてみると九七式が黒い何かに飲み込まれ爆発していた
『なんなんだあれは!?』
部隊の半分から後ろはうまくよけて攻撃位置に付いたようだ、よし、いいぞ!
『仇をとってやれ!』

ダダダダダ

『な・・・』
何も起きなかった、いや、それは形を変え部下の機体に次々と襲いかかり爆発させていく
『ありえない!!こんな事が!あってはならないことが!』
『・・隊・ち、前!』
いつもよりさらに機嫌が悪い無線機の声で前を見ると既に・・・
『うわぁああっ!!』


測量艦筑紫

『陸軍航空隊の一個戦隊が行方不明?・・・て、一体何機居たんだ?戦隊と呼ばれても解らん』
戦隊各艦の艦長らとターニャが集まって筑紫の士官室に集まっている、その間一支は対馬と話していた、ターニャは黙って椅子に座っている
『三日前に20機、だ、天測航法をやるはずだった重爆を入れれば21機』
『そりゃ、結構な数じゃねぇか・・・!』
『あぁ、しかし、関係ないはずの海軍上層部が動いているようなんだ、知り合いの新聞記者から聞いた、上はむしろ、漏らしてるようだ、とも取れる』
対馬は第二十一根拠地隊新聞(略称、だいこん新聞)を取り扱っているだけあって新聞沙汰には聡い
『どうせ陸軍への嫌がらせだろ?』
『だったらもっと大々的にやるさ、陸軍は単純に海軍の六倍人員が居るんだ、普通に声をあげるならあちらさんの方が有利だ』
ガコン
『すまん、遅れた。』
水密扉を開けて小値賀があらわれる
『今回集まってもらったのは他でもない、今回入港する貨物船、対馬丸には本土から応募し集まった児童を大陸へ招待し、獣人やエルフと懇談して慣れさせようという、企画でな。大陸からの出迎えに、本隊が選ばれたわけだ』
『私がここに居るのはそのためですか』


部屋に来てから一言も発していなかったターニャが合点がいったと頭をふる
『そうだ、先ずは君が異世界との交流の先鞭をつけてもらいたい、地方人との交流だ、軍隊らしいその仏頂面ではなく、常に笑顔を絶やさんようにな。』
『それはかなり難しい命令なのではないか?』
対馬が真面目腐った顔で言うとニヤリと笑う、他の一支や二人の艦長が笑いだす、ターニャの仏頂面はもはや隊の名物だ
『対馬艦長、謹みたまえ、ターニャ水測士に失礼だぞ』
小値賀が髭を震わせて注意する
『確かに、この任はニーギさんのほうが適任でしょう、ですが、命令とあらばやってみせます。子供は嫌いじゃありませんし』
穏やかな顔をみせるターニャ
『(・・・これはこれでいいんじゃないのか?)』
『(なんか、角が取れたような、憑き物が落ちたというか)』
こそこそと話す艦長達はほっといて小値賀がターニャに向きなおる
『では、よろしく頼むよ、ターニャ君』
『はっ!』


『司令!大変です!!』
いきなり部屋に転がり込むような勢いで入ってくる伝令
『どうした!?』
『日本郵船所属、対馬丸触雷!沈没しつつ、ここまでで電報が・・・途絶えました!』
『そんな・・・』
凶報に一瞬で場が凍りついた


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