『唄う海』31


とある国の領事館
『日本郵船籍の船とこの国の軍艦が衝突した!?それで!?被害は!?なに・・・軍艦の方が沈んだ?こちらは死者は無し、それはなにより』
『領事、どうしました?』
『日本郵船の旅客船を利用した輸送船とこの国の軍艦が衝突した、郵船の方は無事だが・・・この国の軍艦が沈没した、松浦中佐』
『大きさではあまり問題ではありませんからな、横腹にぶつけられれば、我が軍の軍艦でも危ない』
手で軍艦と輸送船の動きをトレースしてみせる
『そんなものですか』
『あら、よかった、私の客人が乗ってますの』
『これは幽弥さん』
買物袋を抱えている
『問題はこの国の対応ですな・・・今のところどうです?』
『まだ我々も知ったばかりだ、こちらまで対応しきれてない、やだね、面倒事だよ』
領事が頭を抱える
『・・・ここは私に任せてもらえませんか』
松浦が提案する
『それはありがたいが・・・いいのか?』
『案件が持ち込まれたら、私の方に』
ニヤリと笑う
『あら?何か悪だくみでも思いついたのかしら?』
幽弥が目を細める
『まぁな、それで、客人というのは?誰なんだ?』
『桂ちゃん、あんまり志摩さんが相手してくれないから〜と、これは意訳だけど♪』


『大陸に渡る人員の割り当てに無理矢理入り込んだみたい・・・なんていうかほんと、行動力はすごい子だから』
『まったくだ・・・我々のような関係者以外女性の渡航は許可されないだろう?どうやったんだ?』
『ん〜・・・大学の研究隊のお世話係とか、なんとか・・・お料理下手なんですけどねぇ、ボディガードかしら?』
『何の事かしらんが。こ、酷評だな・・・』
『領事!領事!』
領事館員が走り込んでくる
『おぉ!どうした!?』
『この国の領主がこちら側の過失から事故を起こしたとし賠償請求を求めてきました!!』
『松浦中佐!!ど、どうしましょう!?これでは私の経歴が!』
『訴追します、領海内で回避義務を怠ったのは、そちら側の責任であり賠償金を・・・そうですねぇ金貨1万枚』
『な・・・』
『領事館員さん、お願いしますわ、考えあっての事でしょうから』
『わ、わかりました!』
領事館員が慌てふためいて戻っていく
『逆にこちらが金をせしめれば、よろしいのですよ』
松浦が領事に不敵な顔をみせる
『下手にこの国の国民を逆なでするような事は・・・』
領事の心配はもっともだ
『ご心配なさらず、我が帝國海軍は英国じこみ、霧の中の陰謀はお手の物です』


『んーもぅ、ひっどい目にあったわ、寝てたらドーンて』
港に入った船から降りてきた桂はさっそく領事館を訪ねる、そこには松浦夫妻が居るはずだから。どうやって来たのかというと大学の研究隊はこの町を起点に行動するのだが、戻ってくる家が要る。桂は家のハウスキーピング、つまりはメイドさんをやるつもりなのだ、帝國人である以上、本土に戻らなければならない、ならばやましいことなど、現地の人間でないのに出来るわけないと売り込んだのだ・・・勿論、志摩の追っかけでもある、本人は否定はしようが
『でもなんか、タイミング悪かった?やっぱり問題になってるとは思ったけど、典礼参謀だから大丈夫かなぁと思ったんだけどなぁ』
領事館員があわただしく動いている
『そうなのよ〜着いたばっかりで悪いんだけど丁度いいから館員さん達に夜食作るの手伝ってくれない?』
『えぇ!?』
『そ・の・か・わ・り、この前志摩さんに聞いた好きな花の香焚いたタオルが手に入ったからあげるわね♪』
『べ、別に欲しくないわよ!そんなの・・・まぁ困ってるのを見捨てる訳にはいかないし、手伝うわ。た、タオルはもらえるなら貰ってあげるわ』
『ふふふ♪はいはい、じゃあ力仕事は任せますわね』


『郵船の船長は避ける事に全力を尽くした、領主側の言い分は聞けない、出先の機関であるこの領事における船長の裁判は船長の完全な無罪である、ときちんお伝えしましたか?あと、軍艦の所有者は領主である、控訴するなら次の裁判には証人としてこの領事館に出頭しろ、とな』
松浦が陣頭指揮をとっている、さきほど、郵船の船長を呼び簡易裁判を行ったばかりだ 『帝國の主張はいいがかりもいいところだ!国王の出頭は認可できない!』
出頭してきたこの国の役人が玄関で裁判結果を伝える館員にがなり立てる
『あちらの人、ストレスがかなりたまっているようね、いいの?はい、お夜食のすき焼き、ご飯はおにぎりよ』
『おぅ、うまそうだな。うん、これでいいんだ、これで良い結果がでなければ国王らは納得しない、退けない場所へもちこんだのさ、力関係はこちらが上である以上、武力行使は出来ない・・・このおにぎり、えらく硬いな、桂さんか?』
がっちがちで食いごたえがある
『えぇ、力仕事は桂さんが、まだご飯たいてますから、おかわり言ってくださいね。今のところ裁判費用で金貨三千枚、まだまだこの国に払わせる気ね、何となく手が解って来たわ』
『もう、バレたか、さすがは幽弥だな』


『次はお互い決着が着かないから、と、周辺国にも開示しつつ海事裁判所で裁可をする事を提案する』
『そこでは領主側の勝訴とするけども・・・今度は最高裁かしら?でも狙いは違う、そうじゃない?』
幽弥が松浦にもたれかかって耳打ちする
『今、館員さんに頼んで被害にあったこの国の人間をピックアップさせてもらって居る』
『あ・・・当事者同士の示談で解決するのね、長期化、大規模化を避けるために、示談金は払っても、裁判費用で元を取る・・・あっ、だから最初に指示した訴追の賠償金額は海事裁判の費用よりは高く、最高裁の費用より安くしたのね・・・最初と海事の裁判費用と合わせれば、ふふふ♪』
『示談で個人の補償としては多額の金額を渡せば、外聞的には我々の負けだが、帝國司法が公正明大であることの印象も植え付けることが出来る、加えて我々の手元には裁判費用と示談金との差分だけの金が残り、この国が得るのは国民の為に努力し、勝利したという満足感のみ、そしてこの凡例から同じ事が起きた場合、他の国も同様に』
『裁判へとお金を出すようになるわ、このカラクリに気付くまでは・・・あなたって悪人ね』
『嫌いかな?』
『いいえ〜とんでもございませんわ、旦那様』


『幽弥さ〜ん、館員さん達がおかわりだっ・・・ゲッ!?し、失礼しまsわあっ!』
一室で二人の状況で幽弥が寄り掛かっている事になにか誤解したようだ、盛大にすっころぶ
『あらあら、それじゃあなた、頑張ってくださいましね』
『おぅ、任せておけ・・・館員は集合!!飯は持ったままでいい、来てくれ!』

『あいった〜』
転んだひょうしに打った腰を撫でる桂
『桂ちゃん、大丈夫?』『わ、わわ、私はなにも見てません!ごめんなさい、ごめんなさい!』
平身低頭する桂
『なぁに?私たちが何してると思ったのかなぁ?で、会話の内容は聞いちゃった?』 屈託のない笑顔である
『き、聞いてません・・・』
『そう、ざぁんねん』
『へ?』
『今度、志摩さんも含めて四人で・・・ホ゛ソホ゛ソ』なんらかを耳打ちすると桂が耳まで真っ赤になって後ずさり手をぶんぶん振って抗議する
『そ、そ、そんな破廉恥な事出来ますか!!!』
『あら?あなたに自由意志なんて与えないに決まってるじゃない』
『うはぁっ!?』
『なぁんてね、う・そ♪桂ちゃんはからかい甲斐があるわね〜怒るとティーカップの柄折っちゃうぐらいなのに、そのあたりが志摩さんを狂わせるのかしら?』
『知りません!!』


桂が膨れる、幽弥が苦笑して座ったままの桂に手をさしのべつつ話す
『そういえば、今回は志摩さんに何やらかしたの?前みたいにお風呂上がりに鉢合わせて全身打撲?それともまた男女同権論でモメて体へし折ったの?あとは海軍省近くで迷ってた女性の道案内してただけで飛び蹴りかまして、倒れた所をおもいっきり踏み付けたとか、剣道とか武術の稽古事に付き合っても不甲斐ないからって木刀でタコ殴りにしたとか・・・というより、よく死なないわね、志摩さん』
幽弥が思い出して並べつつ呆れる
『あいつはゴキブリ並だし・・・それに私が悪い訳じゃ』
『はいはい、そういうことにしておきますわね』
苦笑する、本当に志摩さんにもしもがあったときどうするつもりかしらね、この娘は・・・そういえばそれで以前
『幽弥さん!そんな話より、夜食をまだ作らなきゃならないんですから、早く台所へ行かなきゃ!』
桂が話題を変えようと幽弥がもっている盆を奪い取る
その時だった、今さっきの部屋で館員と話していた松浦が慌てて出てくる、めずらしい 『桂さん大変だ!五島君からの手紙を裁判書類をまとめてて見つけたのだが、志摩君がまずい事に巻き込まれた!』
盆は床に落ちて渇いた音を立てた


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