『唄う海』26


『詳しく言えば親帝國のクーデター政権の認知及び支援。最悪、黙認。です』
人指し指を立てて物を教えるようにネームレスが言う
『対価は?』
『我が配下のレーヴァテイル国の主権委譲、列強各国で諜報により得た情報、列強の内部分裂』
『その国のレーヴァテイルのうち何人が我が帝國へのスパイとなるのでしょうな、以前たもとを分かった時にお互いの教育程度、思想の面でもはや相いれない間柄、メリットはこの上なく少ない』
『それで、長々と世代を重ねるうちに分断された互いの歪み、憎悪がレーヴァテイル同士で高まり、戦い、殺し、奪い合うのですね、素晴らしいシナリオです』
くくくと笑うネームレス
『・・・問題その2、あなたのような諜報員が公文書もない口約束で何かの誓約をするほど、帝國と私は甘くない』
腕を組み目をつぶる五島
『これを』
一枚の紙を取り出す、見れば以前覚えた、ある列強国の国王夫妻の署名が入っている
『全権委任状・・・しかも無記入の!?』
『どうです?こんな物を入手できるほど我々は王室にコミットしているのですよ』
『・・・受け取っては置きます、ですが署名の真贋を確かめなければ、確約は一切出来かねます。たとえそれが本物であっても』

『で、問題その3、いつやらかすつもりなんだ』
『あぁそれの確約はしかねます。各地を閲兵して回ってる国王陛下が王都に戻り記念パレードとパーティを呑気に行います。その時が、時です。ただ、それが今日でも明日であっても確実に殺(と)れます』
すぱっとすばやく取り出した短く太い両刃剣で五島の参謀徽紐を切り裂・・・く、すんでのところでリーネが間に入り、これは長く細い良くあるイメージの両刃剣で受け止めている。
『・・・短いのね』
『ははは、ようはテクニックですよ・・・そちらは仕掛けがあるみたいですが』
リーネの蔑むような眼差しにネームレスがぱちんと自分の頭を笑いながら叩く、剣もいつのまにかしまっている
『お・・・おぉっ!?』
反応できていないのは五島ばかり、今頃である
『ふん、剣舞は貴様も呼ばれているであろうこの国の王の晩餐にの余興として見せ付けるが良かろう、聖堂でやるにはちと、無粋だ』
こちらもカチリ、と鞘に剣を納める
『あ、そうですよね。あぶないあぶない、今思えばそれ切っちゃ実はまずかったとか』
肩の徽紐を指差す
『そういう問題じゃないだろ・・・』
頭が痛くなってきた・・・
『では、話を続けるがいい。』
んな、無茶苦茶な

リーネもなにもなかったかのように事もなげに言うし、ため息
『・・・では、延ばせませんか?それ、十年ほど』
『我が主は少々お年を召されてましてそれはいけませんなぁ・・・あなた方が一つでも親帝國派の勢力を見捨てたとなると、今まで手にしてきた邦国の信頼とその十年後に手駒に加えられる国は果たしていくつあるのでしょうか?そしてあなたの国の能力を眉に唾をつけず信じ切れる人間がどの程度いるのでしょうか?さらには、その十年の間に一つ世代が変わります、伝えられますか、あなた方が持つ、恐怖を』
『それは・・・』
確かにネームレスにも一理ある
『・・・検討しましょう』
『ふはは・・・あの紙切れの真贋はともかく、あなたはこの場の全権なのでしょう?一つでも、明確なお答えを願いたいですねぇ』
軽く笑うネームレス
『大尉風情に外交上そんな権限はない・・・一度持ち帰』
『時間は無いのだ全権!貴公の決断が全てを決する!!』
バンと聖堂の椅子を叩き立ち上がるネームレス、いきなりの怒声にビクリとする
『・・・どのような失敗をしても良いではありませんか、レーヴァテイルの国王なり宰相なり、未だ、スペースは空いておりますよ?』
ニヤリ、とそう耳打ちする

『ふむ・・・話をつけずにこの場を立ち去れば、無礼としてここいらに根を張っている商人らに流布させる、そのつもりだな。
晩餐に参加しても仲介にたった側になにも成果が無いとは言えない。対価をあちらが用意して来た以上、妥協点を見出さず立ち去るのは傲慢かつ無礼に当たる。
交渉を続けるならば精神的に追い詰め・・・我が意を通す。袋小路だな』
『さらっと逃げ道が無いことまで要約してくれますね、リーネさん』
『他人事だからな、そのための身売りでもある、問題あるか?』
『ああもぅ。』
何か手持ちの物で帝國のプレゼンスを発揮できる事が出来れば話は別なのだが・・・
持って来たのは馬車に乗せてある通信機とこの国との交渉に良いだろうと選んで来た装飾品程度
陸軍さんとは提携していないし。出来ていたとしても兵隊さん達だけだけでは効果は期待できないし、今すぐ到着ともいかない。
航空機も海軍基地航空隊は縮小されてて近くにはないし、陸軍さんとこのは地上部隊よりさらに面倒な手続きが・・・今、この場で帝國の強気な力のプレゼンス発揮は無理だ
『・・・一日だけ、待ってはくれないでしょうか?』
『いいえ、待てませんねぇ・・・我等の火急の時なのですから。』


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