『唄う海』24


『なんとも急な話でして、申し訳ない・・・しかしまぁ重装備ですな』
松浦の所を出てしばらく新婚旅行よろしく地方を回り、五島は新しい任地が決まったためニーギと別れ、今回は陸路をずっと馬車にゆられている・・・しかし今回は上の方で一悶着あった、相手国が典礼参謀を指名して来たのだ
『罠だ・・・』
彼が何をして来たか知る誰もがそう考えた
『行かせるわけにはいかない、我が帝國海軍とこの世界との繋がりのプロパガンダとしてこれほどの適任は居ない、失う危険性は無くすべきだ』
という意見と
『陸軍との軋轢ほか、独断専行がいささか過ぎる人物だが、その分やり手ともいえ、行かせるべき(暗に罠ならそれはそれで良いから消されてしまえという者も居た)』
各々意見が噴出したが結局の所、帝國が使者の指名を拒むのは帝國の威信の面で良とはしない、という面で一致し(プロパガンダとしてはもしもがあっても五島の遺体、もしくは訃報に泣き崩れるニーギが居れば良いとされた)
『ふん・・・本来旅とはこういうものだ、供回りもつけずにあるくお前達帝國人がこちらでは異常なのだ』
いつぞやニーギを襲った女騎士リーネだ、軽装系の鎧をつけている。今回のニーギの代わり兼身辺の護衛だ

こちらも発見され引き取ったレーヴァテイルの姪が居れば充分と回された口だ
『今回の国は安全な国では無いのですか?』
はぁ・・・と息を付くリーネ、これだから帝國人(主に海軍)は
『交易で馳せた国ということは知っているだろう、その外縁部はもとから盗賊どもの巣だ』
『あぁ、なるほど、それなら納得です、盗賊ギルド等は彼等を抑えられて居ないのですか?』
理解がいつもと違い、イマイチだ、今まで海軍の典礼参謀として島国や海に面した国を回っていたため内陸国(といっても内陸15キロ程度だ)に少々疎いのだ、やむを得ないといえばやむを得ないが
『おこぼれでも食っていけるからガラの悪いのでも集まってくる、下手に締め出すと外交問題だ』
治安維持の力加減の作配もできるため周辺領主にも睨みが効くわけだ
『つまり、混沌をもって周囲を制しているわけ、か・・・そこにほぼ丸腰の私が出向き何かあれば、護衛の君も騎士とはいえ女性だ、非を問われるのは相手国、いつでも潰せる、という事ですかね。ずいぶん威圧的なブラフだ・・・相手の出る態度も硬化せざるを得ない』
急に思考が変わる五島に前々から思っていたが鋭いんだか馬鹿なんだかわからない人だなとリーネがため息をつく

『それで、どうです?あなたの近況は』
リーネを帝國のくびきに置いたのは五島自身だ
『ふん。まるで高級娼婦だな』
『・・・そうですか』
リーネは今のところ典礼参謀に付き、いい嫁ぎ先を探している所だ、レーヴァテイル、獣人らの理解者の段位をさらに高めるために
『私を哀れむか?ならばあとで私を抱くがいい、あの子のためにも金は入り用なのでな』
『・・・とりあえず手持ちで自由にできる分です』
用意された滞在費等の資金、金貨や銀貨の一部を袋に入れて手渡す
『しかし体は結構です、ニーギが居ますので』
『対価を求めぬか、偽善だな』
『偽善で結構です、私はあなたをそういう状況にした、これはその罪悪感から逃げるための方便ですから』
『ふんっそこまではっきり言うからには、自分自身を許す気もないのだな、実に結構な話だ』
硬貨の入った袋を薄く笑いながらもぎ取る
『本来・・・』
『ん?』
『悲しむべき状況なのでしょうが、あなたを見ているとほっとします。あなたは今、生気に満ちている』
目標があり、彼女はそれに邁進する事に手段を選んで居ない、しかし彼女は後ろ指差されても胸を張ってその事を誇るだろう
『訳のわからん事をほざくな』
彼女に睨まれる

『王都ラーナが見えますぜお客人!』
タイミングよく馬車の御者が声を上げる
『そうですか、少し止めてください』
『あいよっ、しかし一度もギルドの連中に襲われねぇたぁ本当にお偉いさんじゃねぇのか?』
『やだなぁ違いますよ、よっと』
扉を開け狭い空間から解放され背伸びをする。どうやら都を見渡せる丘の上らしい、都を一望にできる
『すごいな・・・糸杉に赤い屋根、白い家壁・・・綺麗な街だ』
『ラーナは交易、暴虐の街に加えて今は芸術の街でもある。』
鎧を鳴らし周囲を警戒のため見回しながらリーネがさらに答える
『ここは貧民の街区画にも設計者を入れる、ふん、道楽者の街らしい考えだろう。街とは分相応それぞれ積み上げた生活感が素晴らしいのだ、分に合わぬ者が利用してもいびつになるのみだ』
『それは一理あるかもしれませんね・・・さて、私を呼び出した国は何を求めてるのか』
所々に白い煙がたち、街が生きている事を知らせてくれる、おそらくは混沌であるがゆえ人々にも活気があることだろう
『そして私に何ができるのか・・・』
御者にチップを渡し馬車に戻る。
五島のラーナにおける一つの狂騒曲が始まろうとしていた


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