『唄う海』16


特殊工作艦に横付けし、バーナーの火花を散らして修理中の筑紫、僚艦の天草は明石級の工作艦でないと修理不能(後部を打ち据えられた後、無理して主砲までぶっぱなしたので、がたがあらゆる所にきたのだ)とされ、後方に送られた
『完全密封式の砲じゃなきゃ整備の面からも厳しいかも知れねぇな』
自艦の高角砲を眺める一支。例えるなら大和の高角砲の様なのがベストだが、最悪雨風凌げるだけでも違うんだが・・・
もちろん、旋回の早さや熱中症、湿気の問題もあるので一慨には言えないのもまた理解はできるのだが
『あんまり考えてるとハゲますよ、艦長』
『ん、なんだ。対馬か』
『なんだはないでしょう、なんだは』
対馬がやかんを差し出す。やかんに水滴が結露している、冷たいお茶だ、受け取ってやかんの口からそのまま流し込む、うまい
『すまねぇな』
『大物を見るための方便ですよ』
別な方向を見る、一機艦の空母加賀だ
『知り合いの話だと魔石だのなんだのの試験を行うとか』
『なんだそりゃ?そのためにわざわざ花の一機艦の空母を持ってきたのか?』
鳳翔とか古い母艦で試したほうがいいと思うが
『油の無駄遣いにならなきゃいいですよね』
対馬は試験のほうが気になるようだ

『双眼鏡借りますよっと・・・ダークエルフの人が入って行きますねぇ』
たまたま試験を行う時刻だったらしい、いや、対馬の事だそれも調べてた上の話だろう
『変な事故で喪失とか勘弁してくれるなよ・・・五島は加賀が母艦の中で一番好きというか写真集まで作る加賀狂いなんだからな』
『そういえば入院したと、便りがありましたね』
『何やってんだかな』
『あ、始まった』
風が吹きはじめる
『それから軽空母じゃ既に導入してるらしいんで大規模な事故はほぼ無いんじゃないんですか?』
『だといいがな』
いままで航空屋とは関係の薄い砲艦や根拠地隊、そのうえ各地にバラけてるわけだから世情にも疎くなる。だからこそ五島の時たまの便りがかなり面白く、かつ貴重なのだ
『ん?』
風がいきなり強くなる
『な、なな、なー!!』
対馬が変な声を上げる
『どうした?何か呼び出す気か?』
加賀の方向を見る・・・言葉を失った
『龍?いや、あれは・・・蛇!?』
良くは見えないが空気の揺らぎが加賀を取り巻くようにうごめいている
いつぞや五島に聞いた話だ、加賀という国名は蛇の古名「カカ」から来ていると、同じ加賀の潜戸(くげど)も鏡(かが・み)餅も、かかしも蛇をもした物だと

実験が慌てて中止されたのか空気が蛇の形を失い消える
『い、今のなんだったんですかね?』
周りに居た艦も今のはなんだと発光信号に依る問い合わせが加賀に殺到している
『さぁな、夏の夜話には持ってこいじゃないか。はっはっは!』
一支は何となく安心していた、敵対する様子もなかったし、加賀の語源の蛇が氏神様なら、特に問題なかろう・・・自分の名前を為す物に危害は加えないだろうし、日本の神様だ。むしろありがたい気分になっていた。
もちろん、うろたえないのは以前に五島に聞いた話があったからだが
『本艦の場合筑紫だから松浦佐用姫あたりでてきてくれんじゃねぇか?これも蛇に関係あるけどな』
『そ、そんなぁ!!』

それから加賀では美しい白い羽衣を着た女性が出たとか言う話が散々聞かれた、艦内神社は伊勢神宮の分社で社神はアマテラスオオミカミだからそっちも出たらしい、なんともありがたい話だ

公式にはマナとか言う物を集め過ぎたとかなんとかで刺激されて出て来ただけで害は無く御利益はたぶんある(無いとは言えない)が畏れおおいので魔石を使ったあとは艦内神社に代表立てて参拝することと公布されたとかなんとか・・・真相は闇である


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