『唄う海』15


『暇、だな』
ペローの一件以来、機雷戦対策の提言は行ったものの被害が無い為、各隊に暇な時竹の棒を付けた浮きを撒いていくつ見つけられるか、といった訓練を示唆するのみという対策になってるか甚だ疑問な所で対策委員会は人員削減が行われ、古巣の典礼参謀、いや、大使館が置かれたので駐在武官になった松浦だが、もはや、駐在武官の仕事は無い
『あら、まるでわたしと居ない方が楽しいと言わんばかり』
『いや、そうは言うがな幽弥(かくりね)』
単身赴任も長いし、と呼んだ妻だ、幽弥という名は唯一の存在と言う意味らしい
『部屋に篭ってらっしゃらないで外に出てみてはどうですか?』
『一緒に、か?』
『はい♪』
物腰は穏やかで圧力があるわけでも無い口調なんだが逆らえたためしがない

普段着で町へぶらぶらと出る二人、中規模の町で河で町は二分されている。幽弥はバックにいくらかのお菓子を入れていた
『あなたが構って下さらないので、お友達がたくさん出来てしまいましたわ』
河原まで歩くと遊んでいた子供達が駆け寄ってくる
『かくりねおねぇちゃんだ〜!』
『はぁ〜い、みんな、元気してましたか?』
ニコニコと一人一人の頭を撫でつつお菓子を配る幽弥、嬉そうだ

『はい、おしまい♪』
もちろん幽弥と松浦二人の分は残らなかった、嬉しそうにお菓子を口に入れ自分達の遊びに戻る子供達、二人は土手に並んで座りそれを見ている
『もう少し待っててくださいね』
『?・・・誰かに会う約束でもあるのか?』
『えぇ、あ、来ました』
青年が息せききって走ってくる、顔が真っ赤だ
『幽弥さん・・・あ、あの・・・手紙(////)』
『ふふっ大丈夫、きちんと訂削してあげたから、はい、頑張ってね♪』
『あ、ありがとうございます!!!』
手紙を受け取ると一目散に去っていった
『なんだったんだ?あいつは?』
『もともとここで子供達と遊んでたみんなのお兄さんみたいな子です、この前、町で黄色い紙を持って行ったり来たりしてましたから声をかけたのですけれど』
クスッと笑う
『大使館のお向かいにあるパン屋の娘さんに恋文を書いたそうですけど、紙の質があまりに悪そうでしたので、取り上げちゃいました』
『なるほど、で、書き直してやったわけな』
『ええ、でも彼の言葉をやわらかくしただけです。紙も・・・油皮紙、でしたっけ?嵩張るし、保存も効かないそうですから、恋文って一生物ですもの、だからちょっとだけお手伝い』
首を傾けて笑う幽弥

『でも、字がきちんとかけるだけでも勉強家なんですよ、彼』
つまりそれは
『識字率が低いのか』
首を横に振る幽弥
『ううん、書けないだけ、読めるけど。ここ本屋さんなんか無くて、写本屋さんだけあって、貴族の人達とか魔術士さんとかがお弟子さんに秘蔵の本を出して写本させて読ませるぐらいしか物を書く必要がないんですって。彼、写本屋さんで奉公してるそうよ。だから、好きな娘にあげるのは恋文なんです、他にも酒場の子はその娘だけのお酒つくったり、靴屋の子は綺麗な刺繍の入った靴を創ったり。見ててとってもほんわかします♪』
『いくつかもうもらったような口ぶりだな』
『あら?私が言うのもあれですけれど、意外にモテましてよ、私』
『なぬっ!?』
『で、あなたは何を下さるのでしょう、でないと貰われていっちゃいますよ、ふふっ♪何も贈れないってことは、この国だと手に職が無い、甲斐性が無いってことらしいですから、人妻の証明として、言い寄る人達に見せる物が欲しいなぁ・・・なんて』
『う、うーむ・・・(汗)』
いきなりそういわれても・・・困る
『ふふっちょっといじわるだったかしら?でも、贈られるなら別に子宝でも構いませんよ?』
『は、ははは(////)』

『即答してくれないのは私ですといやなのですか?』
『そ、そんなわけではないぞ!よーしわかった、わかったぞ!!この松浦、頑張っちゃうぞー』
『ふふふっあなた、必死ね♪』
『うぬぅっ(汗)』
聞きたい言葉を聞き出す、どうも交渉術でも妻に勝てそうに無い
『五島・・・ニーギを妻にしてるそっちが羨ましくなってきたぞ』
何故か涙が止まらない松浦だった
もっとも五島が聞いたら
『こっちは鼓膜破けて入院してるしニーギのせいじゃ無いが毎回荒事ばっかりだ、こんてぃくしょう!』
と返事が帰って来たことだろう。
とりあえず回ってなんだと聞くのは御法度である。

日が暮れて空が赤くなる
『うむ・・・そろそろ帰ろうか』
『はい♪』
子供達に遅くならないように、と注意しつつ帰途につく二人だった


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