『唄う海』14


『つまり直接接触したのはあなた方とこの国の王ですか』
『あ、あぁ、ただ、衛兵は見栄をはって鎧はフルフェイスだったし、大使も国王の前では咳込むのを我慢してたから、直接触れたわけでもないし感染率は低いんじゃないか?』
ニーギを待つ間に大使と接触した人間を三人で再確認する
『大使がいつ頃から咳をしだしたかも問題でしょう。時間からいって、感染したのはここでは無いと見られますが・・・まずい!大使が乗って来た飛行艇の乗員も!』
接触してないはずがない!
『おおっ!?ひ、平文で構わんよな!?』
『あんな病気見た事がない、緊急の事態にそんな事で』
『わ、わかった、とりあえず打ってくる』
上官がわたわたしつつ電信室に向かう
『ふぅ、江原軍医はホントに冷静ですね、私には無理だ』
ぼふっと床に座る
『冷静にみえますか?まいったな、あなたの方がむしろ落ち着いてますよ、私なんか軍医なのに飛行艇のパイロットという最悪の感染経路になりそうな人を見落としてちゃ、失格ですよ』
苦笑する江原
『た、ただいま、キュ〜』
防護服をもってゼイゼイハァハァしつつニーギが返って来た
『さて、パンドラの箱を開けにいきますか・・・』
深淵が待ち構えていた


『・・・これが今日死んだ人間ですか!?』
『わ、私も水死体なら見たことがあるんだがこれにはたまげたよ』
あまりの状態に汗がふき出る、防護服じゃ拭えもしない
『・・・はじめます、まずは・・・目は溶解して原形を留めていない』
ヘラでまぶたの裏を見ようとしたがそのまま目が流れ出てしまった
『うえっぷ・・・書いた、ぞ』
『他に特徴的な被害は皮膚が完全にやられている・・・体に球状のこぶがに点在、肉がたるんで下膨れしている・・・歯からも出血、それに血管がパンパンに隆起してい
る・・・まるで死後何日か経った死体だ』
『よし・・・』
経過を書き込み終えたようだ
『多分この状態の場合は・・・典礼参謀さん!部屋のはじっこ、壁にへばりつくぐらいの位置に下がって!』
メスをもち、ソッポを向いて突き入れる
ブシャアアアアアアア!!!
血液が噴水のように撒き散らされる
『ひぃっ!』
『体内圧が高い結果です、下手に治療でメスを入れたら感染が広がるな、これは』
血の噴出が終わった体内を覗き込む
『は?』
無い、小腸から大腸にかけての部分が無い、調査のしようが無い
『人体をこんなにも破壊できる物があるのか!』
作り話のように希望なんてあるのか?


『術式完了』
縫合は皮膚が持たずできなかった
『防疫部隊が来るまで保存したい、冷凍庫とかありますか?』
遺体を動かせるようそのままベッドのシーツで包み、さらに絨毯で包む
『いや、そんなもの王宮にしかない、許可はおりんだろう』
あやしい死体を受け入れる所がどこにあろうか
『なら地中に埋めるしかありませんね、腐敗が進み過ぎる』
『五島君を使ってくれ、私は第二報を打ってくる、あちらからの指示が来てるかもしれん』
『わかりました』


『ニーギ、大事な事なんだ、聞いてくれ』
ぶんぶん首を横にふるニーギ
『キュ!やだ!ゴトーが死んだあとなんて考えたくない!絶対やだ!』
『おいおい、人はいつか死ぬぞ?』
『ニーギが先に死ぬもん!』
『それは私が困る、いいか?』
『ア゛ー聞こえなーい』
『頼むから聞き分けてくれ!』
部屋を出たらいつのまにか痴話喧嘩になっている、仲のよろしいことだ
『終わりましたよ、ひいては手伝ってほしいことがあるのですが』
『えっ!?あ、江原さん何かわかりましたか?』
『この病気が人体に恐ろしい影響を与えることは間違いなく。それで遺体保存用の穴を掘ってもらいます』
『わかりました、防護服じゃ無理ですからね』


『愚か者が』
殴られ壁に叩きつけられた部下は恐縮する
『管轄が違いますし、外務省の高官と接触したのは初期に感染した者で、次の日には死んでいます仕方ありますまい』
もう一人、大柄な部下が答える、その背後ではかつての設営地が燃えている
『くだらん手間がかかる、無知で惰弱な海軍に知られてはな』
陸軍は防疫に関して、帝國一の技術を持っている、大陸に兵を長らく派遣していたこともあり、その戦術・戦略利用もよく練られている。海軍の場合、感染しても艦でそのまま隔離でき、かかって赤痢程度、経験が違う
『この病原がこの世界に於いて我が帝國に覇をもたらすのだ、聯合艦隊でも航空隊でも砲兵でも歩兵ですら無い、我々が、だ』
海軍は自らその道を閉ざした馬鹿者だ、彼はそう思っている
『大使の転任先と死亡が確認できました、大使館で何とか抑えているみたいですが』
伝令が伝えに来る
『無駄、ですな』
『当たり前だ、人は何かしらの関係性が無ければ生きていけん、それにこいつの感染力は実に素晴らしい・・・ともかく海軍の馬鹿どもに横出しされんよう防疫せねばならんな、やつらは口がうまい』
『飛行艇の乗員を防疫したように、ですな』
『あぁ、一人残らず、な』


穴を掘って大使の体を保存したあとニーギに江原さんを自分達の宿舎の部屋に案内させ、感染の疑いが高い上官と自分は大使館で一夜を明かした
『だるい、発症してるな』
風邪をひいたような感覚だ、上官は加えて目が痛いと訴えていた、最初に接触したのは自分のはずなのだが・・・長くそばに居た上官が先に感染したらしい
ぶるるっブるっヒヒィイイイイイイン
なんだ?暴れ馬か?
バキャッ!!
冊をやぶって馬が跳び出す、目や口から出血し体にこぶが
『感染していたのか!』
出迎えの馬車の馬だ、間違いない!止めなければ・・・しかし私が出ても感染は拡大する!ええぃ!
拳銃を持って玄関から乱射する、目が見えないためか、しばらく同じ場所を回ってその馬はまるで割れた風船のように血を吐き出し倒れた
『馬の処分もしなければならんな』
間の悪い時に二人がやって来た
『密閉破っちゃったんですか!?』
『密閉されてなかったんですよ』
馬を指差す
『これは・・・くそぅ』
『キュ?』
『人間に近い種に感染させて抗体を作るのが、病原体へのセオリーなのですが馬はダメかっ!』
ブロロロロロ
『ん、輸送機?陸さんの防疫部隊か!』
空に白いパラシュートの花が咲く、助かった


『キュ!キュ!キュ〜!?な、なんで撃ってくるの〜?』
落下傘で降りて来た連中は大使館を取り囲むように展開して来た、そして問答無用の射撃だ、慌てて大使館に戻り、ろう城の構えでは居るが、一人は目から出血が始まり失明同然ときた
『ふぅ・・・勧告もなしにとは本気ですよ、彼等』
江原が淡々という
『生きていては・・・困るのか・・・ゴホッゴホッ我々は』
『こんな荒事!バレないと思ってんですか!?』
上官の言に五島が納得いかないと憤慨する
『ごほっ・・・バレるはずが無い、意識混濁で暴れ、絶望的な状況に悲観して、自殺した、狂っていたから処分した、どうとでも出来る、死体も、ごほっ先に回収するだろうし・・・』
『そんな・・・』
『まとめると、感染者を全て潰して病原体を探し、利用方法、つまり感染と治療の実験を誰にも知られずに続ける必要がある、と』
『でも何故?これほど危険ならあらゆる組織に公表してやるべきなのに、そのための防疫部隊でしょう!?』
江原が薄く笑う
『ああ、なるほど、散布後にこちらも適度に犠牲者を出しつつ、あくまで未知の病原体の治療法を偶然見つけ出したと見せかける訳ですね』
『ごほ、事情を知る部外者はいらない訳、な』


『つまり、人をあんな風にしてしまう物をばら撒く気なんですか!?彼等は!』
おやっさんやニーギや沢山の人がいるこの世界に!
『落ち着いて、効果は大です、考えたくもなります。関わるが故、禁忌(タブー)を守る事が緩くなってしまった人はね・・・アステカへの天然痘、欧州のキリスト教の絶対性と農奴、荘園制を終いえさせた黒死病、一次大戦後期からのスペイン風邪、文明を、世界を変える一押しに、これほど適した物は無い』
『キュ?それってすごいの?』
『あぁ、君は・・・ま、大抵の人にも判りませんよね・・・とりあえず、黒死病の時は2500万人が亡くなりました』
『2500万!?』
『まて』
話を上官が遮る
『射撃がやんだ、じきに入ってくるぞ』
相手は盛大に撃って来てくれたが武器は最低限しかない、万事休すだ。射撃を避けるため大使館の奥の台所に隠れこそしたが進退窮まった
『裏口は?』
人がいないみたいだ
『わざとだ、裏からは撃ってこなかった、ごほっ・・・たやすく囲めるのにだ。狙撃手が出て来た所をターン、だな』
指で弾く
『くそっ・・・』
『こんな事もあろうかと・・・食器入れの戸を開けて・・・その下に扉がある、そこから逃げろ』
『逃げろって・・・』


『何かあったときの脱出用に地下に通じている、港近くの井戸に出るはずだ。沖の海防艦に逃げれば手だしは出来ん、私は残ってやつらを遅滞させる・・・体はろくに動かないし、目も見えん。指揮官陣頭で逃げても手柄にゃならん』
『今は手柄とかそんな場合ですか!』
『くくくっ・・・サルガッソーの件以来嫌われてると思ってたがな。いつ君とて動けなくなるか判らん!防護服を着て動きの鈍い二人を守れるのかね、私をおぶって』
『しかし・・・!』
『キュ・・・ゴトー・・・』
服の袖を引っ張るニーギ。それが無理な相談な事は判りきっていた
『せっかく覚悟決めて演じてるんだ、水さすなよ、な?いけ!軍医・・・あとは任せました、我々の生きた証拠の入った頭で必ず治療法を』
『わかりました、必ずしも私で無いかも知れませんが』
踏み切りのつかない五島の前に自分がまず、と江原が脱出口に入る
『迷うな!ニーギ君のため、君はもっとぶざまにのたうち回って死ね!!』
上官の一喝で吹っ切れた・・・いや、そんなかっこいい言い訳じゃない、ただ逃げるきっかけが欲しかったにちがいない、覚悟を決めた人間に私はなにもできない
『はっ・・・ニーギ』
『うん・・・行こう、ゴトー』


『撃ち方やめ!!』
大柄な下士官が命ずる
『突入させよ』
大使館の台所に篭って出てこない感染者を確実に殺害するため扉を蹴り破り兵士が二人突入する
カシャッ!
『うわっ』
懐中電灯の光で目が眩む
『撃て!撃て撃て!!』
『バカものっ乱射するな!』
大柄な下士官の言も間に合わず銃火が床に流れていた酒に引火する
ボワァッ
『痴れものが』
今まで命令を下す以外黙っていた士官が炎の中に歩いていく、兵達も感染しないよう防護(防火)服を着ているのだが人間として火への恐怖は避けられなかったのだ
『井上さんのやり方も、私では、ま、時間稼ぎにもならんか・・・ごほっ』
感染した典礼参謀が座り込んで酒を飲んでいる
『諦めたか、あとの三人はどこだ』
『いえねぇな、バーカ』
眉をひそめる、何だこいつは
病状は体が膨れる、つまりは体内圧が上がってはいない、なら血は飛び散らない
『では死んでいただきます』
銃を向ける
『待て、安い酒は今さっき燃やしちまったが、これは高くてな、飲むま』
ターン
『あとの三人を探せ、どこかに居るはずだ』
あとに続いて来た部下に指示をする
殺した相手を見下ろす、扉を背にして汚染された血を流している、実に不愉快だった


『どこにも居ません!』
『そんな訳があるか!狙撃手もこの部屋から脱出した人間を見てはおらん!絶対居るはずだ!見つけ出せ!!』
・・・居ない?ならば隠し通路でもあって、逃げたか?しかしそれならここを探している兵達に見つかっ・・・
自らが手にかけた典礼参謀の死体をもう一度よく見る、扉を背にしている、これか! 『その死体をどけろ!隠し通路は背にしている扉だ』
してやられた。感染者の死体を退けてまでは兵は探さない、死体をむげには扱わない、我々としてもなるべく死体現状を維持させるために保護は兵にも充分叩き込んである。部隊柄、お国柄というやつだ、くそっ
『地図を出せ、どこかの井戸に出るはずだ、中を探索していては時間がかかり過ぎる。必ず抑えろ』
停泊している海防艦まで逃げられたら我々の装備では手が出せない。確実に通報され、この病原体は封印されるだろう。
それだけは阻止しなければ・・・疫病に依る無作為の異世界粛正が帝國の繁栄には必要なのだ
『我等も行くぞ、わずかでも人数を増やして効率をあげる、ここには数名残れ、焼却準備と、ないだろうがここに戻ってくる可能性もある。』
『はっ!!!』
下士官が兵を組にわけ、各所に分派する


水の枯れた水路を進む三人、時たま分岐があり、行き止まりにぶちあたったりして行く手を遮られる
『追っ手を、撒くための物でもあるし、さすがやね』
江原が息をつぎつぎ言う、いくらなんでも防護服を着たままはキツい、というより、着たままでここまで行動する事など想定してないだろう
ニーギの方は長く潜水する生活をしてた為か見た目以上に生物としてタフだ、防護面をつけてる息苦しさも苦ではないようだ。しかし、問題は五島の方だった
『さっき見つけ・・・た、ごほっ・・・この国の王家紋章を探して辿れば出口に・・・行けるはずです、たぶん』
全身のだるさ、遂に始まった咳が体力を奪っていく、そして気力も、上官が覚悟を決めた演技のあと、誰も居なくなってから、恐怖を耐えるのに酒を必要としたように
『キュ・・・』
ニーギの方は五島の消耗が気がきでないようだ
『ごほっ行きましょう、相手は待ってくれない』
また歩きだす、防護服を着ている江原より汗だくだ
『まだ、休んだ方がよろしいでしょう。五島さん、あなたが持たない』
『・・・』
答えがない、ふらふらだ
『五島大尉!!』
『大丈夫、です!』
『ゴトー・・・』
『大丈夫って言ってるだろう!なんだ!?』


びくっと怯えたように体を震わせるニーギ
『・・・最低だな、私は・・・ごめん、でも大丈夫だから』
顔をニーギから背ける、今は見せられた顔じゃないだろう
『ニーギさん!?』
がさごそと音がするのと江原が声があげる
『!?』
振り返るのと同時に唇を奪われた、ニーギの唇が自分で噛み切ったのだろう、切れている、血の味がした。ま、まずい!
『ん!バカっ!ニーギ、感染するぞ!やめっ・・・離れろ!!』
いささか乱暴だが突き飛ばす
『キュ!!・・・これでゴトー一人じゃないもん!ゴトーが変になったらニーギは・・・ニーギは・・・!』
自分が境遇に酔っていた事を思い知らされる・・・だからこそ上官はのたうち回って死ねといったのに、護るどころか、迷惑をかけているのは私ではないか
『ニーギ・・・』
うつむいて泣いているニーギを抱き寄せる、今度は自分からの、接吻
『ん・・・』
『こほんっ、良い休憩になったですし、そろそろよいかな?』
江原の存在にはっとして二人とも離れる

『お時間をおかけしました。』
『いえ、顔色、すこし良くなったんじゃないですか?』
『良い薬をいただきましたから、ニーギ・・・もう何も言わない、一緒に行こうか』
『うん!』


やがて道は上へと登るハシゴへとたどり着く、割と近いところにあるのか、海の香をここでも嗅ぐことができる
『もう陸軍さんは来てるでしょうか?』
『来てても護りますよ、必ず』
『キュ・・・誰も来てないみたい』
ニーギが水中よりは効かないが常人より遥かに鋭い耳を澄まし外の状況を確認する
『出ましょう、次は船を用意しなければ』
五島、江原、ニーギの順で登っていく、本来は狙撃で危険だが五島が頭を出して今度は目で再度周囲を確認する。本来の港ではなくその離れに近い
『大丈夫みたいです、ふぅ』
気力は回復したとはいえ、体力は消耗している、ハシゴの登り上がりも重労働だ
『ゴトー!見て!』
ニーギが喜色をあげて指差す方向を見る
『おやっさん・・・』
船を用意して待ってくれていた、町の住人が恐れて家屋に篭ったままであるのに関わらず、こっちが見ているのに気付くと照れ臭そうにそっぽをむいた
『あの船にのって海防艦へ行きましょう、あの船の人は信頼できます!』
『助かりましたね』
ガチャガチャと音がする防疫部隊だ、彼等も間に合ったのだ
『ゴトー!』
『発見した!逃すな!追え!』
『江原さん、行ってください!ここで引き止めます、生きる為に!』


『思ったより健常ですね』
散発的にあちらも拳銃を撃ち込んでくる、大使館制圧に使った軽機は持ち歩いておらず、もちろんこちらが圧倒的ではあるが手持ちの小銃か拳銃のみ、しかも防護服の為、保持弾数も少ない、火力で押し潰せるまでではない。相手の一人は既に船に乗り込んでおり、もやいを放とうとしていた
『突撃させましょうか?』
一瞬躊躇う、突撃するには手元の人数に不安がある。しかし捕りのがしては・・・元も子もない
『許可します』
『総員、突撃ぃ!!!』
大柄な下士官が命令とともに立ち上がり兵と突撃する
『キュキューーッーーッ-------!!!!!!』
『なっ!?』
高い、高い周波数だ、ここでも耳鳴りがする。
『ぐわぁああっ!!』
『耳がっ耳がっ!!!』
突撃していた兵達が耳を抑えて悶える、もし、砲兵部隊や砲火を受けたことのある人間が少しでもいたなら結果は違ったであろう、しかし悲しいかな彼等は防疫部隊だった 『この音は何だと言うんだ!』
知るはずもない、レーヴァテイルは海中を走査できる、そのために普段はピンの代わりに歌を歌うそれの無理をして出した超高音なのだから
その隙に船が離れていく。
おやっさんの操船でもはや手出しできないところへ


一方、高周波の音波を至近で聞いた五島の方はもっとひどかった、鼓膜が破れて耳から血を流して転がっていた。してやったりと笑ってはいたが


やがて江原が乗った海防艦が視認できる距離に近づいてきた為、回復し始めた(ニーギも息切れした)防疫部隊はこれ以上の戦闘は無意味と判断し五島らの生存を黙認した。ただし、自分達の行為を公やけにするならば陸海は対立し、大陸に進出している帝國にいかに不利益を起こすか、と居直り強盗同然の言葉を吐き捨てて

『しかし実際問題、彼等は今後も必要な部隊です、大陸に我々が関わるにあたっては・・・くわえて公表し責任を問えば間違いなく様々な問題を引き起こすでしょう。』
江原とフリップを用いた五島の鳩首会議で、上に直接掛け合い、判断を仰ぐこととした
(海防艦の艦長並び乗員にはとりあえず急行してもらっただけなので実際何が起きていたかは知らなかった)
結局のところ、上もうやむやにせざるをえなかった、状況も特殊でごくごく小規模とは言え、皇軍相討ったのだから。
『結局、私たちにできたのは血清の作り方、だけですか』
『それだけでも恩の字でしょう』
結果我々に下されたのは守秘義務と『ご苦労、よくやってくれた』だけだった


『江原ウィルス』についての詳細


潜伏期間二日から三日の出血を伴う致死率ほぼ100%の感染症、感染経路は飛沫感染
血清は感染したレーヴァテイルの血から作ることができた

当レーヴァテイルは大使が大使館を訪れたその日の時点で感染しており抗体が出来、それを感染した典礼参謀で生存していた一人の歯茎の破れた血管からレーヴァテイルの唇から流れこんだ血により抗体が流れ込んだ為に偶然発見された
回復に至るまでアナフィキラシーショックや免疫に抗体が異物として排除されなかったのは奇跡としか言いようがない

現在血液を採取し血清を培養量産しつつあり、出来次第、前線に供給されつつある


この病原体は始まりに過ぎない、駐屯地を設営、目的地へと行う行軍、開発、開拓、我々は常に感染の危険にさらされている、もしもっと潜伏期間が長ければ、もし空気感染であれば、もし、開拓や開発が人の往来を激しくするならば・・・


未だ感染は終わってはいないのだ、それはまたいつか死の翼を広げ襲いかかってくるだろう、繰り返し言おう、未だ感染は終わってはいないのだ。


帝國海軍軍医江原京介


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