『唄う海』13


第二十一根拠地隊第一分隊(筑紫・天草)の活躍でサルガッソーが啓開されたのを機に、典礼参謀達の交渉は一気に進展し、この度、モーズイ国にめでたく大使館を迎えることになった
『こちらの世界の慣例ではないのですが、ささやかながら馬車でお迎えします』
外交官がその国に入国しその国の元首から許可を伺う際には出迎えに馬車か車かを選べるのだ、現代日本でも宮内庁が六本木から出しており、大抵の大使の方は馬車を使う、とのことだ
『陸軍さんの典礼参謀より海軍さんのは気が利いてくれてありがたいよ・・・ゴホっお言葉に甘えて馬車でお願いするかな、この体重と歳で歩くのはキツくてね』
大使は少し太めの方だった、どうやら先の赴任国でもてなしを受けすぎたらしい
外務省の異世界に対するやりかたはこうだ。
まず典礼参謀にオブザーバーとして職員を派遣し条約の制定を行うのが第一
次に治安と大使館の確保が第二
この時点で大使派遣となり典礼参謀は駐在武官となるかまた違う任地へと向かうことになる
ちなみに大使は確保した国から玉突きに回されるようになっていて(本土の人間をいきなり異世界に送り出すほど外務省も無能ではない)
この大使のみかけもベテランの証なのだ

『ささっ、大使、馬車はこちらです、五島君あとは任せたまえ』
『はっ』
筑紫にサルガッソー探索を命じた上官だ、ちょっといけすかないがそれは個人の感情だ、表には出さない。敬礼で大使を見送る
『さてと・・・』
続きをしなければ

『まっ・・・』
『キュキュッ♪待ったはなーし!』
『おーぅ魚の嬢ちゃん筋が良くなったのう』
『ああもぅ!おやっさんが鍛えるから』
『ああ?聞こえねぇなぁ?はっはっはっはっ』
こっちの世界にあった将棋のようなゲーム、キュロスだ、かなり大きめの盤に駒はチェス風味、取った駒は将棋のように使えて、なおかつとった駒ごとに一定の歩が増える(二歩もない)そんなゲームだ。
耳を掻きながらニタニタ笑ってるおやっさんは大使館・・・その前の典礼参謀である
我々の宿舎に食料品を納入しにくるおっさんで、今は慣れてニーギとすごく仲がいい、でも一緒になって私をからかいに来るのはやめてほしい(はぁ)
『さぁどうするぅ〜?キュ〜キュッキュ〜♪』
『ま』
『『ま?』』
『参りました・・・おやっさん、明日の注文にニーギの好きな魚一式、高いやつから』
『まいど〜っ教えた甲斐があるってもんだ、ガハハハハ!!!』
『ゴトー大好き♪』

まぁ大使が来るぐらい段落がついたたからこそ出来る休暇みたいなもんなのだが・・・普段からこんな訳じゃないです、念のため
『そいじゃ、おれは行くわ!』
『あ、はい。いつもご苦労様です』
『バイバーイ♪』
おやっさんが時間が来たのだろう、そそくさと出ていく、娘さんがうるさいらしい、大使さん達もそろそろ
『君達のおかげで首尾良くおわったよ、ありがとゴホっ・・・喉がつまっていかんな』
あ、帰って来た
『私は職分を果たしたまですから、あとは大使の腕のみせどころです』
『まいったなぁ、君は私を来た初日から徹夜させるつもりかい?』
『ゴトー・・・』
盛り上がる上官と大使をよそに小声でニーギが呼ぶ
『どうした?らしくない』
『あそこ』
玄関の床を指差すぴぴっと赤いものがついている
『これは、血・・・?』
『五島君今日はもういいぞ、ニーギ君もまたな』
『ああ、あの人がレーヴァテイルの・・・』
『あ、はい、わかりました、先に失礼します』
思考を一時停止し返事をする
『はーい・・・ゴトー?』
心配そうに見つめるニーギ
『おやっさん魚とかさばくのもするからその血だろう、でも偉いぞニーギ、良く見つけたな』
なでなでする
『キュウ(////)』


一夜あけて
ニーギがとなりで寝ている。あまりに幸せそうな寝顔なので胸にぼふっと顔を突っ込んで腋をくすぐる
『キュ!?ちょ、ゴトーそこくすぐっちゃキュ!あは、まだ眠、もうっ!』
パシン
『はぁっはぁっ・・・キュ!そういうのは夜だけにしてください!』
『はい、申し訳ありませんでした(顔に紅葉)・・・あ』
こんな時間に大使が
『キュキュッ!あ!なんて手はもう効かないキュ〜!どうせ前みたいに押し倒s』
『違う!外の大使の様子が変だ』
顔が真っ赤なのがここからでもわかる
『キュ?お酒でも飲みに行ってたんじゃ』
『なぁ・・・ニーギ、太ってないか?』
『キュ!?・・・な、なな、何を証拠に!ニーギは太ってn』
『大使だよ』
言われてみれば・・・あれ?震えて
『キュ!吐い・・・血ぃ!?』
『ニーギ、行ってくる!医者を・・・町のとそれから第二分隊の日振か大東に軍医官が乗ってるはずだから呼んできてくれ!』
驚き過ぎてニーギが固まっている
『キュ・・・』
『ニーギ!!』
『キュ!・・・ま、まかせて』
『あぁ、頼む!』
そして五島はニーギと別れて大使に駆け付ける
『大使!大丈夫ですか!?』
『ajgdmjふda.pw』
ど、どうしたんだこれは!?

立ってはいるが意識は混濁し、目と口から出血し血管が浮き出ている、あきらかに異常だ
『大使・・・とりあえずここで構いません!横になってください!』
ダメだ、聞こえていない。膝の裏を叩いて(ひざかっくん)倒れさせる・・・足もパンパンに膨れてるなんだこりゃ・・・
『pgdwjpgjajtmdg!!!』
さらに鼻と耳から出血・・・痙攣、おい、おい!おい!!いったいなんなんだよ!!!
ゲボァアアアアアア
『う、うわぁああっ!!!?』
大使の体の至る所から血液が噴出する、朝の早い時間帯の騒ぎを聞き付けて住人達が家から出てくる
『来ちゃダメだ!!!戻れぇ!!!』
叫ぶ血まみれの五島を見て、みな家に引き篭っていく、最後の大きい痙攣のあと大使は動かなくなる
『大使!!!』
脈を録ろうと首筋に指をあてると、いとも簡単に皮膚がむける・・・人工呼吸は・・・
私には出来なかった、あまりにも恐ろし過ぎて
駆け付けた医師二人のうち町の医師の方は使いものにならず、軍医官は防護服をとりにさっさと戻って行った。
『人目の着かない所っていってもなぁ』
隔離するように、と、医官の言はもらったが結局大使館に運ぶしかなかった、遺体は道端の大八車のようなのに乗せて運んだ

『おい、一体どういうことだ!?』
返り血を拭き、服を着替えた所で(ニーギの事が頭をよぎって水で洗い流す気になれなかった)上官が怒鳴り込んで来た
『で、大使は?』
『・・・』
応接間の方を指差す、言葉もでなかった
『な、な、なんじゃこりゃああああっ!?』
そりゃそうだ、はっきりいって今さっき死んだような死体ではないのだから・・・体が溶けだしている
『お待たせしました、江原です』
有毒ガスが発生した場合の防毒面と石綿の防火服、とりあえず全身装備で軍医官が現れる、うしろには同じくそれを着たニーギが心配そうに覗き込む
『ニーギ、それじゃキスも出来んな・・・隔離、かな?』
『はい、特にあなたは重要なケースになるかと、この病気の感染力について』
『た、大使が死んどるぅ!』
『あの上官に聞けば昨日出会った人間も特定できるかと』
話に頷く島原。にっこりわらう
『それなりに被害は限定できそうですね』
このやろう
『私の立場は変わりませんがね』
血を直接浴びているのだ、私は感染率は言われたように非常に高い
『あ、すいません・・・でも私に出来ることはそうないんです、陸さんの防疫部隊を呼ぶしか・・・来るまでどれだけかかる事か』

『病理解剖・・・付き合ってみます?』
『出来るんですか?』
『運良くわたしは赤痢等の感染症を専攻してまして』
確かに、何てタイミングに居てほしい医者が居てくれたのだろう、でも
『私は見たくない、これからどうなるか、なんて』
私には見る勇気が起きなかった
『おい、解剖、するのか?私が見よう・・・こ、これでも上官として防疫部隊を呼ぶ申請するためには知らなければならない』
上官が青い顔をして足が震えていながらも、そう告げる
『わかりました、記録をお願いします』
『ニーギ、もう一着取って来てくれるか』
『キュ〜』
『大丈夫、居なくなったりしないから』
『うん!・・・あ、おやっさん』
ニーギが戻ろうとするとおやっさんが玄関に立っていた、うつむいて
『魚は置いておく、自分で取ってくれ、五島の坊主・・・すまねぇ!すまねぇ!!』
走り去って行った
『おやっさん・・・そりゃ恐いよな』
流行り病のというものはこの世界にもあるだろう、でもちょっとショック
『ニーギさん』
『キュ、はい、行ってきます』
涙目でニーギがこちらを見ていた、うん、落ち着いた、私が落ち込んだりしてニーギを泣かすわけにはいかんよな。あとでなでなでしてあげよう


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