『唄う海』11


『大尉、となりはいいかな?』
次の任地へ向かう輸送船上で甲板のベンチにどっかと座り、海を眺めていたら見知らぬ少佐が隣に立って居た。陸さんばかりなので正直不意を打たれた。
『あ、はい、少佐、どうぞ』
『移動中は別に服務規定にこだわらなくても良いさ、民間人が居るわけでもない・・・吸うか?』
『いただきます』
出されたタバコを受けとる
『志摩、だ』
『はい?』
火を付けてもらいながら言われたのでちょっと頭が回らなかった
『名前だよ』
『あ、五島です』
『あー、思い出した、典礼参謀でレーヴァテイル関連の、かな?写真で一度見た気がするよ』
『恐縮です』
『まわりが陸式臭くてな、つい制服を見たら、話し掛けてしまった』
心底嬉しそうだ
『そちらは何を?』
『陸式とちょっと油田でモメてな、海軍には油は渡さん!なんて言うもんだから、居眠り総長さんの代理に調停にな』
『それは凄い!・・・といいますが、そんな事が?』
『ま、聯合艦隊がろくに動かない事へのあてつけだろうさ、陸式の分際で、誰に運んでもらってんだか、わからんらしい。そっちはそういうの、ないのか?』
『典礼参謀やっててもあまり海軍への風あたりは良くありませんね、確かに』

『陸に上がって直接戦ってもいない海軍がなぜ調停にはしゃしゃりでてきて写りが良い所を取っていくんだ!とか面と向かって、以前』
苦笑いしつつ話す、陸さんの気持ちもわからないでもないが
『そうかぁ、資源と予算の配分だけは譲れんからな、そういった話がもっと陸式から出るくらい君達典礼参謀にはバンバンやってもらえると有り難いな』
首を傾げる
『私らの行動は資源と予算に関係あるんですか?』
『民意だよ民意、これ、といった敵の居ない今、海軍の出る幕がなければ頭の数の多い陸式のいいようにされるだろう、加えてかつての中国大陸のように好き勝手にはさせない、そのために君達が必要なのさ
・・・正直資源さえ手に入るなら海軍としてはこの異世界に接触するのも手びかえたい所だ、あくまで主敵は米軍だ。勿論、米軍とも戦わずに済めば良いのは確かだがな』
『しかし、矢面に立っているのは陸さんですし、この世界を乱した以上・・・何とか調整が取れるようにする責任が我々には・・・』
『ない、我々は所詮異世界の挟雑物にすぎん。また、いついかなるとき元、いや、もしかしたら今度も別の世界に飛ばされるか・・・陸式の夢のような理想に、心から従うわけにはいかんのだ』

『予測ではもう我々の戦力は米軍に対し五割以下になっている筈だしな』
『い、いままで、あれだけの艦を持っていてもですか!?損失もほとんど無しに来たのに』
信じられない・・・その一言だった、転移してから艦は増え続けたし、なんだかんだいって世界第三位の大海軍である聯合艦隊が国民にとって誇りであることに違いはない、それが五割以下
『別に転移前も国民のいうようになりたくて臆病になってるわけでは無いよ、我々は、相手が相手だからだ。』
たしかにこれで予算と資源が削られては・・・帰ったとき国民と国土の安全は約束できない、七割の以前ですら危ういというのに。でも問題がある 『国の方は持つでしょうか?』
『大陸の事情に非情になり陸式をとっとと引かせりゃたぶんな・・・しかし帰れないという可能性も十分あるから問題なんだ』
難しすぎる問題だ
『ともかく、引き際は我が海軍が主導したい、陸式はなんにしても拡大傾向にあるからな、その為にも、典礼参謀、頼むぞ』
肩をぽんと叩かれる、頷くしか無かった
『君の場合、陸式の夢に付き合いたい気分だろうがね』
元の世界、ニーギと別れる日、確かに考えたくない、しかしいつでも起こり得るその可能性に私は恐怖した


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