『唄う海』9


五島は待ち合わせをしていた、以前の時とはまた別な小国、任地には長く居させない方針らしい。基本は陸さんの仕事とも言えるのででしゃばりすぎるなと横槍が入ったのかも・・・
一応外国回りをする海軍にもいくらか任せた方がいいとは思うが、一介の大尉にどうこうできる問題じゃないやな

『お待たせしました、すみませんこんな酒場に』『こちらはできればお会いしたくなかったですよ、ウェレスさん』
あのペロー8世に会った列強の諜報員だ、いい印象はまったく無い
『あー、今はその名前じゃないんですよ、えーとなんだっけかな?』
『本当の名前でいいじゃないですか、面は割れてるんですし』
『いっぱい使い過ぎて忘れちゃいましたよ、そんなもの』
呆れた人だ、そんなに渡り歩いているのか・・・思わず呟かざるをえなかった
『ネームレスめ』
『あ、いいですね、それ、気に入りました、じゃあ本名それで』
ニコニコしている、どうもこの人と話すと拍子抜けする・・・気は一切抜かないが。飛行艇の乗員を殺したのはこいつだ
『あぁ、飛行龍の騎手さん達は残念でした、あれは私の手ではありませんよ、ペローの手の者です。あなたはわかりやすいですねぇ』
余計なお世話だこのやろう

頼んであったサンドイッチ・・・のような物を口に頬張る
『まぁそう気を悪くせずに、何か飲みますか?おごりますよ』
『もご・・・結構です、嫌いなんです、酒は』
肩をすくめるネームレス『弱いなら、大歓迎なのですが、違うようですね』
『それで、用件は?』
呼び出したのはそっちだそれでいて待たされていた。
『これ、なんでしょう?』
一枚のイラスト
『紋章・・・私が記憶してるかぎりこっちの領主達の系統にはないですね』
『我々が造ったレーヴァテイルの国、その国旗です』
サンドイッチを頬張る事で黙る
『信用してませんね?ま、名前だけです。あなたたちが何の為にレーヴァテイルを珍重しているのかは知りませんが、ただ集められるのもしゃくですし、造っちゃいました』
こっちの世界の人間にソナーや水中探知の事など解りやしないだろうから仕方ないだろう。恐ろしく思うのも当然だ
『それでですね、大尉、国王になりません?』
『・・・はぁ?』
『いえいえ、あなたの持つ帝国の情報の提供と、レーヴァテイルの収集を止めていただけるなら、我が世の春を提供して差し上げようと我々は考えてます。もちろんそちらの学校のレーヴァテイル達とあなたの奥さんもです』

『ハーレムですよ、ハーレム、いやぁ男の夢です。あなたが羨ましい!』
背中をバンバン叩くな、痛い
『ペロー8世を殺したあなたが言いますか』
『ふふん♪事故ですよ、あれは。それにあなたがそれを知った上に私が伝えに来る時点でそんな事する訳がない、本気ですよ?我々は』
『ニーギ以外を抱く気はないし、我が帝國海軍の艦が見れない所に行くつもりは無い、傷つけるならなおさらだ!』
『それはもったいない、子供が少なくては家が断絶しかねませんよ?』
『あいにく分家でしてね、それに帝國には同じ妻に自分が五十になるまで六人の子供作らせた武将もいます、私になんら不足はありませんな』
こちらとの常識との違いに困ったような顔をするネームレス
『参りました、どう本国に報告したものやら』
『しりませんよそんな事・・・店主、この人の分のお代はいくらです?』
『何故?』
『一応、礼です、レーヴァテイルの国がそちらでできたおかげで暴行等のひどい扱いは多少は減りますから』
『・・・あなたがこちらに来るならばレーヴァテイルは一つの陣営に集まります。名前だけとは言え我々が先兵に彼女らを使ったならば、あなたの所とこちらのレーヴァテイルが同種族で殺し合う。』

『その時の審判はニーギと彼女達にしてもらいます、その前にそうなった場合あなたを殺してから、という前提をつけて、ですが』
睨みつける
『おお、恐い恐い、そうならない事を願いましょう』
『それでは』
店を出ようとすると背中から声がする
『私はしばらく飲んでおります、この国にも一週間ばかり居ますので、気が変わったらいつでも待ってますよ』
私は何も言わずに店を出た、しばらく歩いて空を見上げる
『私はニーギ達にとってとんでもない決断をしてしまったのかも知れない・・・』
無性にニーギに逢いたくなった。話がしたかった。どう答えるだろうか、彼女だったら・・・一週間なら彼女を呼べる、奴の事だそれ見越してのことだろう


決断しなければならない


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