『唄う海』8


『レーヴァテイル・・・レーヴァテイルを正妻にしているですと!?』
『はい、国王陛下。ニーギ、前に、紹介します。もう下を向かなくていいぞ』
ここはある国の宮城の社交会、呼ばれたニーギはシンプルなドレスに身を包んで五島の後ろに居た。
五島はニーギの後ろにつくと髪で隠していた耳を露出させ、ニーギも顔を覗き込まれないよう下げていた頭をやっと解放されたとばかりに上げる、眉毛はなく、まぶたも違うように見える
『キュウ・・・首が痛かったよぅ』
『あとで揉んであげるから』
『獣人といいダークエルフといい、帝國には見境がないのか!?ちょっとまて、貴公のレーヴァテイル、今、人語を・・・!?』
『五島典礼参謀の妻のニーギです、王様♪』
周囲がざわつく。喋るはずのないものが喋っているのだ、しかも今の挨拶は五島の指示もなくみずからの意志で、だ
『国王陛下の領土内や海域で獣人、ダークエルフ、そしてレーヴァテイルを見つけたり捕縛したら乱暴をせずに、私に掛け合うなりしてほしいのです、帝國は彼女等を保護します。』
慌てて頷く王、帰順したばかりにいきなり想像以上のカルチャーショックを受けたがそれでブチ壊しにするほど愚かでも度量も小さくもなかった

『しかし、ダークエルフをはじめ獣人は我々も伝え聞いていたため、対応はなんとか出来るが・・・商館の民間船となると徹底は難しいが・・・』
下手に保護等を始めると人件費が上がって叶わないと、商人達が逃げる場合もあるのだ、給金のレートの都合もある一朝一夕には出来かねるのもわかる
しかし五島には秘策があった、港が見える窓まで行くと一気に言い連ねた
『あそこのデボン商館の船と手前のガーター運輸の船大工は一緒ですね、それからアボン商人連盟の船は一人の船大工から作られたものでしょう・・・』
参加者の中に居た商人達の顔が自分達の船の名が挙げられるたび次々と青ざめる、そんな情報どこで・・・
『なにかあれば我々は誰が何をしてしまったのか、必ず突き詰めます。せめて、保護はしなくとも乱暴狼藉や殺害することはやめていただきたい』
もちろんブラフだ。海上で起こったこと全てを知ることなど出来るはずがない。
しかし知ることが出来るはずがない船の詳細をしりえたこの帝國人は・・・逆らわない方がいい、見つかったら最後、ここの王は当事者の首を撥ねるだろう、その思いが商人達の頭を縦に振らせた
『御協力願えるそうです、国王陛下はよい臣民をお持ちだ』

『う、うむ・・・』
ハイエナどもを黙らせおったわいと感嘆する、勿論顔には出さず、だが

実際の所、この国に来てから、ニーギが音紋をとり(歌って)同じパターンの音があると聞いて、この脅しを閃いたのだ。
本土の造船所にも癖があるように船大工にも癖があるのだ、もし不正規の艦船が通商破壊をやったとしても船大工を辿っていくという捜査の情報の線が増えるのは喜ばしいことだろう
報告を受けて未だ少数だが、今頃帰順した国にニーギの学校を出たレーヴァテイルが派遣され、音録りをしているはずだ。帰順した国が裏で支援と言うことも出来なくなってくる、いい事ずくめだ
再開された社交会に今度は悲鳴が上がる、なんだなんだ?
『悪魔め!!!皆の目はごまかせても、私の目はごまかせんぞ!!兄様の仇!!!』
サーベルを抜いた女性がニーギに斬りかかって来ようとしている。いかん!
『キュイ!?』
ニーギも咄嗟の事に何をされようとしているのかわからず右往左往している
『いかん!騎士リーネは兄をレーヴァテイルにより失っておる!誰かとめよ!典礼参謀殿はこちらに!』
五島は駆け出した、ふざけるな、妻を守らずして夫たりえるか!
ニーギを押し倒し鞘ごとサーベルを受ける

『ちぃっ!目を曇らされた帝國人が!どけえっ!』
押し込まれる、短剣じゃキツい、拳銃はあいにく持ち歩いてなかった、それに体力にも自信がない、だが後ろには守らねばならない人が居る!『ニーギは私の妻だ!何があったかは知らんがやらせてたまるか!!』
『鞘からも剣を抜かずに・・・世迷いごとを、言うな!!』
サーベルを斜めに傾ける、こちらの手を斬るつもりだ、咄嗟に離して、体を相手にぶつけ、突き飛ばす。少し距離が稼げた・・・短剣を持ち直し、ニーギを背に隠す
『これは抜かずの剣だ、自分を守るための、そして誰かを守るための剣だ!騎士の剣とて同じでしょう、私怨の為に抜いていいはずが無い!』
『問答無用!!!』
あちらはすぐに駆け出してくる
ええぃ!言葉での時間稼ぎも失敗か・・・!一か八か!!!
短剣を鞘から抜き、リーネに向かって斬りあいをするフリをして走り込みつつ、短剣を投げつける
『なっ!?』
容易に弾かれた、しかしその隙だ、片手は相手のサーベルを持つ手を抑え、頭を掴み床に押し倒す・・・手練相手に斬りあいなんかしてたまるか!
ゴン!
と音を立て頭をうち目を回すリーネとか言う女騎士
『な、なんとか・・・なったな』
足が動かないや

『なぜです兄様!そのレーヴァテイルと共に行くなんて!我が家は誰が継ぐのですか』
『リーネ、私はレーヴァテイルが悪魔だとは思わない、意志は通じるんだ、それに家を継ぐのは私じゃ無い、血筋的にはお前の方だ・・・お前だけには理解してもらえると思ったのだが』
それから数ヶ月後のある夜、そのレーヴァテイルが兄様の首飾りを持って来た、私が小さいころにあげたもので身から絶対離さないと約束してくれたものだ、その意にするものは・・・私は激昂した、気付いた時には私のサーベルはそのレーヴァテイルの胸を貫いていた
『ぁ・・・・・・とぅ』
ありがとうだと?ふざけるな悪魔め!返せ!!!私の兄様を!あの世まで付いていくなど私が許さない!許してなるものか!このような生き物の存在自体許さない!

『・・・っ!?』
見知らぬ天井、どうやらベッドの上のようだ
『起きましたか』
『・・・どうして私が生きている、帝國人を襲ったのだ、その場で斬首さらされているはずだ、それよりその襲った帝國人のお前が何故私を看ている』
『あなたのような人に理解をさせられなければ、帝國が勧める各人種の融和は血にまみれたものになるでしょう。その為にあなたを生かしました』

『ふんっ・・・情に流されて、じゃないぶん耳障りはよいな・・・どうせ私の身の上も聞いているのだろう?』
つっけんどんな態度だ、無理もないが
『ええ、私はあなたこそプロパガンダに利用できればこの上ない存在だと確信しています』
『くっくっく・・・あーっはっはっはっ!』
『そんなにおかしいですか?』
『構想は良いが、それは絶対に無理な相談だ・・・私がレーヴァテイルの受け入れを支持することなど、絶対にありえん!』
『勝算が無くて私があなたを生かすとでも?』
黙るリーネ
『何をするつもりだ・・・』
薬漬けか、拷問か・・・
『とある人に逢っていただきます、ニーギ!入れてやれ』
『・・・おのれ、悪しきレーヴァテイルめ、殺しそこね・・・』
もう一匹。いや一人のレーヴァテイルが居た、物凄い眼光でこちらを見ている・・・しかしその面影は、間違えようが無い。
『そんな・・・そんなはずは・・・』
『あなたの兄上の子です、レーヴァテイルとの子は男の場合、人間に限りなく近い存在として生まれます、そして女の場合そのままレーヴァテイルとして生まれます・・・ですから彼女は生きていた、父親と母親を失っても』
『そんな事があるはずが無い!!!』

『事実です』 簡潔に否定を伝える
未だにニーギより小さいレーヴァテイルはリーネを睨んでいる
『怨んでいるのか、母親を殺した私を・・・私がレーヴァテイルを憎むように・・・はは、道化だな、私は』
『どうするかは、二人で話して決めてください、では、これで』
部屋を出る五島とニーギ
『・・・ニーギ、私は『ヒドイ』、な』
『キュ・・・そんな事ないよ、大丈夫』
『少しだけ・・・抱かせてくれ』
『うん・・・』


数日後の帝都の新聞にはこう書かれていた
『十年ぶりの和解成る!』
海軍省の発表によると生き別れの二人の親族が錯誤を越えて和解し、手をとる姿を現地の海軍武官が報告した
今回の件によって帝國の提唱する大陸での差別の撤廃と融和は大いに推進せらる誘発剤と・・・


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